只者じゃない、すごくかっこいいひとたち。
鎌倉や湘南、藤沢のあたりは、豊かな自然と人々の生活がバランスよく共存し、気持ちのいい空気が流れています。「リトマス」は、そんな場所に拠点を構えながら、日々藍と向かい合う藍染め工房。
セレクトショップ「THE LIBRARY」には、「リトマス」の職人たちがひとつひとつ手で染めた古着が並んでいます。その古着をピックアップしたのは〈セブン・バイ・セブン〉のデザイナーである川上淳也さん。彼が今回の企画の仕掛け人です。
「ぼくが〈セブン・バイ・セブン〉をはじめる前に『リトマス』のお二人と知り合って、只者じゃないというか(笑)、すごいかっこいいひとたちだなと思ったのが最初ですね。確か靴も藍染めのものを履かれていて、手も真っ青になっていたんです」(川上)

川上さんが言う “お二人” とは、「リトマス」をスタートした松井裕二さんと吉川和夫さんのこと。彼らは2000年にこの工房を東京で立ち上げ、2004年に本鵠沼に拠点を移しました。
「もともと世田谷に工房があったんですけど、そこが手狭になって。藍染めは、染めたものを天日に干す作業があるので、日当たりのいい場所を探していたんです。ここは日当たりがいい上に、大家さんの計らいで広い場所にたくさん服を干すことができるんです。それで移ってみたら、生活もしやすくて。なんだかんだもう17年、ここでやってますね」(吉川)
藍甕には神が宿る。
今回、川上さんがピックアップしたのは、アメリカの老舗ブランドによるMADE IN USAのボタンダウンシャツをはじめ、ヴィンテージのシルクシャツ、そして同じくアメリカ製の杢グレーのTシャツです。
「以前、〈セブン・バイ・セブン〉のお店が渋谷にあった時も一緒にイベントをやらせてもらって。それでまたやらせてもらうことになりました。今回はテーマ性を設けて、アイテムを絞り、染めたらさらに表情がよくなるであろうものをピックしました。お二人の手にかかると、本当に服の風合いが増すんです」(川上)
川上さんがそう語るように、染める前と後では、服が放つオーラに明らかな違いがあります。「リトマス」の二人が行う藍染めは、すべて手作業によるもの。そしてケミカルな薬剤は一切使用せず、自然の力を利用して、美しい藍の色を表現しています。

「ぼくらがやっているのは、自然発酵による藍染めで、『灰汁発酵建て(あくはっこうだて)』と呼ばれる薬品を使わない染色方法です。とはいえ、どっちがよくて、どっちが悪いというものでもないと思っています。いまでは薬品を使うことがスタンダードになっているし、ぼくらはそれを批判したりしない。ただ自分たちがいいと思っていることをやっているだけなんです」(吉川)

「リトマス」の藍染めで重要なキーワードとなるのが “発酵”。乾燥させた藍の葉を山積みにして、水を打ちながら3~4ヵ月ほどかけて染料を発酵させた「すくも」と呼ばれる物質が原料になります。甕(かめ)には木の灰を熱湯で解いた灰汁が入っていて、そこに「すくも」や石灰、発酵を促進するための日本酒、小麦ふすまを入れて藍液をつくります。


「藍液を仕込んでから発酵が安定するまでに10日~2週間ほど時間がかかります。古い文献を読むと、『藍甕には神が宿る』って書いてあるんですよ。だから甕を神聖なものとして祀り、手を合わせていたそうなんです。藍液を仕込むのに “建てる” という言葉を用いるのは、時間をかけて発酵をつかさどる微生物にとって居心地のいい環境をつくることだと思っています。発酵がなければ染色する状態に持っていけない。だからそういう感覚や気持ちで藍液と向き合っています」(吉川)
そうしてできた藍液には「体力がある」と吉川さんは続けます。
「藍液は発酵しているもの、つまり生き物なんです。1日1回は液体を混ぜないとダメになってしまうし、同じ甕の染料を使って染めても、朝と夜に染めたのでは別の色に仕上がるほど繊細。一度やると染まる色素の量も減る。つまり体力がなくなってくるんです。でも、染まりが悪くなったからといって、また新たに『すくも』を足すということはできません。だからぼくたちは液の状態に合わせながら、染める色や量を管理しています。昨日は結構染めたから今日は休ませようとか、素材によっても染まり方が変わってきますし、重かったり染まりにくい素材であればあるほど、液にかかる負担は大きくなるので、1日に染められる量も減ってきます。だから、どんなアイテムをどれくらいの色に染めるかというのは、液の状態を見ながら決めているんです」(吉川)

どのタイミングで藍液を建てるか、その建てた液を使ってオーダーがきたアイテムをどう染めていくか、「リトマス」ではスケジュールを緻密に立てながら作業をしています。
「やっぱり中心にあるのはこの藍液なんです。本当に繊細で、暑い時期は液体の温度が上がって発酵が進み、腐敗に向かってしまう。だからこういう時期はたくさん染めないようにしています」(吉川)