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川田十夢公私ともに長男。「AR三兄弟の企画書(日経BP社)」、「ARで何が変わるか?(技術評論社)」、TVBros.連載「魚にチクビはあるのだろうか?」、WIRED連載「未来から来た男」、ワラパッパ連載「シンガーソング・タグクラウド」、エンジニアtype連載「微分積分、いい気分。」など。発明と執筆で、やまだかつてない世界を設計している。https://twitter.com/cmrr_xxxhttp://alternativedesign.jp/

青雲、それは君が見た光。

川田十夢
公私ともに長男。「AR三兄弟の企画書(日経BP社)」、「ARで何が変わるか?(技術評論社)」、TVBros.連載「魚にチクビはあるのだろうか?」、WIRED連載「未来から来た男」、ワラパッパ連載「シンガーソング・タグクラウド」、エンジニアtype連載「微分積分、いい気分。」など。発明と執筆で、やまだかつてない世界を設計している。
https://twitter.com/cmrr_xxx
http://alternativedesign.jp/

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逃亡と生活とダイエット、要するに流行について考える。

2012.06.05

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菊池直子容疑者が逮捕された。先にことわっておくが、これから書こうと思っているのは流行についてである。だから、不意にフイナムで公開するのである。無論、オウムや事件そのものと僕はなんの関係もない。因果もない。先入観もない。たださっき、ニュース越しに痩せ細った彼女の写真を見てふと、ぼんやり考え始めたのである。
流行というのは移り気なものである。ただし、本質の一端をあらわす現象でもある。そこには誰かの必要と切実とがないまぜになっている。法とジャーナリズムの文法に則った報道からは、それが伝わってこない。法人格から人格が伝わってこないように、法に触れたものは片っ端から感情を失ってゆく。時効停止の末、十七年にも渡る逃亡生活である。これを支えてきたものが、宗教と宗教的なものの本質を現している気がするし、それを支え続けた気分というものがとても気になる。またそれを描くには、現実の法や重力から解放された視点が必要となる。呼吸をしてみることが重要である。文芸である。
彼女は長距離走の選手だった。高校生のとき、校内の大会で優勝したことをキッカケに走ることに目覚めた。走ることが好きだった。怪我を負った。その治療のためにヨガを始めた。ヨガの教えに目覚め、周りの反対を押し切り出家をした。出家した先の宗教団体が起こした事件との関与を疑われた。指名手配となった。彼女は走った。そこには道と走り続ける理由があった。それを支える気分があった。
長距離ランナー特有の思考というものがある。それは、距離と時間とそこへ向かう速度が綿密に紐づいたものである。その思考を基本としながら、あらためて彼女の時間を遡ってみる。走りはじめた当初は「まだ始まったばかり」「先は長い」と心を引き締める。その段階で、誰に引き留められようと、聞く耳を持たない。やがて、ゴールだと思っていた場所に差し掛かる。自分が予想していた熱狂とは違っていた。大会の主催者が次々と逮捕される。大会のスローガンがすべて否定される。指名手配となる。ゴール地点の見えない新しいマラソンが始まる。どんな気分で彼女は走り続けたのだろう。走るのをやめたのだろう。
もう一度最後にことわっておく。報道としての事件についてさほど興味がない。今後ワイドショーを見ることもない。犯罪は犯罪として罰せられるべきであるとは思う。しかし、そこへの言及や取り締まりは僕の仕事ではない。でも、それを後押しした流行のような気分の正体を把握することは、僕の仕事の一部であるような気がしている。重いものを軽くするために、軽いものを重くするために、である。

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