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【京都を楽しむ5つのこと】vol.1 食道楽な新しい京都の顔ぶれ。

紅葉も深まり、秋の気配が色濃い京都。コンパクトで回りやすく、歴史的な建造物や新旧さまざまなお店があり、ちょっと足を伸ばせば豊かな自然もありと、見るべき場所が目白押しでまさに旅にうってつけ。今回は、新陳代謝の激しい京都のなかで、ここ1年ぐらいに誕生した4つのおいしい新店を紹介します。

Photo_Kai Naito
Text_Shinri Kobayashi
Edit_Shuhei Wakiyama


DIYスピリットが息づくパン屋兼飲み屋。

「this is ormary store」。このお店の名前は、阪神ファンであるオーナーが往年の名選手・オマリーにあやかってつけたそう。しかも繁忙時のお店の手伝いは、お母さんにお願いしているんだとか。こんな親しみがわくような、力の抜けたエピソードがこのお店にはたくさん。でも、味はめちゃくちゃうまい。

人気のメニューという、「ちょっとずつ盛り合わせ5種」からいただきましょう。

彩り豊かなメニューのなかで、中トロにブラッターチーズ、しめサバとブルーチーズ、マスカルポーネとホタテなど、予想外の組み合わせには、驚かされます。しかも奇抜なだけでなく、その実はたしかなうまさ。聞けば、創作系のレストランで働いたわけではなく、ひとに教えてもらったり、どこかで食べるものがヒントになるそうで、圧倒的なセンスを感じます。

この並外れた発想は、店主のキャリアにも通じています。「いわゆるちゃんとしたパン屋には勤めたことがありません。20年近く独学でパンをつくってきました」とは、店主の平居勇一郎さん。

実はこのお店には、夜の立ち飲み屋以外に、テイクアウトもできるパン屋としての顔もあります。店主自身が好きだというハード系のパンを中心としたパンが並び、ご近所さんたちが昼からパンを買いにきます。パンは、厳選した小麦と自家製天然酵母を使い、食べ応えが抜群。ワインのアテとしても楽しめます。それにしてもこれを独学でつくってしまうとは。料理と並び、センスの良さにただただ驚くばかりです。

酒類は、ビオワインを中心にビール、サワー、ジン、焼酎など多種多様。場所も京都駅からすぐ近く。新幹線に乗る前にちょっと一杯ひっかけながら、パンを手土産に帰宅する、なんていうコースもいいですね。

朝早くからオープンするパン屋がひしめき合う京都にあって、差別化の意味も込めてパン屋なのに14時オープンというちょっと特殊な営業時間です。営業時間にはご注意を。

INFOMATION

this is ormary store

住所:京都府京都市下京区本塩竈町533-3
営業時間:14:00〜21:00(Lo20:00)※時間変動有り
定休日:火曜、不定休
Instagram:@this_is_ormary_store

落ち着く空間でネルドリップの深化を。

次のお店は、「深煎りコーヒー=苦い」と感じているひとにこそぜひ訪れてほしい、昔ながらのネルドリップの再解釈を感じられる新店です。

店主は、京都市内でカフェ「bande à part」を営んでいましたが、そこを閉めて一年半。以前のお店と味やコンセプトは変えず、「伴奏珈琲」を2024年9月にオープンしました。

元々はお米屋さんだったというこの場所に訪れると、店先に看板がなく、知らないと通り過ぎてしまいそうな雰囲気です。「喧騒の街とは切り離して、コーヒー好きなひとがゆったりと過ごせるような空間を目指しました」というのは店主の坂東辰郎さん。自分たちで内装を仕上げた空間は、間接照明によってところどころ人の手の痕跡が読み取ることができ、肩肘をはらなくていい心地よさにつながっています。

