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【FOCUS IT.】日常の些細な豊かさを切り取る。“オルタナティブ エレガンス”を掲げるベッドフォードがいま、考えることとは。

先日、パリ ファッションウィークにて2026年春夏コレクション“Wink”を発表した〈ベッドフォード(BED j.w. FORD)〉。今回は、ブランド始動から15年目を迎えたこのブランドが近年掲げる“オルタナティブ エレガンス”という概念について、デザイナーの山岸慎平さんにお伺いしました。日常のなかに潜む美しさを着想源につくり続ける服を通して、〈ベッドフォード〉がいま、伝えたいこととは。

Photo_Koichiro Iwamoto
Edit_Amame Yasuda


PROFILE

山岸慎平
〈ベッドフォード〉デザイナー

2011年春夏に〈ベッドフォード(BED j.w. FORD)〉を立ち上げる。2017年春夏コレクションにて東京でランウェイデビュー。2023年秋冬コレクションにて、ブランド初となるパリでのショーを行った。2023年8月には渋谷・神宮前に旗艦店をオープン。
Instagram:@bed_j.w._ford


“エレガンス”の正体を探る。

ー改めて、〈ベッドフォード〉というブランドについて教えてください。

山岸:“着飾る”ことを前提に、ナルシスト、ロマンチシストといった男性像を描いて服をつくっています。こういったキーワードは、人々に時としてネガティブな印象を与えることがあると思いますが、その印象も含め大事にしたいと思っています。

ブランドを始めた当時は年齢的にも若かったのですが、ブランドも自分も少しは成熟したいま、要は“エレガンス”を含んだものを求めていると気がついたんです。だから近年は、 “オルタナティブ エレガンス(Alternative Elegance)”という言葉を軸としています。日常の中に潜む“エレガンス”の正体を探求する団体が〈ベッドフォード〉だと思ってもらえると幸いです。

ーエレガンスとは何なのか、服を通して表現し続けているのですね。その言葉を掲げ始めたのはいつ頃でしょうか?

山岸:2020年のコロナの時期です。ゆっくり考えられる時間ではあったので。

ーなるほど。それに伴ってクリエイションに変化はありましたか?

山岸:創作自体は変わっていないと思っています。ただ、チーム全体を通しての解像度が上がり、自分たちが大切にしていることは何なのか、何を表現したいのかがより明確になった気がします。以前より筋が通った事で、“なんとなく”がなくなりましたね。自分たちがやっていることの精度が上がった結果、やらなくてよいこともはっきりしました。

ー“オルタナティブ エレガンス”という言葉を掲げ始めた時期が、ターニングポイントともいえるのでしょうか。

山岸:そうかもしれません。当然、コロナの時期は閉塞感があって決して良い時間ではありませんでしたが、振り返るとブランドの未来をじっくり考える時間にはなったと思います。

ー〈ベッドフォード〉が始まって15年経ちますが、これまで特別人気だったアイテムはありますか?

山岸:お恥ずかしい話ですが、記録的に売れたアイテムは特にありません。アイテム単体の人気が出てブランドの認知が広がった感覚はあまりなくて、スタイルとして地道に提案していくことで成長していけたのかなと思います。

ーある意味、健康的な広がり方ですよね。

山岸:幸せなことですし、ありがたいと思っています。そしてそれをすごく望んでいた自分がいます。もちろんきつかった時期もありましたけどね。

ーきつかった時期というと?

山岸:ちょうど2015年頃から勢いが増した、ラグジュアリーストリート一強のムードがあった頃でしょうか。どうしてもうまく馴染めず、提案したい思想やスタイルとは相性が悪かったと思います。ちょっとした疎外感から当時のメインストリームとは離れているような感覚があり、その時期は心がしんどかったです。自分自身、ストリートの世界観は大好きなんですが、自分達のブランドで表現する意味を見出すことが難しくて。随分悩んだ時期ではありました。

ーなるほど。逆にいまは、トラッドなファッションが広がっているからこそ、時流に合っているのではないでしょうか。ブランドのスタイルを形づくる、核となるアイテムをお伺いしたいです。

山岸:大切にしているアイテムはロングコートです。自分自身、ファッションというもの自体にいまも変わらず強い憧れがあって。そのなかでも特に、ロングコートには都会的な魅力を抱いていますね。ブランドを通して、大事に、ていねいにつくってきたと考えていますし、これから先も挑み続けたいと思わせてくれるカテゴリーです。

