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尾花大輔と甲斐一彦が語る都市型機能服の過去・現在・未来。

Featuring MHW MOUNTAIN HARDWEAR SPECIALLY FOR N.HOOLYWOOD

尾花大輔と甲斐一彦が語る都市型機能服の過去・現在・未来。

〈MHW〉というコレクション名で尾花大輔が〈マウンテンハードウェア(MOUNTAIN HARDWEAR)〉をデザインする」というニュースが流れてきたのはもう3年も前のこと。“アウトドア”や“スポーツ”というキーワードがファッションと密接な関係を築きはじめた頃でした。いまでこそ“都市型機能服”と呼ばれるタウンユースに特化した機能的なウェアが当たり前のようにショップに並んでいますが、〈N.ハリウッド(N.HOOLYWOOD)〉のデザイナーである尾花さんは当時どのような想いで〈MHW〉を手がけたのでしょうか。そして、シーズンを重ねていく上で得られたものとは? 今年の秋冬で6シーズン目となり、ここでひとつの締め括りを迎える〈MHW〉。このプロジェクトがスタートするきっかけをつくった「バンブーシュート」の甲斐一彦さんと共に、ファッションとアウトドアの関係性についてとことん語ってもらいました。

  • Photo_Shinji Serizawa
  • Text_Yuichiro Tsuji
  • Edit_Yosuke Ishii
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尾花大輔

数々の古着屋にてマネージャーやバイヤーを務めたあと、2001年に自身のブランド〈N.ハリウッド〉を設立。その翌年に初のコレクションを東京にて発表。2011年春夏よりコレクション発表の場をニューヨークへと移している。〈MHW MOUNTAIN HARDWEAR SPECIALLY FOR N.HOOLYWOOD〉を2015年より始動。

甲斐一彦

中目黒にあるセレクトショップ「バンブーシュート」のディレクター。アウトドアファッションに深く精通し、昔から機能的なウェアとファッションの融合を提案。これまでにさまざまなブランド同士のコラボレートを仕掛けてきた。ちなみに尾花さんとは旧知の仲。

「大ちゃんならどうするの?」という一言から生まれたコレクション。

はじめに、〈MHW〉が立ち上がることになった経緯を教えてください。

尾花はじめはここにいる甲斐くんに連絡をもらったんです。「〈マウンテンハードウェア〉が創業20周年の節目にインパクトのあるコラボレートをしてみたいって言っている」と。

甲斐ぼくの先輩が前に、とあるアウトドアブランドと国内のブランドをコラボレートさせて、それがすごく反響があったみたいなんです。それで節目を迎える年に大きな反応を得られるものを〈マウンテンハードウェア〉でやりたいということで、ぼくのところに話がきて、「まずは大ちゃんに相談だな」と思って連絡したんです。

真っ先に尾花さんが浮かんだんですか?

甲斐ある海外メゾン系のブランドとのコラボを<マウンテンハードウェア>側から出来ないかと言われて。それで「どうしよう?」と思ったので、まずは大ちゃんに、と(笑)。

尾花一度、我々だけで会ってお話をしましょうということになり、〈マウンテンハードウェア〉の方と甲斐くんがうちの事務所に来てくれて。「具体的にどんなことをされたいんですか?」と伺ったんです。

なるほど。

尾花そしたら甲斐くんが「大ちゃんならどうするの?」っていきなり聞いてきたんです(笑)。

矛先を変えられたわけですね。

尾花そこで、「ぼくだったらこう〜する」というお話をさせて頂きました。まさかの全員一致で「それでいきましょう」ということとなり、そのままぼくが〈マウンテンハードウェア〉さんと一緒にコラボレートすることになったんです。

甲斐実は大ちゃんには前にも一度、別のアウトドアブランドでコラボレートをお願いしていて。そのときに自分の想像を超えるものができたし、たしか昔〈マウンテンハードウェア〉を着ていた記憶があって。それで聞いてみたんです。

話を振られて、どんなことを思いましたか?

