トークのイチロー就活日誌
草彅洋平(東京ピストル)
株式会社東京ピストル代表取締役
1976年東京生まれ。あらゆるネタに対応、きわめて高い打率で人の会話に出塁することからついたあだ名は「トークのイチロー」。インテリア会社である株式会社イデー退社後、2006年株式会社東京ピストルを設立。ブランディングからプロモーション、紙からWEB媒体まで幅広く手がけるクリエイティブカンパニーの代表として、広告から書籍まで幅広く企画立案等を手がける次世代型編集者として活躍中。
www.tokyopistol.com/
バーニングマン2013に行ってきた(前編)
2013.09.07

2013年8月23日から9月2日までアメリカのネバダ州のブラックロック砂漠で開催されているBurning Manに行ってきました。
このイベントについては14年前、つまり1999年に株式会社イデーで刊行された『sputnik:whole
life catalogue』という雑誌を副編集として作っていたときに、編集長の野村訓市氏から聞いてはじめて聞いて以来、ずっと行かねばならないと思っていたのですが、ようやく念願かなって行くことができました。現在プレミア化した(1500円の雑誌がネットで平均2、3万前後で売られている)このカルト雑誌の副編集だった僕と牛久保暖氏は当時学生で22歳。イデーの黒崎輝男氏の意向で新しい雑誌を作ろうという話でわれわれが抜擢されたのですが(といっても学生で無名の僕らにいきなり作らせるとは本当に黒崎氏の度量がスゴいという話!)、野村氏が主催者のラリー・ハーヴィーからインタビューを取り付け、それを僕が編集して記事にするうちに、これはなかなかとんでもないイベントだと知り興味を持ったのでした。
バーニングマンについて知らない方に簡単に説明するとこのフェスティバルは一年に一回開催され、「ザ・マン」と呼ばれる巨大な人形の木を砂漠で燃やすために大勢の人々が世界中から集まり、一切の貨幣の通用しない物々交換で成り立つ一つの街を作るという内容。詳しくはwikiを見るといいですが、今年は砂漠の真ん中に約5万人もの参加者が集まり、直径2.4キロメートルの架空都市ブラックロックシティを造り出すという過去最大のスケールで、想像しているのと体験してみるのでは天と地ほども違うとうことをまざまざと身をもって知った次第です。そこで今回はその旅の模様をレポートさせていただきます。
はじめに今回一緒に行った旅のメンツを紹介しましょう。
・林賢太郎=通称ハケンくん。サンフランシスコに現在語学留学しているだけあって、このメンツで唯一英語が喋れ、旅のマネージャー、進行管理的存在。メンバーのなかで誰よりもバーニングマンに行くことを楽しみにしている。まったく働かない我々に対して怒ることなく、黙々と実務をこなす。運転もほとんどハケンくんの仕事であった。エラいぞ、ハケンくん!!

