1990年代、誕生から100年経過している“アンティーク”に対し、その定義は満たしていないけど、価値のありそうな古着を打ち出す際に使われ出した言葉“ヴィンテージ”。今ではさらに“レギュラー”と呼ばれていた80年代以降の古着にも、“ニュー・ヴィンテージ”という新たな価値を見出す動きがあります。本企画ではこの古着の新たな楽しみ方を、スタイルの異なる4つの古着屋が提案。それぞれの感覚でその魅力を語ります。
この連載も15シーズン目に突入! 新たにショップがすべて入れ替わった2番手の第114回目。名店・新店が数多くある代々木八幡エリアから、「アヤワスカ洋服店」の橋本立希さんの登場です。さて、どんなニュー・ヴィンテージを紹介してくれるのでしょうか!?
Text_Tommy
Edit_Yosuke Ishii
橋本立希 / アヤワスカ洋服店 店主
Vol.114_ポロ ラルフ ローレンのチノパンツ&ショーツ
―本連載は“トゥルー・ヴィンテージのように記録や記憶に残っていくようなグッドレギュラーをいまの内に探す”のがテーマです。では、「アヤワスカ洋服店」にとってのニュー・ヴィンテージの定義とは?
自分らの世代(現在40代)にとって、2000年代以降のモノをヴィンテージと捉えるのにはまだちょっと抵抗があるので、時代的には1980年代~1990年代でタマ数が少なく、なおかつアメリカやイタリア、イギリスにフランスなど洋服の基礎となるような国で作られたモノといったところでしょうか。
ーなるほど。“面白いアイテムが見つかる”という視点で切り取るなら、同年代の〈ポロ ラルフ ローレン(POLO RALPH LAUREN)〉や〈パタゴニア(patagonia)〉の場合、イイ感じの個体は、高確率で香港製や台湾製だったりも。
たしかに。ただ、自分の古巣でもある〈ラルフ ローレン〉に関しては、アメリカ製が徐々に見つからなくなっているので、レアリティ的にも「アメリカ製だったら、なお嬉しい」という部分でのプラス要素ではあります。ぼくらは先輩方からそういった教育・思想のシャワーを浴びてきたことで「そうじゃなきゃダメなんだな」っていうイズムがギリギリ継承されている世代でもありますし、そこも含めてアメリカ製には、ちょっとこだわりは持っていたいというか。
ーなるほど。この連載に以前ご登場いただいた「ネイビーブレザー(NAVY BLAZER)」の小林さんも元〈ラルフ ローレン〉出身でしたが、古着が好きな方は多いんでしょうか?
どうですかね? ぼくや彼はそうですが、ブランド全体で見るとそうではない人の方が多い印象はありましたね。
ーその上で、LO LIFE的なストリート文脈での〈ラルフ ローレン〉と、アメリカン・トラッドウェアとしての〈ラルフ ローレン〉。どちらをベースとしているかで言えば、主流は後者だったと。
ぼくも元々がアイビー野郎なんで後者です。お客さんもアメリカントラッドを愛している方が多かったので、色々と勉強させていただきました。
ーその辺が、現在の「アワヤスカ洋服店」のセレクトにも影響している?
