第二講 今野智弘
「80年代ならではのデニムの色落ちが気になる」
今野ぼくのひとつめは〈ポロ・ラルフ・ローレン〉のブルゾンです。最近だと同タイプのカラーものを置いてる古着屋さんも多いと思うのですが、ぼく的にはこのデニムが気になって。80sデニムならではの色落ち具合というか。
藤原ジッパーも古いタイプですね。
今野そう。で、気にして見ていたら胸の刺繍がないモデルも見つけて。
栗原これは珍しい。
山田確かに。全然ないと思うよ。
今野しかも刺繍なしを買おうとしたら横にこの近年モデルがあったので同時に購入したんですね。このベージュは軍ものっぽいアレンジがしてあって。脇下にマチがあり、デニムの方にはないカフスも付いてるんですね。
阿部ああ、ホントだ。
今野このデニムをオリジナルと見るなら、この近年ものへと変遷していった流れがちょっと面白いなと。そんなに探すのも難しくないと思うんですけど。
阿部確かにまだ全然ありそうだよね。でも、何でいまこのタイミングでこのモデルに興味を持ったの?
今野これのカラーものを着ている若いお客さんがウチの店にもちょくちょく来るようになって。しかもそのお客さんが着ていたのがピンクで、ちょっと50sぽくも見えるし、何か新鮮だなって。それから気にして見ていたらデニムに興味が出てきて。
阿部これっていま現在だといくらくらいするんですか?
山田ウチは付けてもまだ9800円とかだけど。アメリカでもデニムだけ倍くらい付いてるもんね。でも、何でこれがいまになって流行り出したんだろ?
栗原おじカジ(*おじさん風のカジュアルファッション)みたいな流れじゃないですかね、たぶん。
藤原何年か前に友人が〈ポロ・ラルフローレン〉ばかりごっそり買ってきたことがあって、その当時はこれ(ブルゾン)だけ売れないって言ってたぐらいなのに、ここ数年で一気にキましたよね。
今野服づくりの観点から言うと、デニムでこのシャーリング仕様のリブが出てくるのってほとんどが80年代前後のディテールだと思うんですよ。70年代だとリブはリブで分けてるじゃないですか。それが良いとか悪いとかではなく、単純に80年代以降にしかないディテールのひとつとして興味を持った、っていうのもあって。
阿部80年代ものってホントに流行ってるんだね。
栗原まあ、ハードロックカフェのTシャツが売れる時代ですからね。
「ショート丈と変則的なポケットに惹かれる」
今野2つめはショート丈のフィッシングジャケットです。奥のバブアーは現行でも展開している「スペイジャケット」、手前の2着が〈レッドヘッド〉のもので’40s。右側のベージュの方はまだ見つかると思うんですけど、特に左側の丈が短いタイプが全然出てこなくて。
山田でも、これ着るの?
今野はい。短い方はファティーグの上にベスト感覚で重ね着してますね。まあ、ベストも好きで他のブランドのものも古着で結構持っていますが、個人的にはベストより着やすいかなと。今日着てきたスペイジャケットも同じくですが。
阿部この丈の短さはフィッシングジャケットならではだよね。
今野ですね。ウェーダーとか履いて水の中に入っても濡れないようにつくられたものなんだと思います。でも、この頃のハンティングとかフィッシングって兼用みたいなものも少なくないみたいで。
藤原タグにも【Fish Hunt Tex】ってあるし、魚も鴨も両方描かれてますね。
今野大半はハンティングブランドがフィッシング向けのウエアも作っていたってことなんでしょうけど。
阿部なるほど。でも、ハンティングにしろ、フィッシングにしろ、この変則的なポケットって何か惹かれるよね。
今野そうですね。ただ、当時からシーンを選ぶウエアですし、売値がお店によってまちまちってところも、このカテゴリーのひとつの特徴かなと。
阿部確かに。「ベルベルジン」だとハンティングとかフィッシングカテゴリーって結構安めの印象ですけど。
山田売れないんだよね、ウチのお客さんには。
栗原うちは古くて変わったディテールのもので3万円くらいですかね。この辺は昔から関西のほうが人気があるイメージです。
山田そうだよね。そのベージュの方はどこで手に入れたの?
