王道ブランドの定番品はやっぱりいい。定番と言われるだけあって歴史があるし、信頼できるスペックもあって、何歳になっても飽きない。でもこれはちょっと天邪鬼なひとに向けた連載企画。あのブランドの、実は知られていない、けどグッとくるものを紹介します。第4回目は〈アー・ペー・セー〉のマイナーグッド。
Photo_Arata Suzuki
Styling_So Matsukawa
Text&Edit_Yuri Sudo
映画監督であるジム・ジャームッシュがマン・レイの短編作品に音楽をつけたように、自分の軸がありながら、他ジャンルへ足を踏み入れているひとには惹かれてしまいます。
〈アー・ペー・セー(A.P.C.)〉のデザイナー、ジャン・トゥイトゥは、1999年に「SECTION MUSICALE」を設立し、音楽の制作にも力を入れてきました。ファッションと音楽の融合を目指し、ブランド本社のあるフランス・パリのマダム通りにはなんとレコーディングスタジオをたて、30年以上もミュージシャンの友人たちを招いてセッションを行っているとか。
今回紹介するのは、そんなジャンの趣味によって生まれたアイテムたち。
CANADA
¥5,500
これまで33枚のアルバムを制作してきた「SECTION MUSICALE」。なかでもこちらは2022年12月に発売されたアナログレコード『Canada』です。ジャンの故郷であるチュニジアの旅からインスピレーションを得てつくられました。
全3曲を収録していて、1曲目の「Canada」はジャンの思春期の思い出を呼び起こす曲。アレンジにシンガーソングライターのブライアン・アダムスが参加しています。完成した経緯もおもしろく、ジミ・ヘンドリックスのベースラインを真似しようとするも間違えてしまい、そこから馬鹿げた発想や韻を踏んで曲に仕上げたそうなんです。偶然の産物をそのまま生かす発想は音楽だからできること。
そして2曲目は1曲目のダブバージョン、3曲目は墓地にまつわる家族の思い出を歌った曲です。12弦ギターが神秘的な雰囲気を醸し出しています。
TOKYO BLUES
¥3,300
2021年にリリースされたこのアルバムは、1999年から2000年に「A.P.C.代官山HOMME」が増床工事していたときの一枚。贅沢かな、撮影はホンマタカシ氏です。収録曲はいずれも東京の曇天のような落ち着いたメロディでありながら、音は軽やか。
唯一ジャンが作曲していない「TRIBUTE TO SUN RA」は、1992年、ベーシストで音楽プロデューサーであるビル・ラズウェルのブルックリンのスタジオで録音されたもので、〈アー・ペー・セー〉プロデュースで発売されたアルバム『THINK ABOUT BROOKLYN』からの抜粋です。ギターはジャンに加え、F・ロバート・ロイド他が参加し、伝説的なフリージャズギターリストのソニー・シャーロックが演奏という、最高の布陣によって生まれました。
ちなみに、ブランドと日本の関係は古くから。1991年に国外初の店舗を代官山にオープンし、さらにデニム生地に関してもファーストモデルの製作からメイドインジャパンを貫いているんです。ジャンの日本に対する思い入れはひとしおというわけです。
MUSIQUE Tシャツ
¥22,000
これまでも折に触れてファッションと音楽の融合を試みてきたジャン。2022年、35周年のコレクション発表のときには、自らがステージでギターを弾いて驚かせたことも。
その流れに乗るように、最近「MUSIQUE CAPSULE COLLECTION」が発表されました。「音楽」を含めブランドのルーツにフォーカスを当てたアイテム群が揃うなか、まずはTシャツをご紹介。
フロントに配されたグラフィックのピックは、過去に販売されていた〈アー・ペー・セー〉のギターピック。ブランドのセレクト雑貨を取り扱っていたコンセプトストア「Magasin Général」(現在は閉店)で販売されていたそう。適度に褪せ感のあるプリントで、古着のように適当に着たいところです。
LOU VINYL トートバッグ
¥18,700
同じく「MUSIQUE CAPSULE COLLECTION」からトートバッグを1点。冒頭で述べた「SECTION MUSICALE」から発表された、「A.P.C. Tracks Vol.1」のビニール盤をグラフィックとして採用しました。
ちなみに、同アルバムはプロデューサーにビル・ラズウェルを迎え、架空の映画のためのフリーでアブストラクトな劇伴音楽をイメージしてつくられたそう。ブルースやヒップホップに加え、リラックスタイムにぴったりなメロウな曲などさまざま収録されています。
ここでは音楽との親和性を記しましたが、実は他の芸術への関心も高いジャン。ウェス・アンダーソン監督の映画『ファンタスティック ミスターフォックス』とパートナーシップを結んだり、少年少女のための自由で創造性に溢れたプレスクール「A.P.E.」を立ち上げたり。
〈アー・ペー・セー〉の服ももちろん素敵ですが、こういった芸術へのアプローチはこれからも動向を追いかけたいものです。
ロケ地メモ:元々カメラマンが住んでいた部屋。夏は暑くて冬は寒い。