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【FOCUS IT.】あらゆる時代のテキスタイルに新しい命を吹き込むブランド、キミー。デザイナーのキム・ヒョッスに聞く、服づくりとの向き合い方。

古のクラフトワークと最新のテクノロジーを融合させ、新たなスタイルを提案し続けるファッションブランド〈キミー(KIMMY)〉。相反するものを組み合わせてつくられているにも関わらず、完成品に一切の淀みはなく、ひとつのアート作品のような美しささえ覚えます。

そんな〈キミー〉のアイテムは如何にして生まれているのか。設立から5年目に突入したこのタイミングで、デザイナーのキム・ヒョッス氏に服づくりへの向き合い方について伺いました。

Photo_Hiroaki Sugawara
Edit_Naoya Tsuneshige


PROFILE

キム・ヒョッス

プラモデルやミニ四駆に熱中した幼少期、高円寺の古着屋や原宿のショップに通い詰めた少年期を経て、服飾の専門学校へ進学。その後複数のブランドでディレクターやデザイナーを経験した後、2021年に〈キミー〉を設立。
Instagram:@kimmy__official


対極にあるものを繋いでつくる未来。

ー あらためて〈キミー(KIMMY)〉というブランドについて教えてもらえますか?

キム:コンセプトは“Human craft & function”。人間にしか成し得ない手作業、昔ながらの手仕事、それらと最新の機能(素材)を掛け合わすことで生まれる新しい形の追求、というのをブランドの根幹にしています。

ぼくが昔から興味・関心のあった古着と、前職で培った機能面の知識をアイテムに投影させているという感じです。

ー 2021年にブランドを立ち上げてから丸4年が経過しました。その根幹の部分というのはいまも変わらずでしょうか。

キム:そうですね。ただ、ブランド発足当初はどちらかというと“function”の部分が前面に出ているアイテムが多かったんです。そこでいまいちどコンセプトを見つめ直し、“Human craft”の方をもっと掘り下げる必要があるなと感じたのがここ数年。

そのタイミングで新たに“New Old”という言葉をコンセプトと並行して掲げ、多角的にアプローチし、デザインの幅を広げているという段階です。

ー その“New Old”というキーワードについて、詳しく聞かせてもらえますか?

キム:“手仕事”の部分をもっともっと掘り下げる必要があると思ったんです。ぼくたちが見ている手仕事ってほんのいち部分でしかなくて、本来は歴史的背景や土地柄によってもさまざまだし、さらに言うといまでは存在していないような、資料としてしか見られないものもたくさんある。

それらを現代に甦らせる…と言うと少し仰々しいかもしれませんが、新しいものと組み合わせることで新たな価値を見出し、過去と現在、そして未来を繋ぐようなものを〈キミー〉でつくりたいと思ったんです。そういうニュアンスが分かりやすく伝わったらいいなと思って、“New Old”というキーワードを掲げました。

ー キムさんは古いものにも新しいものにも、同じように魅了されているのですね。

キム:そういうことですね(笑)。昔はそれこそめちゃくちゃ重いピーコートやライダースなんかを好んで着ていましたけど、いざ新しい服にも袖を通してみると、どれも機能的でありながらすごく軽いじゃないですか。そんな対極にあるものを組み合わせることで、自分にしかつくり出せない“Human craft & function”、さらに言うと“New Old”になるんじゃないかなと思っているんです。

ー これまでのキムさんのキャリアが、いまの〈キミー〉のものづくりや考え方に大きな影響を与えているように感じます。

キム:古着はずっと好きだったんですけど、それ以外は前職の影響が大きんでしょうね。某スポーツブランドでアパレル商品部の開発チームに所属していたんですけど、そこでのものづくりっていうのは、やはり機能面が前面に出たシンプルでベーシックなものがほとんど。

古着好きとして、そしてつくり手としては少し物足りなさを感じることもあったんですが、そこで得た知識や経験、さまざまなメーカーとの繋がりというのは自分のなかではとても大きく、いまの〈キミー〉の礎のひとつになっていることは間違いないですね。


昔もいまも、やっていることは同じ。

ー ところでキムさんは、いつからファッションに興味を持ち始めたんですか?

キム:ファッションへの興味となると12歳くらいのときですかね。でももう少し遡ってみると、ぼくは小さいころからゲームとかにあまり興味がない子どもで、プラモデルとかミニ四駆とかそういうのばかりを触ってたんですよ。それをいじくり回すのがとにかく大好きで、つくり終わった後に違うパーツと組み合わせてみたり、削ったり溶接したりして形を変えてみたり、好きなカラーにペイントしてみたり、そういうことばかりをやっていた少年時代でした。

きっかけが訪れたのは小学6年生のとき。ふらっと通りかかった近所の本屋で、反町隆史さんが表紙のファッション誌が目に入ったんです。なにか運命的なものを感じて買って読んでみると、ファッションというよりは、衣服としての造形というか、デザインというか、装飾というか…、そういうものにものすごく惹かれてしまって。プラモデルをいじくり回していた少年の興味は、このタイミングで服に移り変わったんです。そして中学生時代には、雑誌を読んではお店に行って、というのを繰り返していました。

ー いまの〈キミー〉のものづくりの原点ということですね。

キム:本当にその通りですね。戦闘機のプラモデルを、ポスターカラーでピンクとかシルバーで塗りたくっていたときなんかはよく母親から驚かれていましたけど、結局いまもやっていることは同じで、アレンジの対象がプラモデルから服になっただけ。だから単純に、やりたいことをやっているだけなんですよね、いまも。

当時の母親もそうですが、やっぱり自分がやったことや工夫したことで、周りが反応してくれるのって嬉しいし、楽しいですからね。

ー そんなキムさんだからこそ、周りをあっと言わせる素材選びや組み合わせ方ができるんですね。そもそも素材選びはどういうふうに行なっているんですか?

