人類の課題解決のために生まれたブリュード・プロテイン™素材。

山形の庄内空港からクルマで約20分の距離にある「スパイバー」の本社。その周りにはのどかな田園風景が広がり、野鳥が気持ちよさそうに広い空を飛ぶ姿を見ることができます。この土地で構造タンパク質「ブリュード・プロテイン™︎」素材は生まれました。
アパレル繊維として広く使われる素材、例えばナイロンやポリエステルは石油を主原料にするためマイクロプラスチックを排出します。またウールやカシミヤは温室効果ガスの排出、土地や水の大量の使用で地球環境に負担をかける一方、「ブリュード・プロテイン™ファイバー」は植物由来の糖を原料に微生物による発酵プロセスによって効率的につくられるため、環境負荷の低減を見込めるところが魅力。人工的でありながら、土壌中や海洋中での分解性能も高い素材だといいます。さらに汎用性も高いため、アパレル用の繊維に限らず、自動車の分野や人工肉などにも応用できるのだとか。

とはいえ、その開発に至るプロセスが多難だったのは想像に難しくありません。「スパイバー」の関山和秀代表は高校時代にルワンダ紛争のドキュメンタリーを見て、それを対岸の火事としてではなく自分ごととして捉え、資源の枯渇が戦争や紛争を起こす一端と考えたそう。そうした状況を少しでも改善することは、人類にとって普遍的な価値があり、取り組むべきことであると思い至ったと言います。そして、「慶應義塾大学」へ進学後、バイオテクノロジーの研究をはじめたのです。

彼が着目したのはクモの糸。地球上には5万種ほどのクモが存在するといわれ、「スパイバー」は大学や研究機関と連携し、その中の1,000種を捕獲し、それぞれの遺伝子をはじめ、糸の構造や物性を解析したといいます。
クモは多いもので7種類の糸を使い分けます。それぞれの糸がどのクモの、どの糸が、どんな遺伝子でできているのか。そのタンパク質や材料がどういった構造でできていて、どうしてナイロンを上回る伸縮性や鋼鉄をも凌ぐ強度を持つようなクモの糸が存在するのか。そうした情報を地道に解析していきながらデータベースを構築しました。
研究をスタートした2004年から15年の歳月を経た2019年に、人工合成タンパク質繊維を採用した世界初のアパレル製品がリリースされました。現在もその安定化や多様化に向けて研究が続けられています。