ハッとする瞬間をつくるためにやっている。

こちらが、取材時に染めたTシャツ。2回の染色でも見事な藍色に染まっているのが分かります。吉川さん曰く、「これでも天日に干すと色が薄くなるし、色の定着が弱いので洗うとすぐに色落ちしてしまいます。だから染め重ねる作業が必要になってくるんです」とのこと。

〈SEVEN BY SEVEN × LITMUS〉シルクシャツ ¥46,200



〈SEVEN BY SEVEN × LITMUS〉長袖シャツ 各¥46,200
そして今回、「リトマス」が〈セブン・バイ・セブン〉のために染めたのが、こちらのシャツ。松井さん、吉川さんが一枚一枚染めたシャツは、美しい藍色をまとい、生地の表情もどこか力強さを増したように見えます。
「染める前よりも後のほうが、生地の織目がよく出ている感じがするんです。その出方が独特というか、厚みが増した感覚がある。古着だからつくられた年代も違うし、もともとの持ち主がどういう着方をして、どう洗ったかも異なる。それが染色することによって、よりはっきりと分かるというか。当たり前ですけど、同じものはないんだなって実感しますね」(川上)
「染めている時に生地が変化している感じが分かるんです。浮き上がってくるような感じで」(松井)
「生まれ変わらせるといえば大袈裟なのかもしれないですけど、服をより魅力的なものに変化させるような気持ちでやってますね」(吉川)

今回の染色は、川上さんが「リトマス」の二人に古着を渡したところからはじまっていますが、仕上がりに対しての注文はまったくなかったとのこと。つまりは、すべてお任せなのです。
「素材によって色の出方が変わるので、色見本を見ながらそれに当てはめるんじゃなくて、アイテムの魅力をどう引き出すかということを考えながら染めていきました。染めながら答えを探る感覚ですね」(吉川)
「染めて洗って、外に干した時に全体の色の並びが見えるわけです。すると、このアイテムはもうちょっと濃くしたほうがいいかなっていうのが見えてくる。それをまた取り込んで、色を重ねていきました。今回たくさん染めたので、やっぱりそれが集まった時に、ハッとする瞬間があると思うんです。そういう瞬間をつくるために、ぼくらもやっているというか」(松井)

2000年の立ち上げから、こうして実直に藍と向き合ってきた「リトマス」の二人。そうした向き合い方に感銘を受け、日本国内だけに留まらず、海外のコレクションブランドからの依頼もあると言います。ですが、だからといって二人は特別なことをしたいと思っていないようです。
「例えば、『今季のテーマがインディゴなんです』って言われても、それでいままでオーダーをしてくださっているブランドさんのものを染めることができなくなったら意味がない。毎シーズンぼくらのアイテムを楽しみにしているお客さんも少なからずいらっしゃるので、そうした方々との取り組みを大切にしたいですね」(吉川)
「みんなこういうことがインスタントにできると思っちゃうんですよ。だけど、Tシャツを染めるだけでもかなりの工程がある。この記事を読んで、そうしたことが少しでも伝わってくれたらいいですね」(川上)

工房の縁側で話す3人。左から「リトマス」の松井裕二さん、〈セブン・バイ・セブン〉の川上淳也さん、取材時にTシャツを染めてくれた「リトマス」の吉川和夫さん。
染められた服は袖を通すことで、そのひとにしか出せない藍色に変わっていきます。そうして生まれる “愛着” を大事にしてほしいと松井さん、吉川さん、川上さんは口を揃えます。
「どうしてぼくたちが自然発酵の色にこだわるかというと、経年変化していくその色が好きだからなんです。それで自分たちの身の回りのものも、そうした色に染めたいと思って工房をはじめました。『どれだけ手間がかかっているか』って言葉ではいくらでも言えるんですけど、ぼくたちはそれを特別なものじゃなく日常的なものにしたいんです」(吉川)
「海外を見渡しても、藍染めの染色技法がこんなにもたくさんあるのは日本くらいなんです。それが時代と共に減ってきていることは確かですね。だから、ぼくたちとしてもなんらかの形でひとの手に届くようにしたい。ぼくも昔は作品的なものをつくったりしていたんですが、やはり見るだけではなかなか伝わりづらいところがある。だからきちんとひとの手に渡るものを、そして、毎日の生活のなかに寄り添うものや、身につけてもらえるものをこれからもつくっていきたいですね」(松井)
「着込んで色が落ちて、また染めたいということであれば、ぜひまた『リトマス』さんにお願いするのもアリだと思います。それってモノを大切にしていることの証でもあるから。ぼくとしてもそうやってお客さんが繋がってくれたら本当に嬉しいですね」(川上)
PROFILE
日本に古くから伝わる、天然素材のみを使用した藍染めの染色技法「灰汁発酵建て(あくはっこうだて)」を受け継ぐ。その技法にこだわりつつ、既成概念にとらわれないものづくりで「日本の藍色」を表現し続けている。
PROFILE
デザイナー。90年代よりサンフランシスコに渡り、古着のディーラーとして活動。2013年にコンセプトショップとして〈セブン・バイ・セブン〉をスタートし、2015年より本格的にブランドとして始動。自身の経験をもとにクリエイションを展開し、オリジナルアイテムのほか、古着のリメイクなども手掛けている。