STORY
交通事故によって自らの視力を失うとともに最愛の弟を亡くし、更には警察官の道までも絶たれた主人公の浜中なつめは、ある日、車の接触事故に遭遇、その事故現場で車の中から聞こえた女性の声から誘拐事件が起きていると考え、聴覚、触覚、嗅覚などで感じた手がかりを駆使し事件を追う。やがてそれは「女子高生連続殺人事件」に発展、猟奇殺人犯は真相 に近づこうとするなつめの身にも迫っていく…。
ー 目が見えないという役どころで、色々と大変なことがあったのではないでしょうか?
吉岡:そうですね。演技をするうえで求められる項目が多かったです。目が見えないということ、盲導犬役のパルとお芝居をするということ、そしてアクションのお芝居。この三つが連動しているので大変でした。
ー お話をいただいたときの印象を教えてください。
吉岡:台本を読んだときに思ったのは、物語の筋が一本通っているということでした。目が見えないというハンディを抱えながらも一貫して強い人間であり、正義感を持っているということ、その芯の部分をきちんと表現しないと、なつめというキャラクターがブレてしまうなと思いました。

ー 作品に入る前にどんなことを準備したんですか?
吉岡:クランクインの二ヶ月前から準備が始まったんですけど、まずは目が見えないという表現において、盲導犬と暮らしている方を含め、3名の視覚障害を持つ方に取材をさせていただきました。みなさんに朝起きて夜眠るまでの生活のリズムや実体験を伺い、そのあと台本のストーリーと照らし合わせて、この場面でこの動きは不自然ではないですか?ということを細かく照合していきました。”なつめ“という人間を演じる時に説得力が欲しかったので、みなさんが快く協力してくださったのは本当にありがたかったです。
ー 警察官時代のシーンもありました。
吉岡:警察学校を首席で卒業するという役柄だったので、かっこよく見える動きの指導とかアクションをつけて頂いたり。今回、ご指導いただいた警察官の方はいわゆるベテランの方だったんですが、同年代の女性警察官の方にもお話しを伺いました。
ー こうして伺っていると、かなりたくさんのことを準備してきたんですね。
吉岡:はい。付け焼き刃ではできないことばかりだったので、少しずつ積み重ねていきました。



ー 取材で初めて知ったことはありますか?
吉岡:視覚障害のある方に言われてはっとしたのが「真っ暗な部屋で毎日過ごしてます」ということです。見えないということがどういうことなのか、自分は何も分かっていなかったなと気付きました。このことは劇中でも部屋が真っ暗なままで過ごすというシーンに活かされています。
ー 視覚障害のある役ということで、目の動きについてはかなり考えられたのではないでしょうか。
吉岡:はい。森監督と相談しながら進めていきました。撮影に入る前にはカメラテストの時間も設けられました。スリラーとしての表現で、どのようにするのが適しているのか、どう見せるのが効果的なのかということを監督やカメラマン、スタッフの皆さんと建設的に話すことができて、そのやりとりにはすごく手応えを感じました。
ー 例えばどんな感じなんでしょうか?
吉岡:まずは顔を伏せたり相手と向き合ってない表現はなるべくしないでほしいというお話がありました。やっぱりそれだけで、“見えないようには見える”んですが、映画の表現としては面白くないんじゃないかということで、会話をしているときには相手を見るという形になりました。そして、目の動きに関しては監督がモニターをチェックしてちょっとでも瞳が先に動くと、やり直しというスタイルで撮影していきました。緻密に撮影を重ねていったおかげで、リアルでありながらも映画というエンターテインメントとしても成立させられたんじゃないかなと思います。

ー 盲導犬役の役者犬パルとの話を聞かせてください。
吉岡:パルとの時間はちょっと特殊でした。パルはペットの役ではなく、盲導犬としてアプローチしていくので、普段犬と接する時とは気持ちとしてまず違いました。盲導犬と一緒に過ごされている方が仰っていたのは「可愛いんだけど自分が生きるうえでの不可欠なパートナーで、自分の一部みたいな存在なんです」ということ。私も「かわいいねー!」ってヨシヨシしたり、なるべく一緒に遊んだりしないようにしていました。それでもたまんないときはあるんですけど(笑)。
ー できるだけこらえて。
吉岡:はい。パートナーなんだぞっていう気持ちで過ごすようにしていました。そういえばクランクインする前に、私はアイマスクをしてパルと一緒に歩行練習をしたんですけど、そのときのパルには映画に一緒に出演するっていう気持ちはなかったと思うんです。一緒に走って、散歩しているぞくらいな感じで。パルは盲導犬役をするために訓練されている役者犬なので、普通は障害物があると避けるとか、左歩行をするとか決められたルールをしっかり覚えてきているはずなんですけど、楽しくなっちゃったのか、水たまりにボーンって入っていっちゃったりしました。「わー、パルー!」みたいな(笑)。
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