いよいよスタート。“頑張る”ではなく“楽しむ”。
そして迎えた翌朝5:00。100kmのスタートに出場する山本と小田が会場入りします。少し眠そうですが、昨夜のお酒はすっかり抜けている様子。100kmという壮大な距離のレースに向けて準備はばっちりです。
まだ真っ暗な午前6:00。勇ましい太鼓の音とともに100Kの猛者達がつぎつぎスタートしていきます。山本と小田は600人を超える参加者の中で、真ん中くらいのポジションから出走。制限時間は翌日の14:00という長丁場です。
安田は、出場する50kmのスタートまであと3時間あります。山本と小田のスタートを見送ったくらいからだいぶ口数が減ってきた様子。もしかして緊張してる?
と思いきや、「お腹空きました。いい喫茶店見つけたんで、モーニングいきません!?」とのこと。どうやら、彼女はとことんこの旅を楽しむつもりのようです。
安田は、トレイルランレースの経験は少ない。レース経験は、今年4月の「KOBE TRAIL 2025(21km)」と「The 4100D マウンテントレイル in 野沢温泉(37km)」。 いってみれば、まだまだヒヨコです。
普段は月に1、2回山へ行き、20キロくらい走っているといいます。そんな安田は、キツいことで有名な「FTR」を完走することができるのか? 経験値や走力的には、完走は五分五分といったところでしょう。
安田が参加する50Kはエイドが4つと充実しているものの、累積標高は2985mだから、なかなかにタフなレースといえます。関門も3ヵ所あり、制限時間も12時間と割とタイトで、フィジカルとメンタルの両方が試されるコースです。
スタートまであと1時間。普通なら緊張でソワソワするはずが、安田は体力温存のため車の後部座席で爆睡。この大物っぷりが吉と出るか、凶と出るか。まずは序盤のレース模様を覗いてみましょう。
いよいよスタート直前。極端に口数が減る安田。期待と緊張が入り交じったいい表情です。
「ここまで来たら、思いっきり楽しんできます!」と、元気よくスタート。朝日に輝く武甲山の麓を続々と選手達が駆け抜けていきます。いよいよ安田の挑戦のはじまりです。
12km先の第1エイドである国際釣場に、安田は10:45に到着。エイドがとにかくアットホームな雰囲気なのも「FTR」の特徴のひとつです。トイレ前には長蛇の列ができていましたが、その選手達に「トイレ待ちでパン食べたら〜?」と、わざわざトレイにのせて提供してくれています。
安田はとくにお腹も減っていないということでバナナと大福をパクリ。水もほとんど消費していないといいます。
「まだウォーミングアップな感じですね」
ここまで12km走ってきたとは思えない涼しい顔。たしかに、ウェアもドライなままで、安田の余力がまだまだありそう。いずれにしてもレースの雰囲気に飲まれず自分のペースを守れていて、いい出だしです。
この50Kには2つの山場があります。そのひとつめが第1エイドを過ぎたあたりから始まる芦ヶ久保登山口から大野峠までの険しい登り。わずか3km弱の距離で500m近く標高を上げなければなりません。
大野峠を超え、下りに入ったところに位置する正丸峠付近で待ち構えていると、安田が軽快に駆け下りてきます。ここから第2エイドである正丸駅までは約2km。
正丸駅エイドでは、おにぎりでエネルギーをチャージ。
「やっぱりパンよりお米のほうが力が出る気がします。欲を言えばフルーツあるとうれしいなあ」
関門30分前。そろそろ出発したほうがいい時間ですが、安田は焦りを見せません。乾燥した唇を、ザックに忍ばせたリップクリームで整えるゆとりもあります。
「疲れたら口角あげるといいらしいんですよ。きつくなったら、酔っ払った山本さんでも思い出して頑張ります! ちょっと巻き返さないとですよね。2時間半で次のエイド目指します!」
腕に巻かれた〈カロス(COROS)〉のランニングウォッチで、自分のいまのペースを把握しながらレースプランを考えているようでした。