尾花そこまで奥深く掘ったことはなかったけど、好きなブランドではあったので、「コンセプトブランドとしての在り方をアウトドアブランドに」という提案をさせてもらいました。とにかく、〈マウンテンハードウェア〉の多岐にわたる良いコンセプト、ディテールをエディットしたらいいんじゃないかなと思ったんです。そこからコレクションのネーミングや世界観などをまとめてブランディングするのは、ビジョンが明確な分、いつになく早く進行できました。

甲斐懐かしいね、もうだいぶ前の話の様な気がするね。

今回が最後のコレクションで、6シーズン目になりますね。

甲斐準備期間も含めるともう5年くらいは経ってるよね。

尾花そうだね、それくらいだね。アウトドアのプロダクトはその特性からすごく厳しい管理のもとでつくられているので、我々が普段デザインしている服よりも動き出しが早いんです。だから、スケジュールの部分でも「これ大丈夫かな?」って思いながらスタートしたのを覚えている。結果的には、スタッフの方々に助けられて、驚くほどクオリティーの高いものが初回から発表できましたね。

引き算をしながら街着としてのリアルを追求。

そもそもおふたりは〈マウンテンハードウェア〉に対してどんな特徴や魅力を感じていますか?

尾花すごい大人っぽい印象はありましたね。派手さというよりも、落ち着きのある感じ。アルパインクライミングに特化したブランドという意識はあまりなくて、ファッション的な意味合いで好きでした。あと、“エルコマンドキルト”っていうスカートみたいなギアがあって、その印象が強いですね。もう10年以上も前かな? いわゆるファッションリーダーと呼ばれる人たちがコレを穿いていた印象が強いです。

甲斐チャラチャラしてない硬派なブランドですよね。山登るなら〈マウンテンハードウェア〉だなっていう。山で見かけるといちばんかっこいい。ガイドさんがよく着ているからなのかもしれないですけど、頼り甲斐があるように見えるんです。

あとプロダクトがわかりやすいんですよ。速乾性のあるTシャツをつくるのが早かったし、“DryQ Elite”というオリジナルの防水透湿生地システムをいち早く紹介したのもこのブランドでした。とにかく新しいことをいつもやっていて、それでいていい意味で派手さがない。

甲斐ぼくは“キャニオンシャツ”っていうアイテムが大好きで、大ちゃんやってくれないかな? と思っていたんだけど。

尾花それもっと早く言ってよ(笑)そうすれば差し込んでたのに。

甲斐言うの忘れてたよ(笑)。

尾花そのシャツの存在は気がつかなかったな。いろんなアーカイブを掘り下げていったんだけどね。甲斐くんはやっぱりリアルにアウトドア環境で使っているからブランドの良さを理解してるね。とはいえ、ぼくが求めていたのはファッションとリアルなギアへの落とし込みだったから、必要な機能以外、極力そぎ落とすところに力を注いでたかな。

はじめはいろんなアーカイブをご覧になられてデザインの着想を得ていったんですか?

尾花そうですね。もともと古着でも持っているものがあったので。基本的にアウトドアとしての要素は最低限に絞って、その中で〈マウンテンハードウェア〉らしさを出したかったんです。インラインにおける特徴的なディテールの説明を受けてから、それを強調しつつ、余計なものを省く作業というか。

たしかに、〈MHW〉のコレクションを拝見すると、とにかくミニマルですよね。

尾花インラインのアイテムでも普通に街着として着れるんですよ。色変えするだけでも十分じゃないかなって思ったくらい。とはいえ、その分コストもかかるし、タウンユースであればオーバースペックだったので、引き算をしながら街着としてのリアルを追求していきました。

そうした考えがデザインのコンセプトにあったと。

尾花〈マウンテンハードウェア〉らしいカッティングやディテールを使って、いままでになかった都会的な服に置き換えること。あとは〈マウンテンハードウェア〉独自の機能的な生地と、その効果を発揮する縫製技術を使って新しいものをつくること。そのふたつを支軸に考えました。

加えて、ワンシーズン8型以内でコレクションを構成することも重要なコンセプトでした。山を登るときには、いろいろと装備が必要で、ウェアやリュックの中に、色々な機能が要求されますが、都会をサバイブするには、機能が多すぎる。生活する上で、ごく限られたピースで全てが完結するようなコレクションにしたかったので。

尾花要するにマウンテンハードウェアのコレクションが備えている機能やディテールを、必要最低限まで絞り込んだのがこの〈MHW〉なんです。だからコレクションネームも、マウンテンハードウェアの頭文字を(Mountain Hard Wear)コアと見立てて、アルファベット3文字で構成しました。

とあるインタビューで拝見したんですが、〈MHW〉のデザインを手がける上でのヒントになったのが、冬のニューヨークでスーツの上にダウンジャケットを羽織っている人がいて、それに違和感を覚えた、という記事を読みました。

尾花前にウォール街で〈N.ハリウッド〉のショーをやったときですね。立派なデイトレーダーみたいな人がスーツを着ていたんですけど、その上に派手でちょっとゴツ目のダウンジャケットを羽織っていたんです。それもアメカジらしいのかな? なんて思ったりしたんですけど、やっぱりスーツを着るならもっと均整のとれたモダンなアイテムのほうがいいんじゃないかなと。

それは〈MHW〉がはじまる前のことなんですか?

