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スティーブ・ジョブズ追悼企画。 「ジョブズの死」について、我々が想うこと。

2011.10.14

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vol.7 小林節正(. . . . . RESEARCH主宰)
vol.6 加賀美健(アーティスト、STRANGE STORE オーナー)
vol.5 高木正勝(映像作家 / 音楽家)
vol.4 安全ちゃん(アクティビスト)
vol.3 鈴木芳雄(編集者 / 美術ジャーナリスト)
vol.2 ςκ⑧十hΙℵƓ
vol.1 蔡 俊行(フイナム発行人)

vol.3 鈴木芳雄の場合
「そ」の人の名はジョブズ。
 「そいつはすごい」「それを見てやってくれ。いいだろ?」「それじゃだめだ。そうそう、それでいい」。

 プロダクツに関しては常にこんな「そ」のスタンスだったのだろう。ホームブリュー(自家醸造)コンピュータクラブで天才ウォズニアックを「発見」して、パーソナルコンピュータの時代の到来を思い描いたときも。ゼロックスのパロアルト研究所で試作機ALTOを見て、コンピュータの未来を明確に掴んだときも。フロッグデザインやジョナサン・アイヴなど常に優秀なデザイナーたちと高い目標を達成したときも。

 それが、スティーブ・ジョブズだったのだと思う。

「これ、いいでしょう」「ここがすごいんですよ」「こういうことができるんです」。そんな「こ」の技術者(とても優秀な)は日本のメーカーにもたくさんいるのだろう。でも、人々の欲求と出来上がる製品を客観視して、さらなる高みにチームを引き上げる指導者というロールはここ日本では軽く見られがちである。

「そ」の人はときに嫌われる。自分でものを生み出したりしないくせに、とか、「そうじゃないんだ」とより良い方向を示しても、批判ばかりしているとか、「それよりもこうやろう」というと横取りされたとか言われる。ジョブズの弱点や諍いの原因も多くはそこだった。理想を追いすぎ、妥協を許さない。その極端な例はNeXTコンピュータのときだ。ときにプロジェクトを奪っていくこともある。そもそもMacintoshは彼のチームのものではなかった。そんな彼に身内の人々は「勘弁してくれ」「何様だ?」という。敵も多く作る。

 しかし、消費者は貪欲なものだ。「こんなことができるのだ」では満足しない。「そんなことができるのか!」と驚き、感動したとき、「それはなんだ?」と見なかったものに触れたものに対価を支払う。新しい土地を発見したような気分になるからだ。そこでは数円単位の値引き合戦などという日本のメーカーたちの消耗戦とは違う戦いがある。常に人々を驚かし、わくわくさせなければならない戦い。高度なレベルでデザインを提供しなければならない戦い。

「そ」で指揮をとる人の力が有効に発揮された瞬間、勝利の場面が訪れる。

jobs_suzukiyoshio_prof.jpg 鈴木芳雄(編集者/美術ジャーナリスト)
すずき・よしお/元ブルータス副編集長。現在はフリー編集者、大学講師など。ポパイ臨時増刊『MacBoy』('93年)、ブルータス「コンピュータ三都物語」('95年)などでアップル社を取材している。
Macintoshは9インチCRT/M68000時代からのユーザー。
ブログ:http://fukuhen.lammfromm.jp/

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