子供の頃に感じていた、大人への興味、恐怖、友人との環境や考え方の違い、死に対するぼんやりとした認識。この映画は、頭ではわからなかったけれど、心で感じていたあの感触を掬い上げた稀有な作品です。
STORY
1980年代のある夏。11歳のフキは、両親と3人で郊外の家に暮らしている。父の圭司は闘病中のため入退院を繰り返し、母の詩子は家事と仕事に追われる日々。そして父の病院に通うなかで、フキは “不完全な” 大人たちの世界を垣間見る。夫を亡くしたばかりの女性、ガンを救う薬と謳い詐欺を働く夫婦、父親の不倫関係を知らない親友、伝言ダイヤルで出会った大学生……。彼女の日常は否応なしに揺らいでいく。
メガホンを取ったのは、早川千絵監督。高齢化社会の末路をシニカルに描いた前作『PLAN 75』で、同年の第75回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門にてカメラドール特別表彰に輝き、さらにアカデミー賞日本代表としても選出されるなど、国内外から注目を集めている新鋭監督です。
前作から3年の時を経て、新作『ルノワール』が日本、フランス、シンガポール、フィリピン、インドネシア、カタールの国際共同製作で公開されます。
監督に「(彼女と)出会ったことで、この映画を撮るべきだと確信した」と言わしめたのは、主演のフキを演じた鈴木唯。『ふれる』(2024/髙田恭輔監督)で映画初出演にして初主演し、期待の新人として鮮烈なデビューを果たしました。
子供から大人に成長する過程の “少女” は喜怒哀楽のシンプルな感情だけではありません。そのあいだに潜む言葉にならない心の動きを、等身大の視点で瑞々しく演じました。
脇を固めるのは、父親役にリリー・フランキー、母親役に石田ひかり、その他河合優実、中島歩、坂東龍汰などの豪華な俳優陣。それぞれが抱える哀しさや狂気を受け止めた俳優たちが、真摯に役に生きています。
早川監督が子供の頃に抱いていた感情を出発点にした本作。少女の小さな体に宿る、はちきれんばかりの感情に誰もが心を掻き立てられるはずです。
日本の映画史には、子供を主役にした名作が数多くあり、本作にもその面影を感じますが、一方でそれらと肩を並べるほどの圧倒的な個性も感じます。2025年夏、忘れられない映画ができました。公開は6月20日(金)から。