ー〈ベッドフォード〉といえば、シャツの印象も強いのかなと思います。

山岸:とてもうれしいご意見です。自分自身、日頃からシャツを着ることが多いので、日常着としてずっとつくり続けていて。そのためか、シャツ1枚でムードを出せるブランドには惹かれてしまうんです。たとえば〈アン・ドゥムルメステール〉。彼女のつくる一枚のシャツにはすごく感銘と憧れを覚えましたし、強く影響を受けたデザイナーのひとりです。

ー山岸さんご自身にとって欠かせないアイテムなんですね。〈ベッドフォード〉はブランド創立当初より、近年の方がリアルクローズなスタイルが多い印象です。

山岸:それはあるかと思います。自分が少し歳をとったせいかもしれませんね。奇抜なものも好きなのですが、歳を重ねていくうちに、そんなに気張らなくていいかなって思うようになっていきました。なんでもない瞬間に降りてくるアイデアを、素直に受け止めようと思うようになりました。だから自然とリアルクローズに近づいていくのかもしれません。いまはそれを求めているんです。あくまでもいまはですが、そのリアルのなかにほんの少しの違和感を入れていく作業が好きです。

ーなるほど。普遍的なアイテムのなかに、ちょっとした違和感がほしいと。

山岸:少しでいいんです。ただ、その少しによって、唯一無二のものができるといいなと。馴染みのあるものに、ひとつのアイデアを加えて新しい意味を生み出せればと思っていますし、そうなるように願いながらつくっています。


“着飾る”ことで、唯一無二の自分を誇る。

ー〈ベッドフォード〉ができるまでの、山岸さんの経歴を教えてください。

山岸:もともと、古着屋の販売員からスタートしていて。それから〈マウンテンリサーチ(Mountain Research)〉の小林節正さんの元でお世話なり、独立して〈ベッドフォード〉を立ち上げました。

ーなるほど。〈マウンテンリサーチ〉で働かれていた山岸さんにとって、小林さんは影響を受けた方のひとりだそうですね。

山岸:頻繁にお会いしているはけではないですが、いまだに会うとそれなりに緊張しますし、働いていたときよりも自分でブランドをやり始めたいまの方が、よりすごさに気づく瞬間があります。

ーそれは具体的にどんなことでしょうか?

山岸:懐の深さや人柄はもちろんですが、服づくりの面でのすごさを、いまになってより一層感じるといいますか。頭で考えていることを一着で簡潔に表現することの難しさを常々感じているのですが、小林さんはそれをされているなと。ある種すごく都会的といいますか、洒落てますよね。

真っ直ぐに表現することって、意外と難しいんですね。

山岸:そうですね。服をつくりはじめてから、それに気がつきました。話は脱線するんですが、若い男性でお化粧してる方、脱毛されてる方、爪を綺麗にされている方々がある一定数いらっしゃるじゃないですか。ぼくはしないんですが、彼らを横目でみていると、それってすごく素敵なことだなと思うんです。自分がどう見られたいかということにものすごく敏感で、素直に行動に移してますよね。

ーそういった考え方は、〈ベッドフォード〉のブランドのコンセプトと通ずるものがあるのではないでしょうか?

山岸:そうかもしれません。昔のことを思うと恥ずかしくて変な汗が出そうになるんですが、当時は純粋に服を着ることで思い描く理想の自分になりたいと思っていたのかなと。でも、なぜかそういう純粋な気持ちを持つことに照れがあったり、ネガティブに受け止めたりする風潮や時代の空気感に疑問を持っていて。自分の好きな装いで、唯一無二の自分をもっと誇ればいいと思っていましたし、いまでも考え方はあまり変わりません。

ーおっしゃる通り、そういう気持ちを大切にした方がいいと思います。ただ“ナルシスト”のひとことで片付けてしまうのはもったいないですよね。ファッションは誇らしい自分でいるための、ひとつのツールでもあるのかなと。

山岸:そんな服をつくりたいと思っています。自分を好きでいてあげるためのツールは必ずしも服ではないかもしれませんが、自分自身を保てるなにかを持っている人は強いと思います。

ー本当にそう思います。ご自身のそういった価値観に影響を与えたデザイナーは、小林さん以外にもいらっしゃいますか?

山岸:先ほど話したアン・ドゥムルメステールさん、宮下貴裕さん、ドリス ヴァンノッテンさんです。この方々のつくるものは、圧倒的な何かをぼくの中に残してくれました。まさに、大切にしている“ロマンチシズム”や“エレガンス”といった言葉がしっくりくるというか。お恥ずかしながらルックを見て、この世界に入りたいと純粋に思っていました。そのおかげで、〈ベッドフォード〉の核となる部分を見つける事ができたんだと思います。御三方には多大な影響と勇気をいただきましたし、いまでも憧れはあります。


何気ない日常の瞬間が着想源。

ー〈ベッドフォード〉のコレクションは、どういったところから着想を得ているのでしょうか?

