自分のやること、できることを信じるしかない。
ー〈セットイン〉は「ビームス」の展開ではなく、卸のブランドとしてさまざまなセレクトショップで取り扱いがあるんですよね。そこにはどんな狙いがあるのでしょうか?
新井:そもそもがコト発信から生まれたブランドなので、それをやるならいままでの形ではない方がいいなと思ったんです。「ビームス」でやろうとすると、良くも悪くもいやらしくなってしまう。だから、卸のブランドとしてスタートしました。
ー取り扱いのセレクトショップも、原宿の「TOXGO」など、ユニークな特徴を持ったお店が多いですよね。
新井:はじめは自分と関わりがあるお店から固めました(笑)。そこから広がっていく波及効果がいちばん信頼できるので。自分の目の届く範囲で成長していく過程をみたかったというのもありますね。いきなりいろんなお店でやるよりも、もっと丁寧にブランドを育てていきたかったんです。せっかくつくったので、可愛がりたくて(笑)。
ーご自身の中で手応えってありますか?
新井:展示会ではいろんな方々に来て頂いて、おもしろそうという反応はあったんですけど、どうだろう……。まだまだファーストシーズンが立ち上がったばかりなので、これからなのかなと思います。ファッションであり、テニスウェアでもある。その両軸を取れたらいいんですけど。
ーお話を聞いていて、テニスとファッションの組み合わせは、混ざり方がすごくスムーズだなと感じました。
新井:テニスコートと街って、めちゃくちゃ近いんですよ。わざわざクルマを運転して、何時間もかけて行くところではない。思い立ったらすぐにコートへ行けるんです。街の中にあるから。
ーなるほど。たしかにテニスって都会的なスポーツですよね。
新井:そうなんです。だから、わざわざウェアに着替えなくてもいい。サッカースパイクで街を歩くことはできないけど、「スタンスミス」を履いて街を歩くことはできますよね。テニスとファッションって、そういう意味でもすごく近いところにあると思うんです。
ーまだはじまったばかりですが、今後の目標も知りたいです。
新井:ファッションを盛り上げると同時にテニスも盛り上げたいです。やっぱり、最終的にはテニスアカデミーをつくって、服をつくらずにブランドが成立したらいいなと思ってます。とはいえ、そこまでいくには時間も必要なので、次のフェーズではシューズとかラケットなど、ギアの部分も強化していく予定です。
ーテニスを盛り上げるという部分では、ジュニア選手の移動着を提供されたと聞きました。
新井:2023年に開催された「全国選抜高校テニス大会」で優勝した里菜央選手と、武方駿哉選手の「US Open Jr.」での移動ユニフォームのサポートをしました。プレー中は契約しているブランドのウェアを着ないといけないので、移動着としてニューヨークで着るウェアを〈セットイン〉で提供させてもらったんです。里菜央選手はその大会でダブルスで準優勝したんですよ。
ーすごいですね。そうした活躍はブランドにとってもすごく大きな価値がありますよね。
新井:めちゃくちゃうれしかったですね。そうしたサポートの部分でもがんばっていこうと思ってます。
ー新井さんだからこそできること、という言葉の意味と説得力が生まれますね。
新井:ぼくがやりたいことって中学2年生の頃から変わってないんですよ。自分のしている格好も含めて。この前、94年に撮った写真が実家から出てきて、手前味噌だけど、当時の自分の格好がめちゃくちゃかっこよかったんです。「いまその格好をしたい!」って思うような合わせをしてて。そうやって自分なりに答え合わせができる機会が徐々に増えてきていて、自分のやること、できることを信じるしかないと思ってます。それが上手に伝わっていくように、芯を持ってやっていこうと思っています。