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FEATURE|17年の夢が詰まった和魂洋「サイ」の店。

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17年の夢が詰まった和魂洋「サイ」の店。

あえてショーをやらないことを宣言するブランドだし、きっと店をもたないのもひとつの美学なんだろう、そしてそんな偏屈なところも(すみません)流行無縁で骨太な服を生み出す〈サイ(Scye)〉らしいじゃないか──そう考えて自分の気持ちに折り合いをつけてきたファンにとって、そのニュースはまさに青天の霹靂だった。「サイ マーカンタイル」。8月の終わり、東京・千駄ヶ谷に突如現れた店は紛れもなく〈サイ〉の直営店なのだ。

  • Photo_Tohru Yuasa
  • Text_Kei Takegawa
  • Edit_Ryo Muramatsu

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物件の下見からつきっきりで。

直営店オープンのニュースには驚かされました。

宮原秀晃(以下、宮原)まわりでも驚いた人が多かった(笑)。ただ、ぼくらにはずっと、それこそブランドを始めたときからいつかは店を、という思いがあったんです。いろいろ整って具体的に動き出したのはここ5年といったところでしょうか。

店をやると決められてからも性急さはかけらもありません。

宮原一階を店にして二階から上を事務所として使えるビルを探したんですが、これという物件にめぐりあえなくて……。店を出すなら、お客さんの顔がみたかった。一棟借りという条件は譲れませんでした。来店があればすぐに降りていけるでしょ。おかげさまで順調な立ち上がりで、週末は店に立ちっぱなしだからオープンして休みがなくなった(笑)。

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千駄ヶ谷の閑静なエリアというのもこだわりが感じられます。

宮原明治神宮がすぐそばにあるからか、いい気を感じるんです。そっち方面は鈍感なはずなんですけどね。千駄ヶ谷には鈴木(諭)さんの〈ループウィラー〉もあった。この店ではいろいろとイベントもやっていきたいと考えているんですが、その第一弾が〈ループウィラー〉とのコラボレーションでした。(インテリアデザインを担当した)ワンダーウォールも目と鼻の先。大声出せば聞こえそうな距離にある。(代表の)片山さんは物件の下見から部材のリサーチまで、文字どおりかかりっきりでつくりあげてくれました。

片山正通(以下、片山)やるなら任せておけっていった手前ね(笑)。

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なぜ、片山さんだったのでしょうか。

宮原イギリスのクラシックを愛するぼくらだけでつくろうとすると古臭くなっちゃうんじゃないかという恐れがあった。片山さんならぼくらのエッセンスをうまく吸い上げてくれると信じてお願いして、じっさい、期待以上でした。

お付き合いは長いんですか。

宮原出会って10年くらいなんだけど、妙に馬があってね。同い年だし、価値観が近いんですよ。とうぜん趣味もかぶる。ふたりで下戸だしね(笑)。

片山コーラで乾杯しています(笑)。

片山さんは渡邊かをるさん(アートディレクターの第一人者)が鎌倉で営んでいたバー、「THE BANK」を復活させましたが、宮原さんにそのスタッフ・ユニフォームの制作を依頼されました。

片山渡邊さんにはほんとうによくしてもらいました。惜しまれつつ亡くなって、ぼくになにができるかを考えて出した答えが「THE BANK」のリバイバル。じつは独立してほとんどはじめて手がけたプロジェクトがこのバーだったのです。ユニフォームをどうするかってなったとき、自然と頭に浮かんだのは宮原さんでした。

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マーカンタイルに込めた思い。

マーカンタイルは商店という意味ですね。

片山宮原さんが用意したイメージ・ビジュアルにあったのは、店主とお客さんが濃密に結びついているクラシックな商店でした。心からいいなと思った。ネットで事足りるいま、いっそうその大切さが身にしみます。

宮原さっきもいったように、お客さんがいれば顔を出したい。ぼくはショップマスターになりたいんです。〈サイ〉だけじゃなく、好きなブランドを並べたいって考えもありました。今回買い付けた〈ディー・アール・ハリス〉はむかしから愛用しているコスメだし、〈アームデザインルーム〉の古川(広道)くんは20年来の友人。型に流し込む鋳造じゃなくて鍛造だからこんなに薄い金のリングもひしゃげたりしない。

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店名を冠したカプセルコレクションも立ち上げました。

宮原メンズ、レディスというくくりをなくしたらどうなるか、という仮説を検証するコレクションです。くくりがなくなれば男女問わずもっと多くのかたに着ていただけると思い、通しで6サイズ展開に。卸の商売でこれをすべて仕入れてもらうのは難しい。直営店ならではの試みです。