自分がトレンドに乗るのが得意じゃないので、基本的には“オーセンティック、だけどなんか面白いよね”みたいなところを狙っています。ぼく自身、マインドを感じないようなスタイリングはあんまり好きじゃないので、その人らしさや個性といったリズムを生み出すフックになるようなアイテムを買い付けています。
ーだからなのか、店内に並んでいるのは、どれも物理的にもマインド的にも“色があるアイテム”だなぁと感じました。
ありがとうございます! そうやってお客さんが反応してピックしたアイテムに対して、こちら側からさらに提案していくっていうスタイルでやらせてもらっています。そこで今回紹介するのが、誰もが好きでお客さんからの反応も良い〈ポロ ラルフ ローレン〉のチノパンツです。
ー以前の記事で、「アームズ クロージング ストア(ARMSCLOTHINGSTORE)」の星野さんも紹介していましたが、このいわゆる”ポロチノ”に対し、橋本さんはどういった提案をしてくれるのか気になります。
ぼくは本当に感覚で生きているタイプで、ウダウダ語るのが得意ではないのですが、ポロチノには一見してすぐ分かるオーラがあるといいますか。モデルによって違いはありますが、股上が深くワタリも極太でテーパードが基本シルエット。色モノも経年変化による色抜けの感じもイイし、打ち込みによる生地の絶妙な固さも好きです。
以前よりも確実に出づらくなってきていて高騰していて、かつ誰が穿いても似合うというのが最大のポイント。今回はその中でもアメリカ製をフィーチャーしたいなと。
ーパッと見は同じようでも、時期によってネームタグの位置や文言が違ったりするのもおもしろいですよね。
ですね。バックポケット上に付いた“POLO CHINO”と記された四角いタグがお馴染みで、同年代の個体でも生産国やタグが違ったりするので一概に言い切れませんが、アメリカ製は80年代の後期~90年代の前・中期くらいまで。今回は夏らしい色合いのオレンジカラーにフォーカスしたいと思います。
ポロ ラルフ ローレンのチノパンツ ¥13,000(アヤワスカ洋服店)
主張は強いけど、褪色した雰囲気も夏にピッタリ。ポロ好き曰く、サイドシームがダブルステッチでアタリもすごくキレイに出る…という話ですが、ぼく自身パッカブルに興味がないのでよくわかりません(笑)。ただ、それだけ穿き込んでも生地がピンピンしているという点はぼく好み。
ー実際に穿いた際に、その良さが分かるというか。
ちょっとやそっとサイズが大きくても、ベルトでギュッと絞ればイイ感じに収まりますね。当時のカタログや広告でもそんなスタイリングですし、ジャストで選んでも、大きく来てもそんなに変わらないようには見えます。また色もいろいろありますが、チノパンはカーキ系、オフホワイト系、ネイビーが基本。それ以外はシーズナルカラー。いま古着市場で高騰している色モノは、この後者に当たります。
ー続いてはショーツ。インシームのツータックということで、定番中の定番「タイラー(TYLER)」ですかね?
ポロ ラルフ ローレンのチノショーツ ¥8,000(アヤワスカ洋服店)
その前身になったモデルで、この当時はまだモデル名のタグが付いていません。ただデザインはほぼ一緒。ワタリは極太でタックはたっぷり。股上深め、裾はヒザ頭にかかるくらい。端的にいって老若男女に似合うシルエットと言えるかと。ちなみにサイズ表示にウエストサイズしか記されていないのがショーツ。レングスまで表示されているのはロングをカットオフしているのでご注意を。これ以外にもタックなしや色違い・生地違いなど、数え出したらキリがないほど種類は豊富に見つかります。
ーいまの時期だと裸足にサンダルやスニーカーが定番ですが、ソックスで合わせる場合の正解ってあるんでしょうか?
アイビー的には、足のスネの中間くらいの長さのソックスにローファーやデッキシューズが基本。ぼくが在籍した頃の〈ラルフ ローレン〉ですと、外から見えないシューズインタイプのソックスに靴はローファーというのがお約束でしたね。
ーなるほど。そして3本目は再びのフルレングス。最初のモデルと比べると、ウエスト周りに違いが見受けられます。
ポロ ラルフ ローレンのチノパンツ ¥11,000(アヤワスカ洋服店)
ベルトループなしのフロントストラップで、サイドにもサイズ調整用のストラップを配しています。いわゆるグルカパンツの簡易版というか亜種になるのかな。素材はシャリ感がありますが、タグの品質表記にはコットン100%。これで裾を適当にロールアップして穿くと、リラックス感が強まってすごく雰囲気が良いんです。
ー海に穿いていきたくなりますね。また、〈ポロゴルフ(POLO GOLF)〉のクレスト(紋章)のクラブ無しバージョンのワンポイントも見どころで。
ですね。これこそ“オーセンティック、だけどなんか面白いよね”に当てはまる1本じゃないかなと思って、今回紹介しました。先ほどもお話ししたように、ぼくの場合はファッション的目線と感覚で選んでいるため、カルチャー的な視点で語ることはあまり出来ません。でも、それでイイんじゃないかと思っています。買って手に入れた本人が納得できるかどうかが重要で、あくまでウンチクはその1つのフックに過ぎないので。そこから気になる人は調べればイイし、そういった“楽しみの余白を、あえて残している”ということで(笑)。
橋本立希 / アヤワスカ洋服店 店主
代々木公園駅・代々木八幡駅のすぐ近く、探検気分でビルのエレベーターを降りた地下1Fに広がるハッピーでヒップな空間、そこが「アヤワスカ洋服店」。オープンは2021年3月。音楽や映画など、オーナーが影響を受けたカルチャーの匂いがするアイテムを、100年前のトゥルー・ヴィンテージからグッドレギュラーまで幅広くラインアップ。
インスタグラム:@ayahuasca_clothes