独自の世界観をキープしながら、時代の変化とともにさまざまな試行錯誤を繰り返してきた〈ノンネイティブ(nonnative)〉。スタートから47シーズン目を迎えた今季のテーマは、「STILL DOESN’T MATTER」。“周りのことは気にしない”。そうしたメッセージとも受け取れる今回のコレクションには、どんな想いが込められているのか。大阪・堀江にオープンした直営店や、今季のクリエションの話題を軸に、デザイナーである藤井隆行さんの頭のなかを探ります。
Interviw & Edit_Ryo Komuta
Text_Yuichiro Tsuji
PROFILE
1976年、奈良県生まれ。武蔵野美術大学を中退後、セレクトショップ、ブランドの販売員を経験し、2001年より〈ノンネイティブ(nonnative)〉のデザイナーを務める。ワークやミリタリー、アウトドアの要素を現代的に再構築し、ファッション性と機能性を兼ね備えたリアルクローズを提案している。
Instagram:@takayuki_fujii_
状況を整理して、自分のやりたいことに集中したい。
ー大阪に直営店をオープンしたそうですね。
藤井:ご縁があって堀江の物件に巡り合い、お店を出すことになりました。ちょうど中目黒のお店と同じくらいの広さで、自分は奈良出身なんですが若い頃はよく大阪で遊んでいました。この堀江には、他にもさまざまなブランドが出店しているから、環境も含めて立地としてすごくいい場所だなと。
ー大阪のファッションの中心地ということですね。
藤井:そうですね。中目黒はファッションの中心地から外れた場所にあるので、堀江のお店ができることによって、また違うお客さんの反応が見えると思うんです。そういう意味ではすごく楽しみですね。人通りもすごく多いので。
ー大阪店限定の商品もあるんですか?
藤井:コーデュロイのダウンベストとパンツをつくりました。25AWの展示会が終わって、後からつくっておけばよかったと思ったやつを形にしました。コーデュロイはしばらくやってなかったんですけど、ここ最近また気になっているんです。それをセットアップで着たいなと思っていて。
ー25FWのテーマは「STILL DOESN’T MATTER」。周りを気にせず、やりたいことをやるというような意思表示とも読み取れます。
藤井:まさにそんな感じです。今回、2011年のコレクションのアイテムを少しだけ作り直したんですよ。あのときは「IT DOESN’T MATTER」というテーマで、東日本大震災のあと前向きな意味合いも込めてそうしたんですけど。ふと、あの当時のことを思い出して、過去を振り返りながらいろいろ考えたりしたんです。
ーというと?
藤井:最近だとコロナも大変でしたが、あのときは世界中で似たような体験を共有しましたよね。だからみんなで前に進もうという気持ちが生まれた。けれど、東日本大震災の場合は被災地の方々が大きな被害に遭われた。あのときにファッションができることを深く考えたんです。
ー葛藤があったということですか?
藤井:そうですね。だけど、震災から少しだけ時間が経ったあとに福島のディーラーの方に話を聞いたら、時間とともに少しづつ服を買いに来られる方が増えていったそうなんです。みんなそれぞれ欲求があって、それを満たすことによって精神的な安定が得られていたと。そうしたことも含めて過去を振り返っていると、2011年が自分にとってはデザインの力について考えさせられたシーズンだったなと。
ーそうした状況と重なる部分が、いま藤井さんのなかにあるんですか?
藤井:そういうわけでもないんですけど、会社のショールームも移転したりして、ちょっとした環境の変化があったんです。あとは自分自身、ノイズも含めてたくさんの情報を気にしてしまう性格もあり、そういった意味でも状況を整理して、自分のやりたいことに集中したいと思って。なるべくわかりやすい服をということは意識しましたね。〈ノンネイティブ〉らしさはなにか?みたいなことをより深く考えたというか。
パンツは少しづつ細くなっていく。
ー2011年のアイテムも含めて実際にデザインを突き詰めるなかで、なにか感じたことはありますか?
