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ブランド設立1ヵ月でパリコレへ。バウルズの八木佑樹は天才か?異端か?
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ブランド設立1ヵ月でパリコレへ。
バウルズの八木佑樹は天才か?異端か?

日本の偉大な先人たちが挑んできた “パリコレ” の舞台。いまそこに立つひとりの若者がいます。彼の名は八木佑樹。30歳。長年温めてきた〈バウルズ(vowels)〉というブランドで、今年5月センセーショナルなデビューを飾りました。その方法は写真家のホンマタカシが撮り下ろしたビジュアルで、東京・表参道のビルボードをジャックするというもの。我々を驚かせたのはインディペンデントなブランドでは普通しない奇抜な発想です。そんな〈バウルズ〉の次のフェーズが6月のメンズファッションウィークでの新作披露。世界の業界人が集う場所で見せたプレゼンテーションから数日経ち、彼が口を開きました。

PROFILE

八木佑樹
バウルズ クリエイティブ・ディレクター

1993年鳥取生まれ。親の仕事の都合で5歳から15歳までアメリカで生活。日本の高校を卒業後、パリでの滞在を挟み、アメリカの「パーソンズ美術大学」とベルギーの「アントワープ王立芸術アカデミー」で服づくりを学ぶ。名だたるストリートブランドなどに携わり、今年5月〈バウルズ〉をローンチした。

母音のような欠かせない存在に。

ープレゼンテーションが終わり、いまどのような気持ちですか。落ち着きましたか。

八木:落ち着かないですね。結局、結果がすべて。ショールームが終わってからの売り上げ、数字がすべてなので。

ー今回のコレクションのテーマは「春夏秋冬」。

八木:極端な話ですが、このご時世、どの月でも春夏秋冬を感じるなと。本来、6月のパリって気温が25度あってもおかしくないのに、昨日の夜は寒かったり、雨が降ったり。異常気象なのか分からないですけど、明らかに気候が変わってきています。この状況を服づくりの観点から捉えて、一気に四季の流れを見せようと思ったんです。

それで出来上がった服をどう印象的に見せるか考えたときに、プレゼンテーションは日本語の「春夏秋冬」に倣って、ステージを4つに分けることにしました。

プレゼンテーションの会場は、1794年につくられた「フランス国立工芸院」。

ー20人のモデルが与えられた季節の場所に向かう、ショーのようなプレゼンテーションは服の移ろいが印象的でした。そのなかでも代表的なものはどれになりますか。

八木:シルクシャツです。ぼくの好きなブランドの90年代頃のシャツを見ると前立てや裾がまつり縫いされています。そういう細かいメンズウェアのディテールで〈バウルズ〉は勝負したいと思いました。他のブランドはシルクシャツをつくったとしても多分そこまでやらないので。

今コレクションを代表するシルクシャツとテーラードジャケット。

あと、その昔、大阪でつくられていた堺更紗をご存知ですか。それを京都のアンティークショップで見つけたときに、そのパンクでポップな柄をシルクスクリーンで表現していることに驚きました。堺更紗を生地感含めて再現したものをコートやセットアップの裏地に使ったところも特徴のひとつです。

ーこれは花柄ですけど、表情が柔らかくていいですね。

八木:出島で見つけた、19世紀の生地を参考にしています。昔の端切れがそのまま残っていたんです。当時、鎖国のなかでも唯一行われていたオランダとの貿易でこれが入ってきたのだと思います。

出島で見つけた端切れを参考にデザインされたシャツ。

ー花のグラフィックが効いた、ウエスタン調のシャツも印象的でした。

八木:これは1940年代のウエスタンシャツを参考に、どう面白く見せるか考えた一着で、前に小さなポケットを付けて、後ろにスカジャンのように大きな刺繍を入れました。個人的にも花は好きなモチーフのひとつです。

背面に大きな花の刺繍をあしらったウエスタン調のシャツ。

ー過去のものを参考に、咀嚼してつくっているんですね。

八木:それがブランドの哲学で、ベースでもある「守破離」の考え方です。理想とするものを選んで、それを離れるか、崩していきながら、イメージするものをつくっていきます。

例えば、90’sのチープなバギーデニムを参考にする場合、どうやってそのクオリティを上げるかっていったら、ぼくは日本のいい生地を選んで、日本の工場で仕立てるのが一番だと思います。それで〈バウルズ〉のデニムは先輩がいる「ジャパンブルー」にお願いしたり、今回のカーゴパンツはシルク100%の生地でつくりました。

素材と仕立てにこだわったボトムス。

ーカーゴパンツをシルクで?