キム:話は“New Old”に戻りますが、ぼくは組み合わせを考えるとき、まず古い方から決めるんですよ。フィードサックしかり、サイクリングジャージしかり、デザインとしてクセやアクが強いのは明らかにこっちなので、そことの相性ありきで新しい機能素材を当てはめていく方がいいんです。考えやすいというか。どう考えても、フィードサックとゴアテックスは相性悪いですからね(笑)。

キム:この後ろにある真ん中のフィードサックを使用したアイテムでいうと、最終的にワッシャー加工が施されたリヨセルナイロン生地にたどり着いたわけですが、結果的に両者がよさを引き立て合い、ノスタルジーでありながらもどこかいまっぽい、相反するものの共存に成功しました。

ー “Old”の素材選びはキムさんが興味のある古着に始まり、膨大な数のアーカイブを有する生地屋さんとのパイプもあると伺っています。

キム:都内某所に、1800〜1980年までの期間にヨーロッパで収集されたテキスタイル100万点、1000冊にも及ぶ冊子を所有しているテキスタイルの企画、製造、販売会社があって。

ー ものすごい量ですね。そこで選んでいると。

キム:もちろんシーズンによってテーマは変わるので、つねにここで選んでいるというわけではないのですが、なにかイメージに合いそうなものがないか相談することは多いですね。そして実際に足を運んで冊子にひたすら目を通す感じ。

ー 毎日通ったとしても、到底見切れない量ですよね。

キム:ほんとにそう(笑)。〈キミー〉のアイテムのヒントを探しに行くこともあれば、ただただいろんな生地を見るのが楽しくて通っていた時期もありました。

キム:このページの生地サンプルは、まさに前シーズンのアイテムに使用させてもらったものですね。ここには実際に当時の生地がたくさんあるわけではなく、端切れがあるだけなので、それを見ながら当時の雰囲気を甦らせるイメージで生地を新たに作成してもらうんです。

そのままを再現することもあれば、例えばメッシュを被せて“ファンクション ヴィンテージ”みたいな雰囲気に仕上げることもあります。

ー その一連の流れも、ある意味“New Old”というわけですね。

キム:単純に“New Old”と言っても、その考え方はいろいろあると思っていて。現存していない生地に再び命を吹き込むこともそうだし、それをアレンジして新しい形に生まれ変わらせることも、ぼくが考える“New Old”の一環なんです。


変化のなかの不変。

ー ご自身の好きなものをただひたすら追求し続けていたら、いまの〈キミー〉という表現方法に行き着いたんですね。

キム:そうですね。そこはブレていないと思います。だけど、売れないと意味がないということももちろん分かっていて。“売れる”ということはつまり、“多くのひとに認められる”ということなので、流行や世論を無視して突っ走るわけにもいきません。

ブランドのフィロソフィーを体現するコンセプチュアルなアイテムをつくる一方で、バランスを考えた多くのひとが着やすいもの、だけれど、コンセプトもしっかりと踏襲したようなもの、もつくり続ける必要がありますよね。その絶妙なバランス感については、過去の経験から培われたと思っています。

ー やはり〈キミー〉には、キムさんのこれまでの経験が存分に活かされているのですね。ちなみにここにあるのは次シーズンのアイテムですか?

キム:すべては見せられないのですが、その通りです。テーマは“Western Function”。タイベックなどの機能素材を使ってそれを表現しました。いま言えるのはここまで。完成品を楽しみにしていてください。

ー どのように考えを巡らせたのか、これだけ聞かせてくれませんか?

キム:“Western”のルーツの部分をちゃんと考えるようにしました。どうしてこの柄なのか、どうしてこの形なのか。それぞれに意味はあって、そこは蔑ろにしてはいけないなと。

キム:そこを表現するにあたって、最初はデニムを使うことも考えたんですが、デニムでウエスタンシャツをつくってしまうと、それって“Old Old”になってしまいますよね。そこをあえてタイベック素材にするのが〈キミー〉というブランドだし、ぼくのやり方なんです。視覚的な古さだけにとらわれず、その時代背景も鑑みたうえでデザインしたつもりです。

ー 新作のヒントもいただけたところで、最後にブランドのこれからについて展望を聞かせてください。

キム:過去と現在と未来。それぞれにおいて衣服は時代を反映していると思うんです。そこにはその時々の生活があって、それぞれの文化がある。ぼくはそれを時代を超えてひとつにまとめ上げるような、そんな動き方をしていきたいんです。それはいまもそうだし、これからも変えてはいけないブランドの哲学だと思っています。

ー ブランドを続けるにあたって、ときには変化も必要になってくる場面もあると思います。

キム:そうですね。哲学の部分をブラしてはいけない一方で、やはりブランドとしては新しいものは出し続けなければなりません。時代の移ろいとともに新しい素材が次々と出てくるなかで、つねに“New Old”の新しいマッチングを探り続け、お客さまに届けること。それがぼくの使命であり、ブランドとしてやっていきたいことですね。

ー 初志貫徹という言葉がキムさんにはピッタリですね。

キム:幼い頃から何も変わらない。ぼくはぼくが思う“Human craft & function”、そして“New Old”を追求し続けるだけです。

INFORMATION

KIMMY

Instagram:@kimmy__official
Official web:kimmy store

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