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そのような熱い思いを片山さんはどのように受けとめ、かたちにしたのでしょうか。

片山商店として機能しつつ、一定の緊張感があり、そうして何十年経っても古びないことを肝に銘じ、削ぎ落とすデザインを心がけました。少々観念的な表現になりますが、〈サイ〉は情緒的で感情の微細な揺れを具現化しているブランドです。そういうブランドのあり方にも適うと考えました。

宮原〈サイ〉はNobody knows。ものづくりへの執着は説明してはじめてわかる。まさにぼくらのスタンスそのものでした。一見普通の店にみえて、こだわりがいっぱい詰まっているというね。

なかでもお気に入りは床。一枚が大きいでしょ。割付が120センチあるんです。完全オリジナルでつくってもらいました。かつて学校や役所でも使われていたテラゾ(人造石研ぎ出し仕上げ)なんですが、白の配合とかね、なかなかしっくり来るものがなくて、じゃ、つくっちゃおうって(笑)。

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片山イメージにあうものがなければ自分たちでつくるしかない。ワンダーウォールではごく当たり前のスタンスなんですが、宮原さんほど熱心なクライアントはなかった(笑)。工事中も現場監督よろしくつきっきりでね。大丈夫、ぼくがちゃんとみるからといってもきかないんです。

宮原ファサードの横引きのシャッターもそう。既製はパイプとパイプをつなぐひし形のパーツが少なくて頼りなかった。海外のそれはたくさんついているんです。だからそのパーツ増やしてよって業者にお願いしたら、「そんなものはこれまでつくったことがない。開け閉めできないかも知れないから一筆書いてくれ」っていわれました(笑)。

片山唯一買ったのはソファですね。ポール・ケアホルムというデンマークのデザイナーのものです。

宮原この抜け感が片山さんの真骨頂。ぼくらで選んでいたらきっとチェスターフィールド(イギリス伝統の重厚感あふれるソファ)になっていたと思う。ところどころ元の天井がむき出しになっているのもいい。ペンキ塗っただけだもんね。

片山これをうまく生かせたのはよかった。

壁面のオブジェも格好いい。

宮原ガーメント・ドラフティング・マシーンといって1800年代に使われていた製図用の道具です。ほら、パターンを売りにするブランドだからね。みつけるたび買い込んでいたんだけど、披露する機会がなかった。平林(奈緒美)さんがオブジェにしてくれました。

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片山アートディレクションを担当してくれたのが平林さんなんですが、宮原さんに輪をかけてこだわりが半端なかった。宮原さん、平林さん、そしてぼく。だれかひとりでもテンションが違ったらこの店はできなかったでしょう。

宮原ギアを入れるタイミングが一緒でしたもんね。

それにしても片山さんは世界的に活躍されている忙しいデザイナーです。それでも、なんでもよっしゃ、任せとけって二つ返事だったと聞いていますが(笑)。

片山どの仕事もそうですが、ぼくがやる以上、こう来たかといわせないといけない。もちろん〈サイ〉らしさというところから外れるわけにはいかない。さらに長いこと店を待っていたお客さんの期待値も高い。そしてかくいうぼくも待ち望んでいたひとり。おのずとテンションはあがりましたね。

喜んでもらえたのは素直にうれしい。店は箱が完成してからがほんとうのスタート。ファンのひとりとしてぼくも応援していきたいと思っています。

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宮原秀晃(写真右)
文化服装学院卒。いくつかのアパレルでパタンナーとして活動したのち、デザイナーの日高久代とともに2000年にMasterpiece and Co.を設立、オリジナルの〈Scye〉をスタートさせた。19 世紀のエドワーディアン・スタイルをふたりの感性と日本のものづくりでブラッシュアップしている。Scyeは “袖ぐり” の意となる古い仕立て屋用語。

片山正通(写真左)
2000年にワンダーウォールを設立。日本を代表するインテリアデザイナーとして国内外で活躍。現在は武蔵野美術大学空間演出デザイン学科の教授も務める。昨年『WONDERWALL CASE STUDIES』(ゲシュタルテン刊)を出版。タイラー・ブリュレ率いるウィンクリエイティブがエディトリアルとデザインを担当した。
www.wonder-wall.com

Scye Mercantile
住所:東京都渋谷区千駄ヶ谷3-54-13
営業時間12:00 〜 20:00
定休日:火曜、水曜
電話:03-5414-3531
www.scye.co.jp

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