・高木新平=通称シンペー。チーム最年少にして弟キャラ的な存在。もともとシンペーがバーニングマンに行きたがり、高額になりそうな旅をバックアップするためイエイリさんを誘いこのメンツ構成となった。やんちゃゆえ敵が多いがベロベロになるとめちゃくちゃになるその姿が愛らしい。ちなみにシンペーと僕が会うのは今回で4回目。そのうち3回は旅で行動を共にするというまさに旅トモ。

・家入一真=通称イエイリさん。僕が仕事でもお世話になっている著名人。僕が「イエイリさんが僕の周りで一番のキチナイスガイだと思ってますよ」と話したところ、「え!? 僕の周りではナギさんが一番クレイジーだと思いますよ」と返され絶句したことも。酒が入るととまらないが意外と常識人で気を使ってくれる。ポーカーがとても強い。

・僕=通称ナギさん。Disの能力が極めて高く、口癖は半沢直樹ブーム以前から「やられたらやり返す!」。ぜんそく気味、キレイ好きなので砂塵が大変気になり、汚れるのも大嫌い。会社設立以来はじめての長期旅行に、残して来た仕事のことばかり考えて震えていました...ひえ〜

バーニングマンに参加するにはまずチケットがいるのですが、もともと僕の分は友人であるハケンくんが確保してくれていました。そこに阿波踊りを一緒に行ったシンペーとイエイリさんが僕の話を聞いて別ルートでチケットを手配、ゲットでき、今回の旅となりました。二人は大変ラッキーなようで、今回は380ドルだったのですが、発売数時間で売り切れ、価格は高騰、行きたい人も手に入らないプラチナチケットになっていたそうです。会場に近づくに連れ段ボールに「チケット下さい」と書いたヒッピーたちを数多く見かけるようになり、その入手の困難さはなかなかの様子です。
ハケンくんと僕は23日から、シンペーは24日に、イエイリさんは遅れて26日の到着ですが、イエイリさんが来るまで僕らはサンフランシスコでひとまず準備です。僕らがなんとなく過去に参加した人に聞いたり、ネットで集めた情報は以下のようなものでした。
A.砂漠のため、昼間はとんでもなく暑く、夜は死ぬほど寒い
B.砂塵が舞うためマスク、ゴーグルは必須
C.靴底が溶けるほど暑いのでゴム製で行かない方が良い
D.砂は粒子が細かいため、一度服に付いたらとれない。すべて捨てるよりない
E. 砂はアルカリ性のため肌がボロボロになる。そのため酸性のお酢を持参し、肌にこすりつけた方がよい
F..レトルト食品を日本から持っていた方がよい
G.会場が広いので自転車は必須アイテム
H.会場内は全裸になれるなどフリーダム。とことん歌舞く必要がある
I. 車にバーニングマンのロゴマークをガムテープなどで貼っておくとバーニングマンに行く人々が声をかけたり助けてくれる
J. 冷たいウェットタオルを持っていくと神になれる
K. バーニングマンのルールですべてゴミは持ち帰る必要がある。砂漠に何も残してはならない
L.会場に瓶の持ち込みは禁止
M.とにかく水が大事。水だけは死ぬほど持って行け。目安は1日一人4リットル。
N.とにかく3日目から野菜が食べたくなる。理由は2日目で野菜が腐り、大概食べられなくなるから
O.会場内は物々交換が基本ルールだが、氷とコーヒーは買えるらしい
P.ネバダ州の警察が厳しくドラッグや花火、火器などの持ち込みに対して厳しい対応がとられる→参考
こちらの事前情報がどの程度正しかったかは後でご報告するとして、僕らが知っていたのはこんなところでした。そこで食料は手前のネバダ州リノの街で購入するとして、カリフォルニアではホームセンターや家電ショップで以下のものを一通りそろえました。もちろんウエットタオルやレトルト食品は日本から持ち込んできました。
1.マスク(3Mの良いもの)
2.ゴーグル
3.トーチと燃料(たいまつ)
4.クーラーボックス(一番大きなもの)
5.ターフ(日よけ、キャンプ道具)
6.テント(4人用)
7.寝袋
8.サイリウム(40本)
9.折りたたみのキャンプ椅子(4脚)
10.ヘッドライト
11.野外照明
12.フライパンや鍋、包丁、まな板など調理器具
13.キャンプコンロと燃料
14.iPhoneケース(防塵などの耐久性のあるもの)
15.携帯バッテリー