我々が訪れたのは夕暮れ。ジャズのレコードが流れる、薄暗く心地のよい空間に運ばれきた漆黒のコーヒーは、深煎りの豆と相性のいいネルドリップで丁寧に淹れたもの。口に運ぶと、苦いというよりも、重厚感のある、とろみのある角の取れた味わい。こっくりとしていて、豆の甘みも感じられる新しい深煎りコーヒーの世界に触れた気がします。

コーヒーのオーダーは、豆と水の量を5段階の組み合わせから選んでオーダーします。使っていた豆は、京都のこれまた新店「み空」と、東京の「不眠荘」から仕入れたもの。以前は自家焙煎していたものの、現在は休止中で店主が信頼するお店から仕入れています。

店主のネルドリップへのこだわりは並々ならぬものがあります。いわゆるサードウェーブや個人焙煎など、コーヒーへの見識を深めるために、一通りのお店でキャリアを積みました。浅煎りも含めてさまざまなコーヒーを経験し、そのなかから自身が好きで、イメージする味を表現できると見込んだ深煎りのネルドリップを選び取ります。そのコーヒーへの深い見識は、(後ほど登場する)同業者「heath」の店主も舌を巻くほど。

自家製の甘味も充実していて、コーヒーと同じように、いい素材にこだわることが至上。「プロではありませんが」と謙遜するものの、その味はプロ顔負け。メニューには、ラムやシナモンがアクセントとして使われたチョコケーキ、ヨーグルト入りのさっぱりとしたチーズケーキが揃い、深煎りコーヒーとの相性は抜群。なぜケーキまで自作するのか?という問いには、自分でつくることで責任をちゃんと負いたいという、店主の潔さが見て取れます。

いまはお店のスペース上かないませんが、11月からは別の場所で豆の焙煎も再開するそう。使うのは、一回あたり最大500gの手回しの焙煎機。実は、500gってプロが使う量としてはそんなに多くないんです。どこまでも、自身の手の届く範囲で。コーヒーへのひたむきな思いが宿るこのお店は、これからもマイペースに多くのファンを獲得していくことでしょう。

INFOMATION

伴奏珈琲

住所:京都府京都市中京区西ノ京東月光町27
営業時間:13:00〜23:00
定休日:月、木曜、不定休
Instagram:@bansou_coffee

オタク気質が結実した、昼限定のフォー屋さん。

ケータリングや保存食、調味料を製造、販売する「保存食LAB」。京都では知られた存在です。

「保存食LAB」主催者の増本奈穂さんが「フォー屋さん」としてランチをはじめたのが、2024年9月。場所は10月に1周年を迎えた、北大路のバール「パルメラ」。こちらも増本夫妻が営むバールですが、かたやフォー、かたや酒に寄り添った料理を提供するということであえて別名義にしているそう。

フォーは元々好きで、プライベートでも何度もつくってきたと語る奈穂さんが調理する「フォー」は、鶏肉ベースのあっさりスープに、鶏肉、フライドオニオン、キクラゲ、パクチーやミント、シソといったハーブ等がぎっしりとのります。プラスで、季節ものの具材として仲間入りしていた焼きナスは、苦味がいいアクセントに。具沢山でさまざまな味の組み合わせを一皿のなかで楽しめます。

自他ともに認めるオタク気質だという奈穂さんが食べ比べの末にたどり着いたという麺は、米粉にタピオカデンプンを配合したモチモチ麺。滋味深いスープと麺が相まって、何杯でもいける味です。そしてそこに味変するために、オリジナルでつくった3種のちょい足し調味料が付きます。スパイスの効いたお酢やナンプラーなど、「保存食LAB」での経験と技術がうまくいかされた調味料です。

15時を過ぎれば「パルメラ」のアラカルトメニューもオーダーできます。今回は、「ハモカツ タルタルソース」と「自家製パンとバター」、そして白のグラスワインをおすすめで注文。やはり京都に来たらハモを注文せずにはいられません。サクサクの衣のハモと酸味の効いた自家製タルタルソースがよく合い、なみなみに入ったワインがグビグビ進みます。

