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写真家・荒井俊哉による初のソロエキシビションと、その裏側。

写真家・荒井俊哉による初のソロエキシビションと、その裏側。

Beastie Boys, MEN'S NON-NO G(Autumn 2007 / SHUEISHA)※フジロック、グリーンステージでの本番直前の楽屋にて。


2016年2月5日より、写真家・荒井俊哉の自身初となるフォトエキシビション「behind Shunya Arai photo archives」が、福岡・博多の新名所として話題のコンセプトストア「FROM WHERE I STAND」にて開催されます。


常日頃、ファッションフォトの世界で活躍する彼が、2004年から約10年間にわたって撮り続けてきたのは、椎名林檎やビースティ・ボーイズ、BECK、ダニエル・ジョンストン、イアン・ブラウンなどといった、数々のミュージシャン/アーティスト。雑誌取材からライブ、プライベートに至るまで、いかにアーティストの懐に飛び込み、彼らのパーソナリティの奥底にある心情の刹那を写し出したのか。会場では、自身が選んだ写真作品10数点を、ランドスケープ作品と織り交ぜて展示するそうです。


そこで今回、フイナムでは荒井氏本人を直撃。エキシビションの内容はもちろん、写真との向き合い方、写真と時代の関係性について訊いてきました。早速どうぞ!


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© Ringo Sheena 2012 ※全国ツアーにて。ライブの曲間にイヤホンを調整している椎名林檎。


--今回展示される作品の選定はどのような基準で?


仕事で撮影したアーティストのポートレートがほとんどです。プライベートの写真もいくつかあって、自分から撮らせてくれとオファーして撮った作品も入れています。今と違って昔は来日アーティストの取材仕事がいっぱいあったので、必然的に好きなアーティストを撮影できる機会も多かったのかもしれないですね。


--開催場所が福岡だったのには何か理由が?


半年以上前でしょうか。たまたま太郎(写真家/水谷太郎)とムロ(muroffice/中室太輔)が福岡でお店(FROM WHERE I STAND)をディレクションするという話を聞いて。そこにちょうど良い大きさの壁があって、ギャラリースペースとして定期的にいろんな作品を飾ろうと思うんだけど、という話をいただいて。それでトントン拍子に話が進んでやることになったんです。


--荒井さんのことを教えてください。


2001年に独立したので、もうかれこれ15年目ですね。元々ポートレートが好きだったので、独立した当初は取材ものを中心に仕事していました。それこそ1日3本取材とか、ほぼ毎日そんな感じ。それから仕事でいろんなアーティストやクリエイターの人たちを撮ってきているんですけど、中には好きなアーティストもいて、それを編集の人にしつこく言っておいて(笑)。そうすると来日したときに撮影できますよって言ってくれて。ずっとその繰り返しですね。


--趣味の延長線上に写真があるような?


写真家になるずっと前から音楽と映画が好きだったし、それが10代の頃から自分の中で興味の対象としてあったから、趣味が高じて写真に辿り着いた。でも、本当は学生のとき映像を撮りたいって思っていて、映画監督になりたかったんです。


--それから写真を?


大学を卒業してから冨永さんのアシスタントにつくまでの間、写真が撮りたいという気持ちだけは強くあったんだけど、何をすればいいのかわからない時期があって。そんな折に、公務員の名簿用に撮影するアルバイトを見つけて、半年間で300人ぐらいの公務員の人たちのポートレートを撮ったんです。名簿用の写真は柔らかい自然光での撮影だったんだけど、自分の作品も撮りたくて、公務員の各人の撮影の最後の1ロールで、リングライトを使ってフェイスアップの写真を個人的に撮り溜めたりもしていた。とにかく人が撮りたかったんですよね。


--なるほど。それから師匠について写真の勉強を?


冨永よしえ先生につきました。そこでの経験が今の写真や被写体と向き合う姿勢に大きく影響しています。先生の方が僕なんか及ばないぐらいの音楽好きで、いろんなアーティストのポートレートやジャケットも撮っていたし、とにかく教わることが多かったですね。ゆらゆら帝国とか、よく一緒にライブ観に行ったりもしていました。


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Shunya Arai, Göteborg, 2010


--荒井さんは、ファッションフォトグラファーというイメージもあります。


15年前に独立してから、いわゆるモデルを使ったファッションフォトもたくさん撮らせてもらってきました。それと同時進行で、来日するアーティストがいたら雑誌の企画で撮影したり、自分で撮影オファーしてパーソナルフォトとして撮らせてもらったことも、自分にとっては貴重な体験です。


--モデルを被写体にしたファッションフォトとアーティストフォトの違いをどういう部分に感じますか?