16.衣装ケース(日本から持って来た大切なもの、PCなどをしまっておくためのもの)
17.水筒(サイクリングに使う軽いもの)
18.自転車
19.車に取り付ける自転車のキャリアー
20.靴(汚れて捨ててもいいもの)
21.ジップロック
22.ガソリンタンク
23.汚水捨て用のバケツ
24.スプレー型ペイント
25.色付きのガムテープ
26.サングラス(壊れてもよい安いもの)
27.レンタカー(巨大なFordのバン)
28.Goproと予備バッテリー、SDカード
こう書いてみるとまるで『エルマーのぼうけん』の序章のようですが、バーニングマンに行くためにはアメリカでさまざまなものを購入しなければなりません。アメリカに友人がいて一緒に行くのであれば別ですが、僕らのように同行者がいない場合、こうしたものをバーニングマンのためだけに買い、破棄することになってしまうのがとてもお金もかかるしもったいないことです(とはいえ偶然にも我々を滞在させてくれた親切なフリッツ夫妻が「来年はバーニングマンに行きたい!」ということで不要品を引き受けてくれることになったため、今回は無駄にならずにすみました)。そう、バーニングマンはどちらかと言えばお金持ちの遊びともいえるかもしれません。例えばグーグル創業者であるラリー・ペイジ&セルゲイ・ブリンがバーニングマン好きというのは有名な話でしょう。彼らはバーニングマンに行くためにサイトのロゴデザインを変更、それがホリデーロゴのきっかけになったという逸話まであります。
装備に関して補足をすれば、8のサイリウムは本当はLED照明が欲しかったのですが、アメリカの店には高価なものしかなかったため購入を諦めました(バーニングマン開催前はサンフランシスコ一帯でこうしたものがどんどんなくなってしまうのです。というのも参加者がみな必要としているからで...。日本から持って行こう!)。14のiPhoneケースは当初ジップロックでの対応を考えていたのですが、LIFE PROOF(約90ドル)という商品をBEST BYで購入、結果この選択は相当正しかったです。プロテクターつけないと一発で精密機器はダメでしょうね。
18の自転車はTHRIFT TOWNというリサイクルショップで大変安く買うことができました。僕のはなんと39ドル! これは中古自転車の相場が100-120ドル前後の相場感覚からすると破格に安い買い物でした。とはいえブレーキなし、サドルはぐらぐらで股が痛い、というのが難点ですが、たった数日なので我慢することに。27のレンタカーはハケンくんが手配してくれたのですが、借りたかったキャンピングカーは70万近くするため断念。他にいろいと探したのですが11人乗りの車しかなく、国際免許が8人乗りまでのため悩んでいたところ、店の親父が「こうすれば運転できるだろ」と椅子を外して貸してくれたという、なんともアメリカらしいおおらかな車です。おかげで大量に荷物を積み込むことができ、大変重宝しました(デカ物なので運転するにはかなりくせ者でしたが...)。28のGopro はフリッツの家でこの動画を見せてもらい、思わず衝動買いしてしまいました。結果こちらも購入して良かったです。
僕らの旅のスケジュールは以下の通りです。全部で444マイル、ぶっ続けで飛ばして約11時間の旅です。
8月27日早朝サンフランシスコ出発→ヨセミテ公園→リノ泊
8月28日早朝リノ発→リノのウォルマートで食料購入→バーニングマン会場へ
9月1日早朝バーニングマン発→清掃→サクラメントへ
9月2日早朝次の目的地ポートランドへ(ハケンくんは車を返しにサンフランシスコへ)
バーニングマンは今年のテーマを「カーゴカルト」として、8月26日から9月2日までの一週間開催しましたが、マンのいる中心に近い場所を取る人たちは早めに集結する必要があるということを聞いていたので、僕らはゆっくり目の28日INすることに。8月31日の夜にマンが、9月1日の夜にテンプルが燃やされ、これがこのイベントの目玉なのですが、僕らは次の予定の都合上(9月2日早朝に飛行機に乗らねばならなかったのです)マンが燃えるのだけを見て帰ることを決めていました。
