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おとなTRUCK改め、S.T,N.E.。気持ちよさへの圧倒的な傾倒が生み出した家具について。
Same TRUCK, New Engine: A Solo Journey

おとなTRUCK改め、S.T,N.E.。気持ちよさへの圧倒的な傾倒が生み出した家具について。

〈TRUCK FURNITURE(トラックファニチャー)〉——大阪の家具屋で卸先を持たないながら、いまなお多くのひとが憧れ続けるプロダクトを生み出しています。その生みの親・黄瀬徳彦さんが昨年末、ソロレーベル〈S.T,N.E.(エスティーエヌイー)〉をはじめました。しかも、シンプルな方向に大きく舵を切って。その変化には何があるのか。「なんでも聞いてください」という言葉に遠慮なく取材を進めていくと、家具の話と切っても切れない黄瀬さんご本人のお話もたっぷりと伺えたのでした。

自分が気持ちよくいられるか。

ーお話を伺っていても、黄瀬さんは、まったくご自身の世界に閉じこもらないなと。好きなものも増えていっているんですか?

黄瀬: 好きなものが増えているかと言われたら、そこまで増えていないかもしれません。ぼくは、瞬間的に好きか嫌いかを決めるんですよ。100均でも気になるものを集めて世界観をつくる自信があります。たとえば、ロサンゼルスで通りかかった小さなお店で気になるものを買おうと、いくつかを手にしてカウンターに持っていたら、その店のスタッフに「これ、めっちゃいいね」って言われたんですけど、いやいや、あんたらが売ってるやつやで(笑)って。

ーすごい目利きですね。

黄瀬: 以前、腰の手術で病院に1週間入院したとき、調光ランプを持ち込んで部屋を心地よく調整したんです。あとは、変えられない手洗い場の蛍光灯の光を和らげるためにトイレットペーパーバーを被せたり、音楽をかけたり。この部屋のことが噂になって、看護師婦長さんも見に来てくれました(笑)。そうやって、あるもので工夫して自分が心地いい場所をつくるんですよ。

ー大阪のお店の中もその感覚ですか?

黄瀬: お客さんが来はることには責任感があるからちゃんとしたいけど、それ以上に自分が気持ちいいことをしてるだけなんですよ。それはもう全部ですね。やっぱり自分。まずは自分が気持ちよく。

ーやはり黄瀬さんの心地いいことへの感性とこだわりが、ずば抜けているんだなと感じます。

黄瀬: だからといって、こんなん言うてたら、もう、うるさいやつやないですか(笑)。そういうことではないんですけどね。別のエピソードとして、友達がヴィンテージモトクロスのレースを主催していて。前日にみんなバイクの調整をするんだけど、ぼくはあまりマニアックではないから、代わりに持っていくガソリン入れの赤い携行缶を茶色に塗ったり、ティッシュ箱に好きな色の布テープを巻いたり、自分流にチューンナップしていました。そういう関係ないことばかり。それも自分が気持ちいいかどうかという話で。

ーharuka nakamuraさんが〈S.T,N.E.〉の楽曲を制作されていますよね。そして、文章にも音楽や映画の話が出てきます。そういった作品も、家具づくりの血肉になっている感覚ですか?

黄瀬: 映画は単純に好きだから観るんですけど、観ているときも忙しいんです。英語の映画が多いけど、緊張感のあるやばい状況でもしょうもないジョークを言い合ったりしているのを聴くのが好きで。でも全部理解できるほどの語学力はないから日本語字幕と英語を見比べるし、もちろんクルマや家具、服も建物も、観るものがめっちゃ多いんですよ。

ーそれは疲れますよね(笑)。

黄瀬: 絵で言えば、アメリカのアンドリュー・ワイエスという画家が好きです。当時は画家の名前はまったく知らなくて、新聞の記事で見かけて気になり、名古屋の展示会へすぐに行きました。その作品は離れてみたらすごいリアルやのに、近づいたらめちゃめちゃ荒いんですよね。そのスピード感がめっちゃかっこよくて。余談ですが痺れる話があって、彼は50年くらいずっと田舎にある家に住んで、同じ場所で風景を描き続けはったらしいです。で、お孫さんが毎日一緒のところで絵を描いてて飽きへんのか、と。そうしたら、何言うてんねん、朝起きた瞬間から絵を描きたいわって。かっこよすぎる、憧れるなあって。

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