山岸:基本、日常生活からインスピレーションを受けています。たまたま会話に出てきたフレーズで、この表現素敵だなあとか。すごい些細なところからスタートすることが多いです。もちろん、非日常的な刺激から得られることもあるんですが、そこまで多くは求めていなくて。当たり前の中に潜んでいるものを探すことに重きを置いています。そういった時間を大事にしていると、外に出た時に飛び込んでくる情報や刺激にも素直でいられますしね。

ボタンで取り外しが可能なネクタイ。

袖が簡単にまくれるゴムバンド。

ー〈ベッドフォード〉ならではのアイコニックなギミックも、日常的な気づきから来ているんですか?

山岸:ぼくがわりと面倒くさがりな性格で。ネクタイをいちいち結ぶのも面倒だから、ボタンダウンで表現しようとか、理想的な袖まくりが誰でも一瞬で仕上がるようにゴムバンドをつけようとか。ギミックといえば聞こえはいいですが、生活の知恵に近いかもしれませんね。うまくいったときには、「案外、盲点だったのでは?」と思ってうれしくなります。

ーなるほど、そうだったんですね。2026年春夏のテーマを“Wink”とした理由を教えてください。

山岸:朝、テレビをつけると、当たり前のように世界中の嫌なニュースが耳に入って苦しくなるんです。世界中で戦争が起こり、経済も不安定。この先の未来を学のない自分でもさすがに怖いなと思うわけです。そんな折に、ふと画家のノーマン・ロックウェルの画集を見直す機会があって。特段好きだというわけでは無いのですが、現代とよく似た時代背景の中で生きていた彼が、日常生活の些細な幸せを切り取って描く姿勢が本当に素敵だなと感じました。だから、自分もその些細な幸せを切り取れるような目を持ちたいと思い、シャッターを切る際に片目を瞑る仕草から“Wink”と名付けました。

ーそんな今季を象徴するアイテムというと?

山岸:いくつかあるのですが、このジャケットは気に入っています。シルクの糸特有のネップ感と手織りならではのあまさのバランスがよく、それが風合いに現れています。普遍的なアイテムですが、〈ベッドフォード〉らしいムードが宿っているのではないでしょうか。

山岸:そして、このロングコートも。表地の表情でムードを出しつつ、ポケットなどのディテールを内側でも表現しています。

山岸:既視感を感じるアイテムを少しツイストさせるという表現では、このチェックシャツはブランドのデザインコードを物語っていると思います。古着屋では出会わないような、洗練されたムードで仕立てました。

ーたしかに、アメリカ古着などでよくみるマドラスチェックですが、透け感とシルエットにより上品に仕上がっていますね。そういった〈ベッドフォード〉ならではの発想は、ショーのスタイリングにも落とし込んでいるのでしょうか?

山岸:そうですね。スタイリングを担当してくれているスタイリストのマウリツィオはぼくらが大切にしていることをよく理解してくれているので、多くは注文していません。いつも自然体で、嫌味のない“エレガンス”をうまく表現してくれていると思います。

2026年春夏コレクション”Wink”

ー〈ベッドフォード〉のスタイルはまさに、日常着として想像できるような提案が多く、実際にアイテムに袖を通してみたいと感じさせられます。それに、ショーや展示会のみならずプレゼンテーションや動画制作を行うなど、表現方法の幅も広いですよね。

山岸:パリでのプレゼンテーションは、来場してくれるゲストの方々とのコミュニケーションの場になればと思い、今回初めて開催しました。お酒を飲みながら、カジュアルなホームパーティのような雰囲気です。動画は、2024年の6月くらいから制作を始めました。手前味噌ですが、まわりの優秀な方々のおかげで素敵に仕上がったのではないかなと思います。

ーお客さんの反応がダイレクトに見える場所は貴重ですよね。今季の動画も、ルックと併せて観ることでコレクションがもつ空気感をダイレクトに感じることができました。最後に、現時点で山岸さんが考える“オルタナティブ エレガンス”の定義を教えてください。

山岸:堅苦しいものとは少し違います。美しいけれど、その中にちょっとしたその人らしさが垣間見えて、人間味が感じ取れるといいますか。そんなものに、“オルタナティブ エレガンス”を感じます。きっと先々で新たな気づきがあると思うので、これからも探求し続けていきたいです。

INFORMATION

BED j.w. FORD

住所:東京都渋谷区神宮前2-9-11 1F
電話:03-6455-5095
時間:12:00〜20:00
公式オンラインサイト
公式インスタグラム

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