HIP NEWS #03
2020.8.07 UP
夜、ウイスキーなどお酒を片手にゆったりと映画やドラマを自宅で楽しむひとも増えたでしょう。これもこの数ヶ月における“ニューノーマル”なライフスタイルと言えるのかもしれません。
圧倒的な作品数を揃える映画、ドラマという大海へと漕ぎ出すには、羅針盤が必要です。たとえばストリーミングサービスがおすすめする作品を無作為に観ていくことも悪くはありませんが、やはりその映画がどんなテーマ性や位置づけを持つのかを知ることは、映画体験をより豊かにしてくれます。2010年代におけるアメリカの長編映画や未公開作、アニメーション、連続ドラマなど、あらゆる映像作品を網羅したこの一冊は、その有効な助けになるはず。
『USムービー・ホットサンド──2010年代アメリカ映画ガイド』というタイトルの本書は、未公開映画配給・上映活動で、日本の映画好きの間で話題のグッチーズ・フリースクールが手がけています。表紙のデザインからもわかるとおり、デザインがポップで、堅さはまったくありません。“自由で楽しいアメリカ映画本”を掲げているので、それも納得。
書き手も豪華で、山崎まどか、鍵和田啓介、樋口泰人、真魚八重子、長谷川町蔵をはじめとしたバリエーション豊かな書き手が、さまざまなテーマを掘り下げ、解説してくれます。
本書のユニークな点としては、誰かのおすすめ映画レビューを載せておわり、というよくあるフォーマットに落としてこんでいないこと。同時代のアメリカの社会や文化状況を表やイラスト、マッピングなどでポップに紹介し、新しい傾向を掘り起す映画作家たちの魅力をインタビューやコラムで明らかにし、制作にまつわる様々な背景を分析し、燦然と輝く俳優/スターたちを巡り議論するなど、バラエティに富んだ紙面となっています。帯文の「ぎっしり」に偽りなしの圧倒的な情報量を、上手にデザインして一冊にまとめた手腕には敬礼したいほどですし、ウェブではなく、本というフォーマットであることは必然だったのでしょう。
映画を観るたびに思うのは、その国や文化について前もって知っていたらもっと楽しめたんだろうなということ。たとえば、ジブリ作品を観るときには日本の宗教観を踏まえるとより解像度は上がるし、小津安二郎作品を観るときは日本の文化が理解を助けてくれます。同じように、アメリカ映画をより楽しむためには、アメリカの文化を、ということです。アメリカが持つ文化、社会、問題、パワー、そしてそこに生きる人々の姿を多層に塗り込めた映画というものを、さまざまな角度で楽しむためにこの本が果たす役割は少なくありません。本書を読みこんだ、その先の映画体験は、これまでとは一味ちがったものになるでしょう。
編著:グッチーズ・フリースクール
価格、判型、ページ数:¥2,000+TAX、B5変形、234ページ
発行元:株式会社フィルムアート社
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