尾花そうですね。そんなことを思っていたから色もシンプルにして、ブラックを軸にしたコレクションにしたんです。本当はアウトドア系のプロダクトに黒を使うのは機能的によくないみたいなんですが、あえてそうしました。

プロジェクトが発足したのは約5年前というお話がありましたが、当時はいわゆる機能的な服というのがファッションのデザインに取り入れられはじめた時期だったと思います。そういったトレンドの兆しのようなものは感じていらっしゃいましたか?

尾花もしかしたら無意識のうちに感じていたのかもしれませんね。意識的ではなかったです。5年前といえば、〈N.ハリウッド〉のコレクションでも、着やすいものとか、カンファタブルなものに移行していた頃なので。自然に時代とうまいこと融合していたのかと思いますね。

尾花でも、その前からとあるアウトドアブランドがデザイン性の高い都会的な服をつくっているのは知っていました。“アウトドアブランド”というのが前面に出ていたので、〈MHW〉はそうじゃないものを作りたいなと思っていました。

甲斐ちょうどいい服はやっぱり当時なかったよね。アウトドアの服を街で着ても、やっぱりそれ用につくられているわけじゃないから、ただラフなだけになっちゃうというか。とはいえ、その逆の服もないわけで。それに対する歯がゆさはずっと感じていました。だから黒いアウトドアウェアだけを集めて「バンブーシュート」でやろうかなとか、考えていた時期もありました。

実際に〈MHW〉の取り扱いをスタートして、お客さんの反応などはいかがしたか?

甲斐アウトドアが好きな子は反応せず、むしろぼくらと同世代の人たちに受け入れられていました。ぼくらはいろんなものをごちゃ混ぜにして着るのが好きだから、そういうことなんだと思います。

ぼくらとアウトドアブランドが一緒にやるということは意味のあること。

今季はロッククライミングから着想を得てコレクションを展開されているんですよね。都会的とはいえ、デザインにアウトドア色を色濃く感じます。

尾花イメージしたのは、家の中でも着れて、ふらっと散歩するのにもちょうどいい服なんです。〈マウンテンハードウェア〉のなかでも、ロッククライミングだけじゃなくて、ボルダリングも盛んになっているみたいなんですよ。どちらのクライミングウェアも、そもそもの部分で余計なものがないんですよ。だから〈MHW〉の今期のコンセプトにも絡むような気がしました。

実際にウェアの見所はどんなところにありますか?

〈MHW〉ブルゾン ¥59,000+TAX

〈MHW〉ブルゾン ¥37,000+TAX

尾花この止水テープが表にでているウェアが大きな特徴ですかね。実は数年前にこれに似たものをつくろうとしたことがあって。でも納得がいかなくて頓挫してしまったんですけど、もう一度やってみたらどうなるだろう? ということで、再度チャレンジしたんです。

通常であれば裏地に張るはずの止水テープを表に貼るっていうのは〈マウンテンハードウェア〉としてはメジャーなディテールなんですけど、これよりもハードな生地に使われているんです。

柔らかい生地には向かないということですか?

尾花そうですね。熱で貼着するから、柔らかいと波打ちしてしまうんです。最初はそれで頓挫してしまって。でも、今回実験を重ねていただいて、柔らかい生地でもピシッと綺麗に貼ることができました。

甲斐シームテープが貼ってあると防水性が高まるんですけど、外に貼ることで耐水圧も上がるみたいですね。

尾花こういった特殊生地やシームテープ使いの縫製の技術は、我々の背景では絶対にコストが合いませんからね。でもアウトドアブランドの素晴らしいことは、機能に特化してものづくりをしているところ。そういう意味では、ぼくらと大手アウトドアブランドが一緒にやるということは、お互い補えない部分を共有できる、意味のあることなんじゃないかと思います。

甲斐さんはご覧になられて、気になるアイテムはございますか?

