第一講 山田和俊
「ボーダーTはピッチが太いものほど人気も市場も高騰傾向にある」
山田ホントはこういうところに私物を出したくないんだよねえ。
山田「古着サミット」自体には参加してみたいとは思っていたけど、自分がオススメするカテゴリーとかは一切教えたくなくて。
山田そうだよね。まあ、一応何個か持ってきてはみたけど。
山田ひとつめのカテゴリーはボーダーTですね。4枚とも60年代のもの。〈ジャンセン〉(1910年にアメリカ西海岸で創業した老舗ニットブランド。創業当初はスイムウエアを中心に展開していたことからタグには水着を着た女性の肖像が描かれる)の太ボーダーは有名だと思うけど。とはいえ、個人的に〈ジャンセン〉のものは袖が長いからあまり好きじゃなくて。
栗原パッと見だと60年代のものとは思えないですよね。〈ギャップ〉とか80年代くらいのものっぽい配色。
藤原いやいや、余裕でしますよ。ちょっと安く言ったなと思ったくらい(笑)
阿部そうなんだ、知らなかった。それにしても山田さんにはネイビーよりも黒の印象のが強いんだけどな。
今野そもそもボーダーを集めるきっかけが何かあったんですか?
山田集めてるって感覚はないかな。単に自分に合ったサイズのものが何枚か揃ったタイミングだったので。
藤原これなら3万9800円で出しても即売れますよ。
山田いやいや、3万9800円だったらオレは手放したくないかな。〈ジャンセン〉だったらまだしも〈シアーズ〉はまず出てこないからね。
栗原白×黒だけじゃなく、ヴィンテージのワイドボーダー自体がまず出てこないですよね。出てきても年間2、3枚って感じなので。
阿部そうなんだね。年代によってピッチ(ボーダーの間隔)の傾向とかってあるんですか?
山田それは特にないかな。ただ、ピッチが太いものほど人気も市場価格も高い傾向はあると思う。
阿部中央にネイビー1本だけのやつとか、どこかのブランドがつくっていても全く違和感ないですよね。
山田それとこの白×ネイビーの中太ボーダーもネイビーの部分にステッチみたいな織柄が入っていて、普通のボーダーとはまた違うんだよね。
阿部ネイビーや黒みたいなダークトーンの方が人気も相場も高いってことですね。
今野それにヴィンテージならではの「焼け」も魅力ですよね。最近のものだと染料の質自体が良くなってるから、こういう絶妙な焼け感が出せないんですよね。
「まだ全貌が掴みきれていない、オールド・バナリパ。奥が深いんです」
80’s BANANA REPUBLIC T-SHIRT
山田次は〈バナナ リパブリック〉の80年代製プリントT。
山田全貌はまだ掴めていなんだけど、何シーズンかに分かれてリリースされていたみたい。
藤原このカラープリントは昔よく見た気がするけど、モノクロの方はあまり記憶にないですね。
山田いや、カラーも見たことないはずだよ。ぼくが学生時分には当時の現行品として普通に売っていたものなんだけど(〈バナナ リパブリック〉はメル・ジーグラーによって’78年に設立され、当時流行していたサファリスタイルを当初からブランドカラーのひとつとしていた)。バナリパ自体ちょっとしたブームがあったじゃない、渋カジのタイミングで?
山田そうそう。じつは今日持ってきたものって、あの頃のひとつ前の世代のものなんだよ。あのタイミングで流行ったやつは胸ポケットのプリントがブランドネームロゴなんだけど、それ以前はシンボルマーク単体のプリントだったみたいで。
山田サファリシリーズのスタートは70年代後半みたいなんだけど、Tシャツが出てきたのは80年代に入ってからなんじゃないかな。いまのところ何パターンあるか定かじゃないから、とりあえずいまは見つけたら買うようにしている。
山田うーん。1万5000円ぐらいは付けてもいいのかな。まあ売らないけどね。集め始めて1年ぐらい経つけど、まだまだ奥が深そうなので。
山田以前、「ベルベルジン」20周年のタイミングに『アリス・イン・ワンダーランド』のシリーズTを出したんだけど、それがいまとなっては1枚数万円とかしちゃうワケで。自分的には面白くないんだよね(笑)。それならまだ誰も掘っていないようなシリーズものを集めてみようと思った内のひとつがバナリパで。
阿部あれ(アリスシリーズ)は何であんなに高騰したの?
