1990年代、誕生から100年経過している“アンティーク”に対し、その定義は満たしていないけど、価値のありそうな古着を打ち出す際に使われ出した言葉“ヴィンテージ”。今ではさらに“レギュラー”と呼ばれていた80年代以降の古着にも、“ニュー・ヴィンテージ”という新たな価値を見出す動きがあります。本企画ではこの古着の新たな楽しみ方を、スタイルの異なる4つの古着屋が提案。それぞれの感覚でその魅力を語ります。
新たにショップが全て入れ替わり、始まった14シーズン目! 第107回目は、横浜随一の飲み屋街・野毛に店を構える「オンザウェイ ストア(ONTHEWAY STORE)」の小山 翼さん! どんなニュー・ヴィンテージを紹介してくれるのでしょうか!?
Text_Tommy
Edit_Yosuke Ishii
小山 翼 / ONTHEWAY STORE 店主
Vol.107_ダイナスティロゴと漢字ロゴの〈New Era®️〉キャップ&モア
―本連載では、いわゆるグッドレギュラーと呼ばれる中から、トゥルー・ヴィンテージのように後の世にまで記録と記憶に残っていく可能性を持ったアイテムを探していく企画です。そこでお聞きします。「オンザウェイ ストア」、そして小山さん自分自身が考えるニュー・ヴィンテージの定義とは?
ウチの場合、純然たる古着屋ではなく、あくまで“古着も”取り扱っているセレクトショップなので、他のお店さんとは感覚的に違う部分はあるかもですが…。基本はいわゆるグッドレギュラーの定義と一緒で“あまり見かけない面白いモノ”でしょうか。特にユーズドの帽子に関しては、ぼく自身が好きということもあって常に何かしら並べています。
ーセレクトショップといっても千差万別だと思います。「オンザウェイ ストア」はどんなノリでしょうか?
ショップ全体のセレクトに関していえば、国内外問わず他店ではあまり展開されていないブランドやアイテムにスポットを当てるようにしています。テイスト的には、いわゆる“ストリート”で、グラフィックの面白さという視点で選ぶことも多いです。やっぱり、これまで自分自身が通ってきたカルチャーやシーンがベースになっているので、90年代〜00年代ノリのアイテムを見つけると、ついつい反応してしまいます。
ーそんな小山さんに今回、どんなニュー・ヴィンテージを紹介していただけるのか楽しみです。
前回の「マーマレード(marmalade)」さんから続いて…になってしまい恐縮ですが、キャップを中心にいきたいと思います。先ほども述べたように、ウチの店では“メッセージやグラフィックに面白みが感じられて、売れる・売れないとか関係なしにお店のスパイスになるかどうか”でセレクトしているのですが、その中でも個人的に気になっているのが、まずはコチラ。
MLBオフィシャルのスウェットスタジャン“ニューヨーク・ヤンキース”¥13,200、ニューエラのキャップ“ニューヨーク・ヤンキース”¥9,900(ともにオンザウェイ ストア)、ノーブランドのビーニー“ニューヨーク・ヤンキース”(本人私物)
ーあ、コレは懐かしい!
注音符号(ボポモフォ)と呼ばれる中国語の発音記号で、台湾では漢字のふりがなとして使われています。これをデザインした“ダイナスティロゴ”のスポーツアイテムです。00年代に流行って、さらに2022年に〈シュプリーム(Supreme)〉もやったネタなのでご存じの方も多いかと。代表的なのがニューヨーク・ヤンキース。これで“ワイ”と発音し、ヤンキースの頭文字“Y”を表しています。人気の高い〈ニューエラ(New Era®️)〉のキャップは、2019年に復刻もされています。
ーウェアもあるとは、知りませんでした。
スウェットスタジャンは〈MLB〉公式、ビーニーはノーブランドですが、探してみると他にもベースボールシャツやロンTなど、色々なアイテムが見つかります。またMLB(ベースボール)だけでなく、NBA(バスケ)、NFL(アメフト)、NHL(アイスホッケー)とアメリカ4大スポーツで展開しているので、探してみると面白いかと。これなんかは、 NBAチームのニューヨーク・ニックスですね。ヤンキースや(ロサンゼルス・)ドジャースに比べて見つかりづらくレアです。
ニューエラのキャップ“ニューヨーク・ニックス”¥11,000(オンザウェイ ストア)
ーこれで何て読むんですか?
