三宅さんがメガホンを取った映画『きみの鳥はうたえる』（18年公開）では、リアリティのある日常が印象的でした。特にクラブのシーンは、本当にクラブで遊んでいるかのような感覚になりました。

Miyake 普段映画を観ていると、フェスのように盛り上がっているクラブのシーンはありますが、僕が好きな、いつものクラブの風景を撮ってみようと思いまして。クラブやライブなどのシーンを撮るときに、音楽を止めて、またかけて、また止めてって撮影してしまうと、楽しい気持ちが止まるたびにリセットされちゃうじゃないですか。だから、音楽の力を借りて、楽しい気持ちを流れのまま撮りたいと思ったんですよ。みんなが楽しみながら演じてくれたから、自然な感じに仕上がったんだと思います。

ラジオでは、『きみの鳥はうたえる』を「その年齢の時にしか撮れないものがあると思って、嘘をつかずに残すことを大事にしました」とおっしゃっていました。

Miyake 20代後半の恋愛や日常をテーマに撮りましたが、その設定と同年代のときに撮るか、50歳になってから撮るかで、絶対に距離感が変わると思うんですよ。どちらがいいとか悪いとかじゃなくて、僕はその年齢の時に、そういう作品を撮りたかった。役者さんはもっと残酷なもので、60歳になったら10代の役はできないじゃないですか。いずれ主要キャストの3人は、あの役を演じられなくなる。そういう思いをベースに撮っていました。

三宅さんが初めて長編映画を発表したのは、2010年の『やくたたず』ですよね。その年齢の時と現在を比べて、当時の方が研ぎ澄まされていたと感じるコトはありますか？

Miyake もちろん、ありますよ。10年前は、言葉通り死ぬ気でやっていました。当時はギャラをもらって撮っているわけではないし、今考えると悪い意味で責任感がなかったと思います。とにかく、いい作品を1本撮らなきゃって焦りがあったし、失敗できないと思っていました。それは今も変わらないけど、より思い込みが激しかった。だから、細かいことが異常に気になっていたので、その点で言えば、今よりも感覚が鋭かったかもしれません。

しかし、10年経って、その当時にはなかった良さも出てきていると思いますが、いかがでしょうか？

Miyake まだまだ未熟者ですけど……。10年前と比べると、役者さんたちと一緒に映画をつくり上げていくことが、どんどん楽しくなっていきました。一緒に仕事をしていくと、どんなに有名な役者さんでも同じ人間だし、キャリアが違っても話せば理解できる部分がある。だから、無駄なビビりとか、先入観を持たないようになりました。それは慣れたとか、偉くなったとかでは一切なくて。人とモノづくりをすると、思うようにいかないことが当然あります。

映画づくりは、最初ひとりで考えて、途中から誰かが合流していくんですよ。その時、「自分の考えに沿ってくれよ！」って押し付けてしまうとうまくいかなくて。だから、最初の構想はただの準備であって、映画づくりが始まるのは、誰かが合流してからだと思っています。考えていたものと別の方向に転ぼうとも、楽しめるようになったってことですかね。

ある種のライブ感みたいなものを楽しみつつ、映画が撮れるようになったと。

Miyake かもしれないですね。そもそもの考え方が、10年前と変わったんだと思うんですよ。

そして、Netflixで『呪怨：呪いの家』が7月から公開され、話題になっています。ご自身のことを「ビビり」だとおっしゃっていましたが、ホラー作品に初挑戦された、率直な感想は？

Miyake 本当に楽しかったですね。自分の知らない世界について考えて、それを実現できるのが映画づくりの醍醐味だと思っていますが、ホラーは、それの最たるものでした。僕は霊感がないから幽霊を見たことないし、本当にいるのかも分からない。そういう知らないものと向き合うのはおもしろかったです。

参考にした作品や、撮る際に意識したことはありますか？

Miyake ジャパニーズホラーの名作は参考になりましたし、それから刺激を受けて新たな傑作を生み出したジェームズ・ワン監督の『インシディアス』や『死霊館』のシリーズも観ました。シナリオを読んでから最初に脚本を書いたお二人と話したのは、ホラー作品ではあるけど、実録犯罪もののプロットでもあるということ。『ゾディアック』という実際の未解決事件をテーマにした映画があるんですけど、それのように物語が進んでいく中でも怪奇現象は起きるんだろうなと考えたので、実際の事件を追う刑事や探偵の作品も参考になりました。

今日にいたるまで、たくさんの映画や映像作品、MVなどを製作されていますが、さまざまなアプローチをする理由とは？

Miyake 正直、半分くらいは偶然だと思います。たまたま声をかけてもらって、おもしろそうだから取り組んでみる。そうすると、似ているけど、微妙に違うジャンルで働く人と話す機会があって、それがすごくおもしろいんですよね。生まれも歳も違う人と会うのが、毎回楽しいんです。人付き合いって煩わしさはあるけど、実際に話してみるとおもしろいんですよね。そう思えるような環境にいられるのはラッキーだし、幸福なことです。

最後に恒例の質問です。ジョニーウォーカーのボトルにも前を向いて歩いている人が描かれていて、それは人と支え合いながら常に前進するという意味を持ったコンセプト“KeepWalking”が表現されています。三宅さんは、“自分の可能性を広げていく”ためにやっていることはありますか？

Miyake iPhoneのビデオ機能だけを使って撮る映像日記『無言日記』を撮り続けています。それまで、旅行に行っても、友達のライブに行っても、写真や動画を撮らないタイプだったんですよ。最初は本当におもしろいのかなって疑問を抱きながら撮っていました。でも、やっていくうちに習慣になっていって、たまにカメラの前で予期せぬことが起きるし、なにより散歩が楽しくなりました。カメラを持たないで歩いていたら、遊歩道の木に興味を持たなかったと思います。

Miyake コキアって植物、知っていますか？緑色で丸くて、ファサファサと葉っぱが生えているやつ。あれがかわいいんですよ（笑）。名前も知らなかったのに、『無言日記』が習慣化するようになってから好きになりました。年齢もあるかもしれないですけど、風景を見ることに気を向けていなかったら、あんなにかわいいコキアを知らない人生を送っていたはず。ってことは、コキア以外にも、いろんなことを見られるようになっていると思うんです。ただ歩いているだけでは見えなかったものが入ってくるようになりました。