藤井:2011年って、もう14年前なんですよね。改めて見てみると、サイズが全然違う。当時は時代的にもタイトシルエット全盛で、いまの服がいかに大きいかを実感しました。寸法を測ると、今のレディースくらいのサイズなんですよ。そうしたアーカイブのデザインをいまのサイズ感に置き換えたらどうなるんだろう、という実験的なことにもトライしてみました。
ーここ最近はオーバーサイズのブームもピークが過ぎたように思うのですが、いまのシルエットの傾向はどう見ていますか?
藤井:今季の〈ノンネイティブ〉でいうと、太いパンツもあるけど、細いパンツもつくっているんです。少しだけシルエットを昔に戻していて。秋冬が立ち上がってから動きを見ていると、結構好評なんです。
ーこれから徐々に細くなっていくんでしょうか?
藤井:スキニーみたいにはならないと思いますけど、ちょっとづつ細くなっていくような気がします。
ーそうなると、藤井さんが得意とするシルエットに近づいていっているような。
藤井:自分もそう思います。細いパンツとブーツを合わせるのが好きなので。そこに戻したいですね。だけどいきなり変えるのは難しいから、徐々にですね。トップスはゆったりしたシルエットが続くと思うけど、パンツは少しづつ細くなっていくと思います。
ー素材に関して気になっているものなどはありますか?
藤井:ポリエステルと天然素材のミックスの生地が増えています。そうすることによって扱いやすくなるんですよ。たとえばリネン100%だと、洗ったらしわくちゃになってしまう。だけど、そこにポリエステルを混ぜることによって形状が安定するんです。ウールも同じで、それによってウエイトが軽くなるのも利点です。前のシーズンは天然繊維ばかりだったんですけど、いろんなことを意識しすぎた部分があって。テック系のものがないから、ディーラーによっては驚いた方もいるかと思うんですけど、今回それを戻したら、いい感触を得られました。
ー“テック”とひとまとめにすると少し乱暴ですが、藤井さんはそうした服を好んでいる印象があります。
藤井:好きですね。ただ、質感によってその見え方は大きく変わると思います。たとえばナイロンのリップストップもマットな質感だとローテクに見えますよね。さらにうちの場合はそこに「ゴアテックス®」のウインドストッパー®を挟んでいるんです。ファッションブランドで「ゴアテックス®」の生地を使えるところは限られるので、そうしたアイテムをデザインするのは意義があることだと思っています。
ーご自身でも「ゴアテックス®」のアイテムを愛用されてますか?
藤井:もちろん。でも、この前フジロックに持っていくのを忘れちゃって(笑)。仕方なく現地で買った雨ガッパを着ていたんですけど、いかに「ゴアテックス®」が安心感があるかを再認識しました。
ールックのスタイリングは藤井さんがやられているんですか?
