スタイリストとしてのみならず、写真に映像制作、はたまたブランドディレクションまで、肩書きにとらわれることなく自由に表現活動を繰り広げる梶雄太。そんな彼が自ら綴った〈サンセ サンセ〉の商品説明を、ランダムに紹介していく連載企画。今回は、プリンスの名曲から紡がれた1人の男のストーリーをお届けします。
「イヤになってさ、全部捨てたんだよ」
ワイパーの音をかき消すように、男は運転しながらそう言った。
「好きなことやってただけなんだ、たまたま運が良かったのかな。まだあの頃は今みたいにこんな仕事誰でもやれる訳ではなかったからね」
発色の良いワゴンは逆輸入車であろうか? なかなか東京で見ることのない車種であることに違いない。
「広告の仕事やバジェットの大きな案件ばかりが否応無しに続くだけになってきたんだ、なんか本当に俺はこれがやりたいのかなって。そんな毎日だったからさ日本から一度離れようとおもったんだ」
そろそろ梅雨の季節だ。ラジオからプリンスの曲が流れてきたと同時に信号は青に変わった。
男は最後まで雨にも自分にも酔っているようだ。
アーメン。