八木:これ、パッと見は分かりませんが、シルク100%の生地です。ナイロンやポリ、コットンのように見えるかもしれないけど、着てみたら他の素材とは全く違います。

セットアップでも着れるように、同じ素材のアノラックもつくりました。アノラックはパッカブル仕様なんですけど、シルクはしわになりやすいから仕舞うのがあまりおすすめできないっていう(笑)。

モデルが着るのはパッカブル仕様のアノラック。

ー贅沢な一着ですね(笑)。年齢を重ねると、ストリートブランドの服だと若すぎるし、デザイン性の強い服は挑戦しづらい。価格の高いラグジュアリーブランドの服もなかなか手が出せないし。その点で〈バウルズ〉の服はちょうどいいなと思ったんです。

八木:だからブランドをはじめました。ストリートブランドのようにロゴを打ち出すよりも、クラシックなストリートウェアのシルエットをいい生地で表現して、それを上手くマーケティングしてブランディングできたら、それなりの価値になると思ったんです。

ーその考えはいつ芽生えたのでしょうか。

八木:これまでお世話になった会社はロゴありきでつくる感じでした。だから、自分のブランドはそこから離れて、服のつくりや質にこだわりたいと思ったんです。

ベーシックなストリートカジュアルを求める、生活に余裕のあるひとや、ファッションが好きなひとが選べるちょうどいいブランドって、実はなかなか無いんです。きれい過ぎたり、崩し過ぎていたり。ぼくら世代がいいと思う服をアップグレードしたブランドが無かったので、4、5年前からずっと考えていました。

リハーサルの風景。舞台正面には机と椅子が置かれ、八木さんが来場者と話をする姿も。

ーそれで今年5月、ついにブランドをスタートする、と。

八木:すべて整ったからですね。いま日本、アメリカ、イタリアなどで仕事していますが、やっぱり時差があるので、きっちり一発目から上手くやるよりも、少し長引いてもいいから100%の状態ではじめたかったんです。

ー〈バウルズ〉のロゴの形は何を表したものなのでしょうか?

八木:風車です。エコーレーションってご存知ですか。

声にまつわる、ボーカルの科学的要素で、その波動のピッチを上げて5回転させると、このかたちになります。そのイメージが複雑過ぎて上手く説明できないから、実はあまり公表してないんです。

〈バウルズ〉のロゴを身頃にパッチワークしたコートは今コレクションを代表する一品。

ーこれに至った経緯は。

八木:三井陽介さんにデザインをお願いしました。彼は仲間のひとりで、ぼくは日本人のなかでもトップクラスに入るグラフィックデザイナーだと思っています。

ーエコーレーションのアイディアは八木さんから?

八木:彼ですね。基本的にひとにお願いするときは100%そのひとを信頼します。上がってきたオプションから選ぶので、制作段階で意見することはありません。依頼するときにコンペティターのものなど、いくつか参考になるものを用意して、キャッチボールしながら進めました。

ーブランド名の意味も教えてください。

八木:バウルズは母音という意味の英単語。日本語のあいうえお、英語にするとエィ、アィ、ユー、イー、オゥで、発音に欠かせないものです。そこでブランド名にどんな日常にも欠かせない、一点でも着てもらいたい、という願いを込めました。〈コム デ ギャルソン〉や〈イッセイミヤケ〉のように、どの層、どの世代にも受け入れられるブランドにしたいんです。

ブランド名を刻印した紙パッチ。

ー名前の候補はかなり考えましたか。

八木:考えましたね。500ネームぐらいは。そこからチームのみんなでやり取りして、これがいいとか、あれは違うとか。

ーその中に自分の名前は無かったですか?

八木:それは無かったです。〈バウルズ〉はぼくのキャリアのステップアップじゃなくて、手に取ってくれるひとのための服だと思っています。だから、本当に欲しいひとはいつでも買えるような、ある程度、手の届くようなブランドにしたいんです。

自分のキャリアを活かして、ストリートのTシャツブランドをやった方が稼げると思います。でも、それじゃ面白くないじゃないですか。今後の人生のなかで何がしたいかっていえば、自分の得意分野であるファッションで表現した〈バウルズ〉で、次の世代に少しでも希望を与えたいんです。

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