道中いろいろなお店に立ち寄るのですが、少しでも変な衣装を見つけると購入してしまう癖がしっかりしているハケンくんを除いた3人についていました。会場はおそらく歌舞板いた奴らが大勢いるに違いない。少しでも目立たなくては...、そう思うと普段は着ないような珍しい衣装を片っ端から試着、トライしてみたくなります。これを我々「バーニングマン効果」と呼んいたのですが、おそらく相当な経済効果ではないでしょうか? 途中誰も立ち寄らなそうな土産物屋でマントや帽子を大量購入したり、マスク屋が出店しているとこれは便利そうだと買ってみたり...。つまりまだ見ぬ世界に恐れを抱き、どんどん買ってしまう現代病みたいなものです。
バーニングマンはこうした買い物に大変時間がかかります。アメリカなのでレジが大変遅く、閉店も早いため、買い物だけで2日はかかるでしょう。
ちなみに日本でたまたまある方に「バーニングマンマークを付けて行くといいよ。そうするとバーニングマンに行く人同士、相互に助け合ったり話しかけられたりして楽しいんだよ」と言われて車に三カ所張りつけ出発した我々ですが、これがサンフランシスコ、ヨセミテからリノまで同じように付けている車をまったく見かけることがないため、どんどん不安になっていきます。さらにネバダ州で入ったあたりで僕が運転しているとスピードオーバーで警察官に停車させられるという緊張感ある事件が発生しました。幸い警告だけで済みましたが、「これはもしかするとバーニングマンマークをつけているからじゃね?」という話になり、慌てて剥がしてしまいました。会場周辺にはバーニングマンマークを貼った車を多数見かけましたが、近年バーニングマンに対して警察が厳しいという話を聞く限り、ことさら掲示するのはあまり得策ではないのかもしれません。
さて会場に近づくにつれ、徐々に荒野になり、渋滞が発生してきます。
途中ガソリンスタンドで給油しているとチケットをもとめた北斗の拳一巻に出てくるならず者のような連中が爆音で音楽をかけ走り回り、店のおばさんに激怒されているという一幕を目撃しました。うーん、とんでもない奴ばかりいるなと思っていると、なんとシンペーがビールを外で飲もうとしているではありませんか!
「アメリカの法律で種類を外で飲んでは絶対にダメなんです〜」とうろたえるハケンくん。協調性の一切ないシンペーの行動にハケンくんが困惑しているため、僕とイエイリさんで激怒、金髪をつかむと往復ビンタを二三発決め、彼に考えを改めさせ、その場を丸くおさめました(話120%のせ)。
会場から一番近い街、ガーラックを過ぎ、赤いコーンの並んだ会場に入ると時速はいきなり10マイルでの走行になります。見た事もない乾いた土地が広がっているだけの景色に息をのみます。周りには警察の車が時折来場する車をチェック、警察犬を連れて摘発していました。
そのときです。再び聞いたことのあるサイレンが後方から鳴り響きました。後ろには警察の車が!
またしても「なんでだろう?」と思っていると警察官が来て僕らにいくつか質問をはじめました。英語をあまり得意としない僕は適当に「イエ〜ス、オーイエ〜ス!」と応えていると警察の顔が怪訝な顔になり、語気を強めてきます。僕一人だけ車をおろされ、全身チェックの後執拗に何か聞いてきます。良く聞けば、どうも僕が「ドラッグを所持しているか?」という質問に「イエスイエス!」と軽快に応えたらしく、厳戒態勢になってしまったようでした。
なんてこったい! 警察が車両を停めた理由は自転車のキャリアーを後方に付けた事により、ナンバープレートが見えにくくなり、それが問題だと注意するためだったそうですが、警察官の緊張感から事態はものすごく悪化しています。僕の片言の英語でなんとか説明し、ハケンくんのヘルプでようやく難を逃れましたが、メンバー全員から「こいつとんでもない奴だな」と冷たい視線が突き刺さるのがとても痛い...
「持っていて素直に自白する奴なんていないと思うんだけどなあ〜ハハッ」と僕。
「もうバーニングマン入れないと思いましたよ...」と真っ青な顔で運転するハケンくん。
ご、ごめんよ! もうイエスとは一生言わない!!
そう石原慎太郎なみに強く思いました。
果たして我々は無事に会場に入れるのでしょうか?
後半に続く→