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オノ セイゲン空間デザイナー/ミュージシャン録音エンジニアとして、82年の「坂本龍一/戦場のメリークリスマス」にはじまり、多数のアー ティストのプロジェクトに参加。87年に川久保玲から「洋服が奇麗に見えるような音楽を」という依頼により作曲、制作した『COMME des GARCONS / SEIGEN ONO』ほか多数のアルバムを発表。Photo by Lieko Shiga

RECORDING, SOUNDS and ENVIRONMENT

オノ セイゲン
空間デザイナー/ミュージシャン

録音エンジニアとして、82年の「坂本龍一/戦場のメリークリスマス」にはじまり、多数のアー ティストのプロジェクトに参加。87年に川久保玲から「洋服が奇麗に見えるような音楽を」という依頼により作曲、制作した『COMME des GARCONS / SEIGEN ONO』ほか多数のアルバムを発表。

Photo by Lieko Shiga

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人間の聴覚限界にせまる1ビットDSD (後半)

2011.01.31

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ちょっと工学系の話になるが、ここからが大切。
音という空気の粗密波(アナログ)をマイクなどで拾い、A/Dコンバーター(Analog to Digital Converter)でデジタル変換された信号を「そのまますべて記録」(高速で標本化)してしまうのが、1ビットDSD(Direct Stream Digital)である。膨大なデータ量のデジタルデータであるが連続した線でつながっている。1ビットなのでゼロと1の2値しかない。サンプリング周波数時間軸に対して1なら上方向、0なら下方向と並べていくと一本のつながった線として波形を描ける。ギザギザが見えないほど細かなサンプリング周波数、スーパーオーディオCDの時間軸は、CDの64倍の細かさの2.8MHz、正確には2822.4kHz。つまり1秒間に282万2400回もサンプリングする。デジタル変換された信号を「そのまますべて記録」するという高速標本化1bit 信号処理は、早稲田大学理工学研究所の山崎芳男教授が考案提唱してきた技術である。

スーパーオーディオCD」についてはこちらを参照:

 それに対して、CDでは1秒間に4万4100回。人間の耳は20KHzまでしか聞こえないから、その2倍でサンプリングすれば再現できる、とされた。(後述するが、サイン波単音であれば20KHzとしてよいが、正確な音の定位の再現にはこれでは不十分。。)標本化周波数を(44.1 KHz などに)間引くことによって、方眼紙の図で例えれば横軸を時間軸、縦軸をそれぞれポイントの高さ(=ダイナミックレンジ=16ビット)にマッピングした「とびとびの連続していない点の集まり」が、CDなどのPCM(Pulse Code Modulation)方式のデータである。それでもなんとなく全体の波形は伝わる。図Aの情報を10分の1に間引くと図Bの★になる。

 デジタル一眼レフ VS 携帯電話の写真。ハイビジョン映像 VS DVD映像。
 映画の画質でもハイビジョンに慣れると、間引きされたDVD映像は、今までこんなので観ていたのかと驚くように、ハイレゾリューションであるほど繊細な部分の収録/再現が可能となる。ハイレゾリューションにすれば「いい写真が撮れる」わけはないが、印刷、広告などに使用するマスターには「間引きされていない、あるがまま」大きいほどよい。大きいデータは小さく圧縮できるが、逆は不可能。ムーアの法則に従い、パソコンの値段とスペックは反比例していくが、CDは1980年頃は画期的なデジタル技術であったが、「そのまますべて記録」とはほど遠いものである。勘違いしないでほしいのは、「だから音楽が伝わらない」という話ではない。スーパーオーディオCD VS MP3。同じ音楽でもここまで違うと誰にでも驚きをもって受け取られる。

 人間の耳の可聴帯域の音の周波数は20Hzから20KHzといわれる。サイン波単音の高い周波数の音は、歳をとると聴こえなくなる。その高域の音とは無響室かヘッドホンでサイン波単体を聞いたときの例であり、それを利用して若者が公園にたむろしないようキーンという17KHzの「モスキート音」を使用する例がある。

 しかし実際の生活空間では20KHz以上の高域は非常に重要な役割をしている。無意識のうちにも、ふたつの耳の時間差で360度から来る音源とその音の初期反射音、位相差を聞き分けている。ローカリゼーション、空間情報を認識する。もっとも重要なのは、1:『音の定位』初期反射が綿密に関係してくる。より正確に空間や方向を知覚するための時間差、位相差である。床に50円玉と10円玉が数個転がり落ちたとする。床がタイルなのかフローリングなのか、テーブルの下に転がり込んだのが50円玉であることは、小学生でも判る。2:『音色』周波数帯域ごとに位相や立ち上がり速度が変わることに関係して音色ができあがる。単体の楽器、例えばバイオリンでも、その楽器から空間に発音されると同時に、楽器内部と3Dの空間で複雑に反射して位相差が、その楽器固有の音色、ヴァイオリンの種類などを認識させる要素となる。どのバイオリンでも「ラ」の音は442Hz近辺であるが、なぜ個体により(ストラディバリとガルネリと普通のでは、あるいは年代でも)音色が違うのか。

 私が、2010年11月より「これは音の産業革命になる!」と夢中になっている『人間の聴覚限界にせまる1ビットDSD』とは、人間の聴覚としての情報にせまる量の音を「そのまますべて記録」するものである。それは、早稲田大学理工学研究所の山崎芳男教授の試作したポータブルレコーダーでも、KORGのMR-2000Sを複数でも録音と再生が可能で、前述したスーパーオーディオCDの2倍のレゾリューションである。それがどれほどリアルな音空間となるのかはここでは伝えられないが、どんなに音がよいと言われるクラブでも、1000万円のオーディオシステムでもこのクオリティの音空間の再現は不可能。本気で興味ある方にはサイデラ・マスタリングをブッキングしてくれれば企業秘密ではないので聴かせます。

サイデラ・マスタリング

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