藤井:そうですね。ぼくの場合、ルックが頭のなかに思い浮かんで、それをデザインしていく作業になるので。だからスタイリングも自分でやることによって納得のいくものに仕上がります。ショーをやられているブランドは一度デザイナーが組んだものをスタイリストが手を加えることが多いみたいですが、〈ノンネイティブ〉はショーをやらないので。
ー基本的には、ご自身が着る前提でデザインを考えているんですよね。
藤井:まずは自分が着るか、着ないかです。それをベースに考えて、あとは色展開でどんどん広げていく考え方ですね。こういう色を着て欲しいという希望も込めて。
ー〈ノンネイティブ〉のお店では、コーディネート買いする人も多そうです。
藤井:中目黒には「カバーコード(COVERCHORD)」もありますが、そこに来るお客さんと〈ノンネイティブ〉のお客さんは必ずしも重ならないんです。〈ノンネイティブ〉は、ブランドを目的に来てくださる方が中心ですね。昔はトップスが強いブランド、パンツが強いブランドっていうのがありましたけど、最近はコレクション全体で世界観を打ち出すブランドが多いから、お客さんもそこに合わせているんだと思います。あんまりミックスしない、みたいな。そっちのほうがラクだし。
服との向き合い方が変わったかもしれない。
ー〈ノンネイティブ〉は今季で47シーズン目ですよね。これだけ長く続いている国内ブランドもそう多くはないと思います。
藤井:自分たちより長いとなると、〈アンダーカバー(UNDERCOVER)〉や〈ネイバーフッド(NEIGHBORHOOD)〉になるのかな。先輩たちのブランドですね。
ーだけど、あんまりそういうことも気にしないってことですよね。
藤井:そうですね。最近は娘の友達がうちによく遊びに来るんですけど、みんな2000年前後にぼくらがしていた格好をしているんです。Tシャツはピタピタで、ルーズなペインターパンツを合わせて、足元はワークブーツみたいな。それこそ娘は〈ノンネイティブ〉がスタートした頃の服をよく着ていて。そうした動きを見て、いままで同世代のことを中心に考えて服をつくっていましたが、これからは若い世代の感性も視野に入れながらデザインを考えなきゃなって思ってます。
ー若い世代にいかに受け入れられるか。
藤井:時代の変化は感じますね。昔に戻っているような気もするし。ただ、価格が高くなり過ぎていることに懸念しています。あとはここまで暑いと、春夏なんかはトレンドなんて言っている場合でもなくなってますし。そう考えるとファッションブランドって舵取りが難しい時代に突入していると思います。デザイナーってもう憧れの職業じゃなくなっていますし。
ー厳しい暑さに対して、デザイナーとして考えることはありますか?
藤井:接触冷感の生地とかがありますけど、もっと本質的な暑さ対策をしないといけなくなると思います。メリノウールが流行っているのは、きっとそういうことですよね。肌にいいし、汗をかいてもすぐに発散してくれるから。
ー日差しが強いから、半袖よりも長袖を着ていた方が涼しいっていうひともいて。日傘を持ち歩く男性も増えています。
藤井:僕も持ってますけど、全然使ってないですね(笑)。
ー日傘をつくるブランドも出てきそうです。
藤井:〈ノンネイティブ〉ではやらないですね。それってもうファッションじゃないかと思うので。昔からおしゃれは我慢っていうじゃないですか(笑)。でも、そう考えるとファッションって進化してないですよね。
ーファッションの役割は良くも悪くも変わってないのかもしれませんが、デザインは進化していると思います。〈ノンネイティブ〉に関しても、47シーズンもコレクションを発表するなかで、いろんな変化があったと思うんです。
藤井:自分自身の話をすれば、服との向き合い方が変わったかもしれません。いままでは服と睨めっこしながらデザインを考えていたんですよ。だけど、いまは服に感謝しているというか。服屋として服をつくることによって自分たちの生活が成り立っているから。そういう意味で関わり方が変わってきましたね。いままでは産みの苦しみがあったけど、いまはあんまり感じないかもしれません。むしろ「ありがとう」みたいな心境ですね。
ー嗜好品としてのファッションではなく、衣食住のファッションとして、より身近なものになるようなイメージですか?
藤井:ご飯をつくるにしても、料理の基礎を覚えるまでは大変だけど、慣れたら食べたいものをなんでもつくれるようになるし、それってすごく楽しいじゃないですか。いまはそういう感じになってますね。
ーその境地に至るには、かなりの時間を要しますよね。
藤井:もちろんビジネスとしても成立させなければいけないから、売れないと意味がない。だから続けられるようにがんばらないと、買ってくれたお客さんに対して申し訳がつかない。そういうことは大前提として意識しつつ、最近はちょっと肩の力が抜けたかもしれません。いい意味で適当にというか、リラックスしてつくれるようになったのかもしれないですね。