今野このシリーズは違いますがおそらくディズニーも同じ題材で映画化して有名になっているのと、あれほどのバリエーションがあるものは他になかったからかと。
今野特にハンプティダンプティのプリントはあの20周年以来、ぼくも見たことないから、もともとの玉数も少ないものなんでしょうね。
山田「ベルベルジン」20周年セールの徹夜組のトップ2はアリスシリーズ狙いだったみたいだし、前々から探している人はいたみたいね。これまでもちょっとずつ小出しにはしていたけど。まさかあそこまで高騰するとは思ってもみなかったよ。
「しばらくはこのシリーズを徹底的に掘っていこうと。だから教えたくなかったんだけどね(笑)」
90’s Lockway 88 SuperNatural Productions T-SHIRT
山田次は、ちょっと前にもともと本屋で売られていた「Largely Literary」っていうアーティストシリーズを「ベルベルジン」で放出したんだけど、それ以降に気になり始めた同じくアーティスト系のシリーズもの。おそらくこのイラストを描いた作者の直筆で〈Lockway 88 SuperNatural Productions〉ってプリントされてるんだけど、いくら検索してもヒットしなくて。
山田よくプリントを読むと「Artist Series」って書かれていて、しかもナンバリングもある。おそらく#1とプリントされたものがレオナルド・ダ・ヴィンチだと思うんだよね。
山田まず最初の3枚を1人のディーラーから手に入れて、ナンバリングがいくつまであるのか知りたかったから、周りのバイヤーとかに見つけたら声がけしてくれるようにお願いしていたら、後から2枚ほど出てきて。#2がゴーギャン、#3がゴッホ、#4がピカソってモチーフから徐々に推測していったんだけど、ひとつのナンバリングに1枚ってワケじゃなさそうで。
山田#1がダ・ヴィンチなのは間違いないとは思うんだけど、すでに絵柄が違う2種類の#1があるんだよね(笑)
今野もしかすると2パターンだけじゃなく、3とか4パターンある可能性もあるってことですよね?
山田そう。とりあえず、しばらくはこのシリーズを徹底的に掘ってみようと考えてる。
「すでに50枚以上は集めたジャズ&ブルースT」
90’s JAZZ & BLUES T-SHIRT
山田最後はジャズ&ブルースTのシリーズものです。これはもう50枚以上集めたかな。「Gear Inc.」という当初はアトランタの会社がリリースしていたんだけど、いまはニューオリンズに移転したみたい。
栗原最近もつくってます? というのも、アメリカ製じゃない近年ものもたまに出てくるので。
山田でも、まだ手の届くレベル。だからこれも教えたくなかったんだよ。
阿部山田さんがこういうTシャツを着るのはイメージないですね。
山田白ボディのは着てるよ。白の方がちょっと珍しいしね。
栗原おそらく当時はロックTと同様、レコードショップとかで売られていたものだと思うんですけど、白ボディ自体が圧倒的に少なくて、出てきても黒ばかりで。
栗原いや、ぼくも山田さんの依頼があって、気にして見ているので。
栗原出てきてもTシャツを専門に扱っているような若いディーラーは強気の価格を付けてくるので。
山田そうね。もはや音楽系に関わらず、プリント自体がデカイものは最近総じて高騰しちゃってるもんね。
栗原そうですね。さらに音楽系ともなるとディーラー自身が知らないアーティストでも強気に付けてきますし。
山田じつは持っていたんだけど手放してしまったレッドベリー(1910年代から’40年代まで活躍したブルースミュージシャン)かな。カート・コバーンがまさにこのシリーズのレッドベリープリントのロンTを着てる写真があって。カートの熱心なファンだった後輩に譲ってから、じつは一度も出会えてなくて。あ、これやっぱり書かないでね、高くなっちゃうから。