発音は“ケイ”。そう、ニックスの頭文字の“K”を表しているというワケです。ちなみに、海外の〈ニューエラ〉のデザイナーに直接聞いた話では、MLBにしろNBAにしろ、このデザイン自体に商標権や意匠権があるわけではなく、誰でも自由に使える記号だそうです。まぁ、そうですよね。ひらがなの“あ”や“か”で申請が通るハズないですし(笑)。
ーヤンキースやニックスのロゴとワンセットでなければ…ということですね。勉強になります!
6歳年上の兄の影響でストリートに触れたぼくですが、この辺はギリギリ通っておらず、後乗りで知ってグラフィカルなデザインに惹かれました。フリマアプリなんかで探してみても復刻版でさえ結構高くて。キャップが2万円で取引きされていたりもします。当時モノの〈ニューエラ〉はメイド・イン・USA時代に作られている場合が多いので、そういう意味でも希少価値は高まっている模様。で、お次も〈ニューエラ〉。
ニューエラのキャップ“シカゴ・カブス”¥11,000、ニューエラのキャップ“ニューヨーク・ヤンキース”¥9,900(ともにオンザウェイ ストア)
ーこちらこそ、まさに“漢字”ロゴですね。
こちらもMLBで、“熊”がシカゴ・カブス、“朝”はニューヨーク・ヤンキースです。背面にロゴマークが入っているので一目瞭然。とはいえカブスは分かるんです、熊がマスコトッキャラですし。でも、ヤンキースがなぜ“朝”なのか…謎で。どなたか分かる方、教えてください!
ー気になりますね。ともにOGカラーではないというのもポイント。先ほどのヤンキースやニックス、こちらのヤンキースも然り。
なんとなく当時の空気感ですよね、水色とか赤は特に。白のドゥーラグの上から斜めに被るようなクラシカルなスタイルに合いそう。今見るとかなりフレッシュ。で、さらにもう1歩、深く掘ってみるとこんなデザインも。三度目の〈ニューエラ〉ですが、どうやらカレッジスポーツのシリーズだと思われます。
ニューエラのキャップ“风”、ニューエラのキャップ“鰐”(ともに本人私物)
ーとなると“鰐”はフロリダ大学?
ですね。マスコットキャラの名前はゲーターズ。古着ではスウェットシャツなどが見つかるので、よく知られています。もう1つの“风”はマイアミ大学。セバスチャンというマスコットキャラです。こちらの2つはぼく自身初見。背面がフィッテド仕様ではなくストラップ仕様という点も珍しいし、しっかりメイド・イン・USAというのもポイント。このシリーズはマジで見つかりません。
ーワンチャンに期待して探してみるのもアリですね。
今回紹介した〈ニューエラ®️〉の「59FIFTY®️」のようなストレートバイザーでフィッテド仕様のタイプは、フロントパネルが硬くて実は苦手だったんですが、ユーズドで探すことで最近ちょっとイイなと思うように。
ーそれはまたなぜ?
洗いがかっているためボディが柔らかくなっていて被りやすく、それでいて人と被る可能性はは少ない。特に今回紹介したような“ダイナスティロゴ”や“漢字ロゴ”であればなおさら。この絶妙にイナタイ感じも、ウチのホームである野毛の飲屋街にハマりそうですしね。ただ、気を付けなければいけないのがサイズ選び。ユーズドの場合、タグに表記されたサイズは100%当てにならないので注意しましょう。洗濯されていたりで大概2サイズくらい縮んでいるので、購入前の試着はマストです!
小山 翼 / ONTHEWAY STORE 店主
オーダーメイドジュエリー会社に就職した後、独立を目指し一度、オーストラリアへ出稼ぎに行く。帰国後、人生の迷走期間を経てジュエリーブランド〈インプットアウト(IN-PUT-OUT)〉として独立。2023年夏に自身が作るジュエリーとセレクトしたアパレルを販売するべく、横浜の飲み屋街である野毛エリアに「オンザウェイ スト(ONTHEWAY STORE)」をオープン。国内外のニッチなブランドをメインに古着も扱う。
インスタグラム:@ontheway_store_yokohama