1990年代、誕生から100年経過している“アンティーク”に対し、その定義は満たしていないけど、価値のありそうな古着を打ち出す際に使われ出した言葉“ヴィンテージ”。今ではさらに“レギュラー”と呼ばれていた80年代以降の古着にも、“ニュー・ヴィンテージ”という新たな価値を見出す動きがあります。本企画ではこの古着の新たな楽しみ方を、スタイルの異なる4つの古着屋が提案。それぞれの感覚でその魅力を語ります。
新たにショップがすべて入れ替わり、はじまったシーズン14も2巡目に突入! 第110回目は、自由が丘の「マーマレード(marmalade)」のHiroさん。今回はどんなニュー・ヴィンテージを紹介してくれるのでしょうか!?
Text_Tommy
Edit_Yosuke Ishii
Hiro / marmalade 店主
Vol.110_ナイキ ゴルフ/エディー・バウアー/パタゴニアのデタッチャブルパンツ
―今回ご紹介いただくニュー・ヴィンテージを教えください!
今回はデチャッタブルパンツです。30代オーバーの世代にとっては、コンバーチブルパンツという呼称の方がピンとくるかもしれません。
ー最近、古着界隈だけでなくストリート、アウトドア、スポーツなどのブランドからもリリースされているのを見かけます。
そうですね。その辺のジャンルはウチの店が得意としているところでもありますし、個人的に好きでよく穿いているので今回ピックアップしてみました。裾部分の脱着によってフルレングスとショート丈の両方で使えるというギミックの面白さが最大の魅力ですが、デザインやシルエット次第で色々なスタイルに対応する汎用性の高さも見どころです。
ー90年代〜00年代初頭のイメージが強いアイテムですが、どういう流れからシーンに復活したんでしょうね?
そもそもの文脈的にはアウトドアのジャンルから派生したものですが、Y2Kファッションの流行もあって、当時の雰囲気が味わえるデザインコンシャスなアイテムとして、いまは注目されているのかな? と個人的には思っています。最初に触れた呼称に関して言えば、前者のデタッチャブルが“脱着可能”、後者のコンバーチブルが“複数(通常2種類)の様式に転換可能”となるので、意味合い的にはほぼ一緒。ちなみにアメリカでは後者か「ジップオフパンツ」と呼ばれる場合が多いようです。
ーなんともアメリカっぽいですよね。1本2役という合理主義的な感じも。
ですね。アメリカは国土が広く、場所によって時差もあるし気候も異なるので、ハイキングなどのアウトドアシーンのみならずトラベルなどの日常シーンでも、かさばることなく便利に使えるっていう。あと裾ジップの位置が基本的にフルレングスの約半分に設定されているものが多いため、昨今のトレンドであるヒザ下丈のショーツ人気にもハマるのかなって。
ーたしかに、それも一理アリそう。
また、これからの時期はフルレングスだと暑いので、裾を装着した状態のまま途中までジップを開けることで、通気性が手に入ります。これがまた自転車に乗る際に調子イイし、ちょっとした個性も演出できるので、アリな着方かなって。ただぼく自身は裾パーツを失くすのが怖いので、正直ショーツでは履かないんですけどね(笑)。
ー(笑)。ということで、ご用意いただいた1本目は〈ナイキ ゴルフ(NIKE GOLF)〉。
ゴルフでラウンドする際に、朝イチはちょっと冷えるからフルレングス。プレーしている内にテンションが上がって暑くなってきたらショーツに。ただし“紳士のスポーツ”だからタック入りでちょっとカチッとしたスタイル。素材はコットンで、スウッシュがある以外はテック感もナイキ感も皆無というのがまた良いですね。
ナイキ ゴルフのデタッチャブルパンツ ¥18,480(マーマレード)
ーその分、クリーンに履けますよね。白パンは難易度の高いボトムスですが、これくらい履き込んでちょっとヤレた感じなら、気負わずに取り入れられそう。続いてはアウトドアの定番ブランド〈エディー・バウアー(Eddie Bauer)〉ですね。
