見つめ直すことで浮かんだ3つのキーワード。
ー 具体的にどのようにしてディレクションされていったんですか?
金子: 〈アウトドアプロダクツ〉側からは、「どこか一つの場所でブランドを表現してほしい」というオファーだったので、それを体現するためには、もっとブランドについて知らなくちゃいけないなと思ったんです。これまで何度かコラボさせてもらっていましたが、改めてブランドの歴史を掘り下げていって。そしたら奇遇にも自分と同じ1973年生まれなんですよね。それで創業時のカタログやTVCMみたいな映像など、アーカイブの資料をいただいて、それでいろいろと勉強しました。そうすると、ブランドの輪郭みたいなものが見えてきたんです。
ー さらっと〈アウトドアプロダクツ〉の歴史について教えていただいてもいいですか?
金子: のちに創業者になるアルトシュール兄弟の父親がロサンゼルスでデパートをやっていたんですが、そのお店は登山者などプロユース向けのアウトドアショップだったんです。アルトシュール兄弟は店に来るアウトドア愛好家が何気なく使える“シンプル”で、“安く”、“丈夫”なモノを置いたらいいんじゃないかと思い、プロダクトを作りはじめたのが〈アウトドアプロダクツ〉のはじまり、ということでした。
金子: そういうところから、いろんな機能を持たせたギアに進化させるんじゃなく、ちょっとした道具になる身近なプロダクトであるということが大事なんだと考えました。だからこそ、新しく立ち上げるフラッグシップストアでは“シンプル・ロープライス・タフ”という3つのポイントを体現していくことが大事だと思ったわけです。そういったブランドのフィロソフィーは守りつつ、それをどう調理したら2021年的なものになるか……。そのことを突き詰めていくうえで、特に変わったことをする必要はないという判断に至ったんです。もちろん、いまと昔とではライフスタイルが違うので、その辺のバランスは取ったんですが、着地点は意外とシンプルでした。
ー 確かに、現代ではパソコンを持ち歩く人がいたり、スマホを持っているのが当たり前だったり、生活様式自体が変わっていますよね。
金子: はい。あとは〈アウトドアプロダクツ〉は他社とのコラボも精力的に展開されています。だから、他社とのコラボレーションという部分も重視しました。また、その時々の時流みたいなものも欠かせませんよね。例えば、最近はキャンプ人口が増えているから、キャンプに特化したモノを作るとか、“シーズナルなもの”も意識したんです。
ー “普段使いのシンプルな道具”、“コラボレーション”、“シーズナル”という3つのキーワードが金子さんの中で、すっと浮かび上がってきたということですね。
金子: そうです。だから今回立ち上げるフラッグシップストアは地下、1階、2階という3フロアの構成にして、各フロアごとにそのキーワードを別々に展開していこうと思ったんです。
ー なるほど! どういったフロア構成になっているんですか?
金子: 1階は“普段使いのシンプルな道具”としてのベーシックなアイテムが並びます。デイパック、ロールボストン、トートバッグの3つが柱となっていて、サイズもそれぞれ7サイズ・12色展開とかなりバリエーション豊富に品揃えします。2階は“シーズナル”をテーマに、トレンドを取り入れたアイテムやウェアを展開していこうと思います。そして、地下1階は“コラボレーション”のアイテムを中心に取り扱います。
ー 当然、3フロアすべてが〈アウトドアプロダクツ〉ですが、それぞれ見え方が違って専門店のような構成ですね。
金子: 〈アウトドアプロダクツ〉は、日本の全年齢層がターゲットといっていいぐらい幅広く展開されています。例えばジーンズの量販店でこのバッグを知った人に、いきなりコラボアイテムを見せても、ピンとこないし逆に驚いちゃうと思ったんです。だから、1階にはインライン、地下にはコラボアイテムという風に、フロアを分けたんです。そういう風に、客層とニーズをリンクさせるようなフロア構成で、ひとつの“箱”でまとめる必要があったんです。
ー 基本的なことを、ひとつひとつ丁寧に積み上げていった感じですね。
金子: そうです。自分のなかでプロットが出来上がってからは、あとはそれを体現していくためのメンバーが必要ですよね。今回はファッションもわかっていてプロダクトデザインについても理解のある人にお声掛けしました。バッグのデザインを〈テンベア〉のデザイナーの早崎篤史さんに、ウェアのデザインは〈ブラームス〉の村上圭吾さん、ロゴデザインは平林奈緒美さん。そして今回のヴィジュアルをスタイリストの白山春久さんに、という感じでお願いしました。かなり隅々まで考え抜いて、妥協なく、チーム編成してまとめていきました。
ー これまで数多くのショップを手がけてきた「ベイクルーズ」内のスタッフではなく、外部の人たちに声を掛けたのはどうしてだったんですか?
金子: この「ザ・レクリエーションストア」は、最初にぼくが描いた構想とそんなにブレてないんですよね。こうなるだろう、こうしたいと思っていたゴールがあって、それを最短ルートで走るなら自社スタッフでも実現できたはずなんです。だけど、第一線で活躍しているプロフェショナルの視点を入れることで圧倒的な説得力が得られたと思うんですよね。ぼくの問いかけに対して「シンプルなプロダクトってこういうことですよ」という答えが返ってきたような。そのときに「やっぱり間違ってなかった、良かったな」って思いました。「ベイクルーズ」のスタッフは優秀だと自負してますが、今回に関してはぼくらと違った目線を取り入れる必要があった。その分、時間やコストが掛かったわけですが、それによってお客さんに安心してお届けできる店が出来上がりました。随分と贅沢な遠回りをさせてもらったなと思っています。
ー とはいえ、これだけ豪華な顔ぶれが揃うのは金子さんの人徳なくしてなし得ないですよね。金子さん自身でオファーされたんですか?
金子: そうですね、ひとりひとり口説き落としました(笑)。平林さん以外の方々は仕事をしたこともあり、面識があったので直接連絡して趣旨を説明しました。平林さんに関しても、ファッションアイテムではなく、あくまで道具を作りたいという旨をお伝えして。〈アウトドアプロダクツ〉のロゴも創業から変わっていないので、2021年にこのブランドとして適切なロゴってなんだろう、というところから考え直して発信したいという話をさせていただいて……。結果的にその場ですぐOKをいただきました。快諾いただけた理由のひとつは“ファッションじゃない道具”という部分に興味を持ってもらえたのかなと思います。
ー 確かにそのアプローチなら、響きますよね。2021年だからこそできる、これからの道具づくりというか。
金子: ですよね。例えばパタゴニアのフリースも、元々は山を登る人が着ていた防寒着。だけど街中でも着る人が出てきて、それがファッションになっていったり。〈アウトドアプロダクツ〉のアイテムもそういう風に、若い人が実際はキャンプで使うはずのケースにパソコンを入れてみたら調子が良かった、それがファッションになった、みたいに発展していってくれることを願いながら用意しているんです。だけど、自分たちからその提案をしていくのはナンセンスだなと。「このサイズのバッグは、こういうシチュエーションで使いましょう」と言われると窮屈に感じてしまう。ぼくらが届けたいのは、ファッションアイテムではなく、ファッションにも合う道具。だからこそ、白山春久さんにスタイリングを組んでもらうことで、ファッションの感度が高い人にも、そこまでファッションに興味がない人にもアプローチできると思ったんです。ターゲットを絞って発信するのではなく、間接的にユーザーを呼び寄せたり広がっていくような仕掛けをとにかく考えました。