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FEATURE|The Man Who is Working At The Place.

池袋から全国スタッフを見守る
洋服のセラピスト。

柄物博士だった池袋の接客マスター。

「JOURNAL STANDARD 池袋店」に立ちながら、他スタッフの接客力の向上を目指す荒金さん。じつは彼、学生時代にデザインの学校へ通っており、プロダクトデザインや生地のデザインを学んだ経歴を持っている。ご自宅にお邪魔すると、こだわりの日用品や、なにやら民族的な柄があしらわれた織物などがやたらと目に入ってくる。

「洋服がむかしから好きで、小学生の頃からファッションを意識してましたね。その当時は〈アディダス〉のジャージを着ていて、中学では裏原系、高校ではアメカジに傾倒していました。ファッションの仕事をしたいなぁ、というのはなんとなく中学生の頃から抱いていて、高校ではプロダクトデザインの勉強を、専門学校ではテキスタイルの勉強をしていました。民族調の柄が入った織物は専門時代から集めているものなんです」

もともと民族系の雑貨が好きで、上京後都内の雑貨店を廻っているうちにふとした疑問が頭のなかに浮かんだと言う。

「とあるアジア系の民族雑貨店に行ったときなんですが、店内を見回しているとどこかで見かけたことのある民族柄の織物が置いてあって。『あれ? どこで見たんだろう』って思っていたら、そのお店へ行く前に入ったアフリカ系の民族雑貨店で似たような柄の織物を見つけたことに気付いたんです。で、異なる地域で誕生したものなのにどうしてこんなに似ているんだろう? という疑問がぼくのなかで生まれて、それを研究しようと思ったんです」

日本ではアフリカの民族柄やアメリカのネイティブ柄などがポピュラーだけど、どうしてアジアの柄は国内でフィーチャーされないのだろうか? そういった疑問も荒金さんの知的好奇心をくすぐる材料となり、専門学校の研究課題として民族柄について調べることになったのだ。

知れば知るほどおもしろい、奥深き柄の世界。

「まずはコレを見てください」と言って荒金さんが見せてくれたのは、ネイティブアメリカンの幾何学柄に似たクッション。でも、どうやらアメリカとは異なる地域で織られた柄らしい。

「このクッションの生地は中東地域を発祥とする“キリム”という織物なんです。一瞬アメリカのネイティブ柄と間違えますよね。じつはこういう柄って、古代に生きた人たちが宗教的な儀式の最中に頭のなかに思い浮かんだイメージを織物で表現したものなんですよ。で、何百年もむかしにできあがったものだから、当然糸とか染料は身近にあるものを使ってつくるしかないわけです。なにが言いたいかというと、ネイティブ柄もこのキリムも、つくっている人々の民族性やその地域にある材料に類似性があるということなんです。なにより場所や文化は違えど、この柄をつくっているのは同じ人間ということになるんですよ」

柄にはその他に、その民族の個性を主張する意図や、彼らの願いや想いが込められているそうだ。

「そもそも人間がはじめて身にまとった衣類ってどんなものだか知っていますか? じつは動物の骨や牙を身に着けていたんです。なんでかというと、自分はこういう獲物を捕った、というのを周りに示すためなんですよね。つまり自分の存在を誇示するためのものだったんです。ある意味ではファッションの概念と通づるものがありますよね」

「そうして人類が進化し、民族が生まれる過程のなかでこういった民族柄が生まれていって、頭のなかで浮かんだイメージを織物のなかで表現しているわけですが、なかには禍々しい柄もあるじゃないですか。じつはこれ魔除けの意味が込められているんです。簡単にいうと、その柄の異様性が強ければ強いほど『自分たちには近づくな』という暗示になっていて。それによって他民族からの攻撃を抑止していた、というわけなんですよ。シマシマ模様のある虫って毒を持っているっていうじゃないですか、あれと同じですね。あと、なかには生地に貝殻などの天然素材をそのまま着けているものもあるじゃないですか、あれは繁栄の願いが込められているんです。貝などの繁栄力が強い生き物を自分たちの民族の生地に取り入れて、永続できるように願っていたんですよね」

知的探究心が仕事の現場で役立つとき。

それぞれの民族性などと紐づけて、ひとつひとつの生地やそこに描かれている柄について詳しく教えてくれる荒金さん。彼にお気に入りの柄について聞いてみた。

「ぼくが好きなのはインドの“アズラック”という柄ですね。これは天然の染料を用いた草木染めで、裏表の両面に木版によって柄が刷られているんですけど、柄が緻密だし染め方もキレイ。そして、まるでデニムのように使っていくと色が落ちてきて、朱色が鮮やかな赤い色に変化していくんです。むかしはスカーフとして首に巻いたりしていたんですけど、最近は主にテーブルクロスとして使っています。こうやって多様的な使い方ができるのも魅力のひとつですね」

荒金さんはモノにあしらわれている柄を見ると、それがどのようにして生まれ、どのような意味や願いが込められているのかを確かめたくなるクセがあるようだ。専門学生時代についたこのクセが、いまでは店頭でも発動してしまうらしい。

「お店にもたくさん柄物のアイテムがあるんですよ、例えばミリタリーの迷彩とか。迷彩柄にもさまざまな種類があるから、ひとつを見るとどんどん他のものも掘り下げたくなります。あとは生地だけじゃなくて、ニットの編み柄まで気になって調べちゃいますね」

そうして得た知識をしっかりとお客さまに伝えて、アイテムの価値向上を目指しているんだとか。

「やっぱり正しい情報を伝えたいですし、そうした知識をお伝えすることでお客さまにも喜んでいただけると思うんです。なので、もし柄のことで分からないことがあればぜひ池袋店へ聞きにきてください。分かるものは答えますし、分からなければ調べるので(笑)」