みんな大好きなカーゴパンツ。バウアーのデタッチャブルは割とトラベル用のニュアンスが強く、手荷物を減らすことができるカーゴタイプが重宝する、と。素材はコットン60%:ナイロン40%のいわゆるロクヨンクロスでシャリ感と防水性もあって、梅雨を控えたこれからの時期に重宝します。タグから判断するに、90年代後半くらいでしょうか。
エディー・バウアーのデタッチャブルパンツ ¥18,480(マーマレード)
ーこのポケットの形状、カーブに沿ってギリギリの位置に落としたステッチも絶妙。ミリタリーの武骨さが抑えられていてアーバン&ミニマル。
カーゴポケットはマチ付きですがボコッと膨らまずスマート。でもジップの引き手部分はミリタリーものっぽい武骨さがありつつ、付属のリングベルトはクラシカル。時代的にはウェビングベルトが普通だし、せっかくデタッチャブル仕様で利便性を追求するなら「なぜいまさら?」と疑問符が浮かびますが、ディテールのミスマッチ感が生まれて面白いと思います。
ーアレンジ具合の塩梅がちょうど良いと。そして3本目のドン尻に控えしは〈パタゴニア(Patagonia)〉。
時代的には00年代でしょうか。同社でいえば「クアンダリー・コンバーティブル・パンツ」というモデルが現行でリリースされていますが、そちらはやや細みで結構スタイリッシュ。対するこちらはMARSシリーズのような現代的かつ武骨な雰囲気があります。
パタゴニアのデタッチャブルパンツ ¥21,780(マーマレード)
ーディテール的にはミリタリーというよりもワークやアウトドアのそれに見えます。
名作「スタンドアップショーツ」のように左右で繋がっているような背面ポケットや、手が入れやすいL字のフロントポケット。リベットではなく丸型のカンヌキ留めなど、細部まで独自のデザイン美学が感じられて、非常に〈パタゴニア〉っぽいなって。裾のシルエットが変わる仕様もユニークで、太めのストレートを着用時に好みでアジャストできるようになっています。
ー片側のサイドポケットをヒザより下の裾部分にあしらっているせいで、取り外してショーツにした際に収納力が落ちるというのも、なんだか不思議なつくりですね。
本当にそうですね。しかもサイドのシーム部分を、わざわざぶった切るようにポケットを配置しているため「工数が増えてコストを上げてまで増設しておいて、なぜ?」って。あとはシンプルに、この位置のポケットは立った状態では開閉できないので、ちょっと使いづらいんじゃないかなって(笑)。
ーとはいえ全体の雰囲気は非常に良いんですよね。
カーキとコヨーテの中間のような色味も、好きな人たちには響くのではないかなと思います。なんにしろ、いまくらいの時期にちょうど活躍するアイテムなんじゃないでしょうか。夏の暑さも前倒しできていますし、梅雨でジメジメするっていう時も利便性が良くって、かつファッション的なトレンドも押さえられる。大人世代が“言い訳できる”というのもポイントだと思っていて。
ー言い訳というのは、どういう意味ですか?
しっかりアウトドアやスポーツの背景があるブランドを選ぶことで、「若い世代がファッションの文脈で穿いているモノとは違うんですよ」と言えるじゃないですか? 「それ、流行っているよね」と他人からツッコまれた際に、「そうなの? 便利だから穿いているだけなんだけどね」って。大人のファッションには言い訳が大事なんです(笑)
Hiro / marmalade 店主
高校時代から古着を買い続け、大学時代にはアメリカに留学。そこで映画や音楽といったアメリカンカルチャーにさらにドップリ浸かる。その後、広告制作会社にインターンとして勤めるも、ファッションへの想いを捨て切れず「ゾゾ(ZOZO)」に入社。同社の古着部門で買い取り査定業務を担当。原宿とんちゃん通りのアクセサリーショップ「ポケット(Pocket)」を経て、2023年、自由が丘の学園通り沿いに「マーマレード(marmalade)」をオープン。90年代を中心に、アメリカで直接買い付けてきたアウトドア系やテック系をメインとした古着・雑貨が並ぶ。
インスタグラム:@hmarmalade_jiyugaoka