最後は、奈穂さんが「とても繊細でおいしいんです」と笑顔で太鼓判を押してくれた、「mizûmi」によるデザートメニュー「紅茶のチーズテリーヌ」と自家製アイスの「アップルシナモン」でフィニッシュ。見た目はシンプルながらも、上質な素材の上品なセンスが織りなす味わいは、濃厚すぎずちょうどいい甘さで気持ちいい余韻を残してくれます。

ランチをはじめたばかりながらも、すでに人気店となっている「フォー屋さん」。素敵な内装やセレクトされたお皿にもセンスのよさを感じます。ピンクと緑の目をひくファサードが目印です。

INFOMATION

フォー屋さん/パルメラ

住所:京都府京都市左京区下鴨貴船町48
営業時間:12:00〜14:00(フォー屋さん/通常火〜木曜のみ、土・日曜は不定期営業あり)、15:00〜21:00(パルメラ)
定休日:日・月曜
Instagram:@pho.kyoto、@palmela_kyoto

コーヒーは正統派、ドーナツは我流の人気店。

「ドーナツがこれほどバズったのは予想外だった」と話すのは、店主のELLYさん。

巷では、“生ドーナツ”ブームが続いています。その味を定義するならば、ふんわり・もちもち。このお店のドーナツもまさにそう。独学で学んだという、ドーナツはふわふわで、もちもちならぬ“ムチムチ”。独学というわりには、あまりに高い完成度。仕込みから完成まで、毎朝3時間かけて精魂込めて毎日つくっています。

まずは、看板メニューになりつつあるドーナツから。この日に並んでいたのは、「プレーン」「シュガー」「ココナッツ」「グレーズド」の4種。アメリカのドーナツをイメージしたという通り、ボリューミー。なのに、一口ガブリといけばその歯応えはムッチムチ。もちろん確かな甘さも満足感につながっています。でも油っぽくなくて、パンにも通じるような軽やかさもある。

見た目の愛くるしさと相まって、いまでは12時にできあがるドーナツめがけてお客さんがくるほどの看板メニューになってはいるものの、バリスタがELLYさんの肩書き。「このお店は、あくまでコーヒーを飲むカフェであるという意識を保っていたい」と、ELLYさんはその誇りを話してくれました。

「heath」には、家では淹れにくいエスプレッソ系のメニューが充実しています。イタリアの名機〈シネッソ〉のハイエンドなエスプレッソマシンで抽出されるラテを我々もいただきましたが、重厚なエスプレッソがしっかりと味わえ、苦味と甘みの混在したラテのお手本のような味わいでした。

聞けば、ELLYさんはエスプレッソ系の正統派である、〈サタデーズ ニューヨークシティ〉などのお店でバリスタを務めていたそう。いま使っている豆の焙煎は、その時代の先輩が営む大阪の「Chevron Coffee Roasters」に頼んでいます。それは自分とひとの得意分野を見極めた結果なんだとか。

店内の片隅には、ポートランドのガイドブックが。このお店は、大好きなポートランドの「バリスタ」がインスピレーションになっています。確かにコンパクトでありながら、お店もカルチャーも充実している京都のこの感じは、ポートランドと近しいかもしれません。ELLYさんのお店への通勤手段が自転車なのも、実にポートランドらしい。

「パジャマでも気兼ねなく入れるようなお店を目指している」という言葉通り、店内にいるひとたちはどこか楽しそう。それはドーナツやコーヒーの味はもちろん、店主のELLYさんの人柄に負うところも多そうな気がします。とにかくひとを惹きつける、キャラクターは天性のもの。味はもちろん、楽しい気分になれるお店として「heath」はオススメです。

INFOMATION

heath

住所:京都府京都市中京区下八文字町685
営業時間:9:00〜17:00
定休日:木曜、不定休
Instagram:@heath_jp

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