今野町田にある「トレディーチ」って古着屋です。確か「ベルベルジン」にもちょくちょく通っていたコがやってるお店で。
栗原もともと柏の「エウーゴ」にいた人で。
山田ああ、飯酒盃(いさはい)君か。彼はオシャレだもんね。その短い方は?
今野確か僕の大好きなLAのタカさんのところですね。
山田ああ、タカちゃんね。ちょうど良かったよ、『古着サミット』にタカちゃん登場させたかったから(笑)
一同(笑)
編集部どなたなんですか?
山田まあ、そのうち連れてきますよ(笑)
「人の手が入っているのも、古着ならではで悪くないかって」
今野3つめは〈ヘインズ〉の「ウインドシールドパーカ」です。「ベルベルジン」で購入しました。当初はダメージ加減に惹かれて手に入れたんですが、実際着てみたらホントにボロボロで。幸い内側のサーマルまでダメージが進行していなかったので、神戸の「シカリ(ciicali)」に頼んでリペアしてもらいました。
山田あのままでも格好良かったけどね。
今野そうなんですけど、さすがに洗えないほどのダメージだったので。
阿部これ直すのも大変だよね。
藤原これは大変ですね。ちゃんと一旦サーマルを剥がしてからスウェット部分だけを補修しているので。
阿部えーホントだ。
今野直しから帰ってきて見たら、人の手が入った事でますます愛着がわきました。
栗原いや、最初に見た時は今野くんが作ったものかなって思いましたもん。
今野ああ、そう。サイズも46と大きめなので今の感覚で着られるってのもあって。タタキの部分が意外とフラットに仕上がっているので、実際に着ていてもゴワつかないですし。
栗原リブの部分の直しとかもすごく良くできてますもんね。
山田まあ、ボディ自体は’60sなんだけど、ワン・オブ・ア・カインドだったよね。古着ならではの。
栗原46なんてまず出てこないですし、裏サーマルだったからこそ、ボロボロながらも残っていたワケで。いろいろな条件が重なった結果なんでしょうね。
「初見のレアモデル、90年代製の珍ピオン」
今野ぼくの最後は珍品〈チャンピオン〉、「珍ピオン」ですね。
山田ネイビーのはウチで買ってくれたんだけど、とにかく珍しいよね。ボディはリバースウィーブじゃないのに、タグにはリバースウィーブ表記があって。アームもラグランスリーブだし、サイドのガゼットもなくて。
栗原逆はたまに見ますけどね。リバースウィーブなのにリバースウィーブ用のタグじゃないものが付いてる。
藤原確かにこれに珍しいと思いますよ。ぼくも初見でした。
阿部イレギュラーではないんですか?
山田いや、イレギュラーじゃないと思うな。同年代のリバースウィーブ以外の〈チャンピオン〉社製スウェットでも普通は丸胴でサイドにステッチが入った(前身頃と後身頃を両脇で縫い合わせている)ものなんて見たことないし。あるとしたらイレギュラーではなく、サンプルとかかなと。
栗原なるほど。
今野このグレーの方も珍しいですよね。同じようなモックネックタイプでサイドにポケットが付いてるモデルは何度か見たことあるんですけど、この胸の切り返しとかまず見たことなくて。
阿部これは何なんだろうね。フットボールとかなのかな?
今野フットボール風ではありますよね。90年代製なんですが、詳細は全くわからないというのが正直なところで。
阿部高いものではないの?
今野そうですね。確か7800円とかだったかと。「ベルベルジン」ってとにかく〈チャンピオン〉のスウェットがたくさんあるじゃないですか? あのラックを片っ端から見ていくと、ちょっとした微差みたいものが見えてきて、その微差に確証を持ちたいからまた何枚も買ってしまう(笑)。今回持ってきたもの以外でも〈チャンピオン〉のスウェットに関してはかなりの量が手元にありますね。
山田そのグレーのやつもLAのタカちゃんのところで出てきたヤツだよ。
編集部またタカちゃん出てきましたね。一体何者なんですか?(笑)
と、前半はここまで。この辺りから山田さんはほろ酔い加減。果たして本クロストークは無事に終わりを迎えることができるのでしょうか? 後半も近日中にはアップする予定ですので、しばしお待ちを!