甲斐ぼくはパンツがいいなと思ったのと、あとこのバックはなんか大ちゃんっぽいよね。

〈MHW〉トップス ¥19,000、パンツ ¥17,000+TAX

〈MHW〉パンツ ¥23,000+TAX

左から〈MHW〉バック ¥13,000+TAX、¥6,500+TAX

尾花(右のバック)これはチョークバックからインスパイアされてデザインしたんです。荷物をホイホイ入れられるのっていいんじゃないかと思って。

甲斐チョークバックって、むかし流行ったよね。すごい便利だった。でもかっこよく使っている人は見たことなかったな。

尾花派手なチョークバックをタウンユースしている人いたよね。

甲斐当時、なんとかならないかな? って思ってたもん。だからこのアイテムを見て、大ちゃんはやっぱりファッションの人だなって。アウトドアの人がつくると、このデザインにはならないから。

究極の機能服ができたらおもしろい。

いまでこそ当たり前になった都市型機能服ですが、「ファッション × 機能」という掛け算の方式は今後も継続されると思いますか?

尾花このプロジェクトをやっていく中で、マーケットやニーズが変化しているのは感じてきました。ある程度行き渡ったというか、ひとつのベーシックを作った実感はあります。雨具に近いというか、折りたたみ傘がないと不便だなって思うのと同じような感覚というか。だからこういうプロダクトが好きな人ってずっといるんじゃないですかね。ただ、良くも悪くも、似たようなアイテムがこれからもっと増えてくると思うんです。だからこれをベースにまた異なるアイデアを持ってきて、新しい何かをつくるのはアリだと思いますね。

甲斐やっぱり着やすい、使いやすいっていうのはいいよね。さっきも話したようにアウトドアは野暮ったいから。街で着るには難易度が高いと思うんです。

尾花もしこれが実現したらアウトドアブランド自体が絶滅してしまうかもしれないけど、アウター、インナー、パンツだけで真夏も真冬も着れちゃう究極の機能服ができたらおもしろいよね。あとは洗わずに平気でいられる服とか、絶対に破れない服とか。もうアパレルっていうよりは、ひとつのガジェットのような服。

いろんなものの価値が大きく変化しそうですね。

尾花ファッションとか、アウトドアとか、そういう概念が“無”になるくらい究極の機能服みたいなのをアウトドアブランドが開発したらおもしろいなと思いますね。

甲斐まぁでも、リアルな話をするとしたら、アウトドアの服ってまだまだ脆い。時間が経つとバックパックの中身が臭くなったりとか、マウンテンパーカの裏が剥がれてきたりとか、アンダーウェアも毛玉ができたりとか、そういうことが起こるので、耐久性が上がってくれるとうれしいですよね。

むかしに比べるといまは耐久性も上がってはいるようですが、とはいえまだまだ伸びる余地はあるようです。

甲斐ぼくは機能っていうよりも、やっぱり耐久性のほうが気になっちゃう。やっぱり好きなものはずっと長く着ていたいから。

尾花サンフランシスコにある〈マウンテンハードウェア〉の本社に行ったときに、世界中からリペアの依頼が集まっていて、穴が空いた服が山積みになっていたんですよね。それだけこのブランドを愛する人たちがいることの証明であると同時に、ひとつのものを愛してやまない証拠でもある。やっぱりそれだけ便利だから着ているんだな、と。もう感覚的に道具に近いんだろうね。

最後に、今シーズンで〈MHW〉は一旦お休みに入るわけですが、もし今後も依頼があれば、今回のようなプロジェクトに取り組んでみたいと思いますか?

尾花自分のスタイルと合わないブランドとのコラボレーションは基本やっていません。見てくれている人達にリアルさを共有してもらいたいので。それでいくと、〈マウンテンハードウェア〉は、単純に自分にとってリアリティがあって、クールな服をつくっているイメージがあったので必然性があったと思います。もし、またお声がけいただいたら、是非、新たな形で参加させて頂きたいですね。

尾花さんのYouTubeチャンネル「#087』では、甲斐さんをゲストに招いた対談が全3編にわたって公開されています。二人が出会った懐かしの90年代や、当時のファッションを取り巻くカルチャーなど、興味深い話が盛りだくさん。今回の記事と合わせてどうぞ。

Columbia Sportswear Japan

電話:0120-193-803
www.mountainhardwear.jp/

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