まず、それぞれの状況が違いますよね。ファッションフォトは、スタイリストと一緒になってディレクションしていく。初めにコンセプトを決めて、僕の場合は撮影の朝にモデルに話をしてから始めるやり方。今回はこういうテーマでやるからよろしく、といった会話をしながら撮り進めていきます。でも、アーティストの撮影は基本わがままだから言うことを聞いてくれないんですよ、まぁ聞いてもらっても困るんですけど。完全にこちらの思惑通りにいかない、撮れるか撮れないかの瀬戸際なんですよ、全部。撮影時間も3分とか5分しかなかったり。強引にバックステージに入って撮って、後でこっぴどく怒られたりとか。"お前本番前だよ!"みたいなことを言われながらも、ギリギリのタイミングまで被写体にカメラを向けている自分がいたりもしますし。


--アーティストフォトが教訓になって、ファッションフォトにフィードバックされることがあると。


それはすごくあると思います。場所が指定されていて時間が全然ない状況の中だと、絞りがいくつとかシャッタースピードがいくつとか考えられない。その中でこれだっていう一枚を撮る行為はファッションフォトのときとは少し違う感覚かもしれないです。今シャッター押さないと、撮れるところで撮らないとっていう。技術的なものを全部取っ払われると写真を撮ることだけに神経が研ぎ澄まされていくようなモードに入るというか、そういう時に思いがけない一枚が撮れたりするんです。その感覚をファッションフォトに反映しているところはあるのかもしれませんが。


--その逆もまた然りですか?


例えば洋服のシルエットとか色とか、全体のフォルムだったりテクスチャーだったり。身に着けているものを含めて、そのアーティストがいかに良く見えるかということを、ふとファインダーを覗いたときに感じられるかどうか、という感覚は常にあるんだと思います。


--共通点はありますか?


たくさんあると思いますが、1つはその人物の懐にいかに飛び込めるかということですかね。たとえば、ダニエル・ジョンストンをどうしても撮りたくて、マネージャーでもある彼のお兄ちゃんに直接連絡して交渉したら、一気に仲良くなれたり。どのアーティストも思い出はたくさんあるんですが、中でもビースティ・ボーイズは特に思い出深い撮影で......。撮影前に彼らからストロボを使うことがNGとお達しがきたうえに、急きょ夜からのライヴ直前の夕方に撮影することになって。しかも撮影時間は3分。どれだけ急いでもフィルム1ロール撮れれば御の字。ただ、暗くて光量がまるで足りていない状況。どうしよう......と思ったんだけど、撮影する場所にやって来たサングラス姿の3人を見て、瞬時に覚悟しよう、と。サングラスの上から両手で自分たちの目を覆ってもらって3秒待ってから、ストロボをバンバン! と炊いてシャッターを切った瞬間に、アドロックが"オイッ!"って驚いたところで強制終了(苦笑)。そのおかげで奇跡的に1枚撮れてたのが今回展示する作品だったりもするんです。ギリギリの状況ではあったけど、いい写真が撮れればいいと思ってしまう性分なんでしょうね。


--むしろそこに境界線はないと。


その人物が自分なりにぐっとくる瞬間を表現したい、という思いは変わらないです。


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Sonic Youth, BARFOUT!(2005)※都内某所のホテルにて。あえてサーストンをセンターに配置した確信犯的一枚。


--どうですか、初めてのエキシビションを控えて。


緊張しますよね。でも好きなものだから楽しみです。10年間、思い出すとそんなに経つんだなという感じです。これからもアーティストたちには常にトライしていきたいです。願えば叶うってことも証明されましたし。それこそライブは観に行けたけど、写真が撮れるなんて昔は一切思ってなかったので。ただ他の人より少しだけ撮りたいっていう思いが強かったんでしょうか。


--最後に一言。


僕が10年間で、ライブや旅をしながら、そこで出会った人たちや風景を撮り続けてきた写真の一部として、今回は僕個人が本当に好きな作品だけを集めました。ぜひとも大勢の人たちに見ていただきたいです。よろしくどうぞ!


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Text_Jun Nakada

behind Shunya Arai photo archives

会期:
2016年2月5日(金)〜3月6日(日)
会場:FROM WHERE I STAND
住所:福岡県福岡市博多区博多駅南 1-9-18 WITH THE STYLE FUKUOKA
電話:092-433-1139
営業時間:8:00〜24:00(会期中無休)
※2月5日(金)20:00〜22:00は、荒井俊哉氏を迎えたオープニングレセプションを開催(一般入場可)
http://fwis.jp

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