FEATURE
おとなTRUCK改め、S.T,N.E.。気持ちよさへの圧倒的な傾倒が生み出した家具について。
Same TRUCK, New Engine: A Solo Journey

おとなTRUCK改め、S.T,N.E.。気持ちよさへの圧倒的な傾倒が生み出した家具について。

〈TRUCK FURNITURE(トラックファニチャー)〉——大阪の家具屋で卸先を持たないながら、いまなお多くのひとが憧れ続けるプロダクトを生み出しています。その生みの親・黄瀬徳彦さんが昨年末、ソロレーベル〈S.T,N.E.(エスティーエヌイー)〉をはじめました。しかも、シンプルな方向に大きく舵を切って。その変化には何があるのか。「なんでも聞いてください」という言葉に遠慮なく取材を進めていくと、家具の話と切っても切れない黄瀬さんご本人のお話もたっぷりと伺えたのでした。

圧倒的な好奇心と行動力。

ー若い頃の体験が今の感性や作風につながっていると感じますか?

黄瀬: 今回出した本にも出ていますが、小学校4年の夏休みに紙でポルシェをつくってたんで、つくるのは好きだったんでしょうね。あとは、父親があんまり器用ではないくせに、スリッパ立てをつくったり、家のペンキ塗り、庭の木の剪定などもやっていたんですけど、それを手伝っていました。中学生でブラックバス釣りに行くために地図を見て電車に乗って行ったり、高校生では北海道までバイクで旅したり。スマホもない時代やから、その道中で知らないひとに道聞いたりとか、そういうので接して喋ったり、どの道をどう行くかとかという勘を働かせながらすることだったりとか、そうした経験はいまの自分につながっていると思います。

ー歳をとると、若い頃よりも感性が鈍るという話も聞きます。黄瀬さんはどう感じていますか?

黄瀬: いま、57歳です。滅多にそんなことしないけど、これまでを振り返ってみたら、好奇心と行動力だけで生きてきたなって。でも、計画性はないんです。気になったらすぐ動く。たとえば高校生の頃、村上春樹さんの小説に出てきた音楽が気になって、いまみたいにすぐネットで聴けなかったので、レンタルレコード店を何件も回ってでも絶対に聴きたいと。出てきた本の話や気になる本があれば、あるかどうか電話で確認し、見つけたらすぐに行く。そういえば、ムツゴロウさんのところに電話したこともあります、何を聞いたのかは忘れましたけど(笑)。それくらい気になったら確認したくて、すぐ行動する。そういう感じで生きてきて、いまも変わっていません。

ー世の中の流れとして、シンプルな方に向かっていると感じるんですが、黄瀬さんは世の中の動きは意識されますか?

黄瀬: これ、面白い話でね。ぼくが“おとなTRUCK”言うて、家を建てながら店も改装して白いスペースをつくってた頃に、熊谷隆志さんの東京の家の2階がめっちゃ白くなっていたんですよ。雑誌に載ってて、「あ、これ!」ってびっくりして。ぼくもちょうど白い空間にと思ってたときで、熊谷さんも一緒のこと感じてんねんなと。こういうのって星の周期なのか何の影響か知らないですけど、同じことを同時に感じてたりするんですよ。

店のスペースも完成したある日、熊谷さんが大阪に突然来て連絡をくれて。お誘いしたら見に来てくれて、めっちゃ感動してくれて、インスタで長文を2回に分けて語ってくれたんですよ。何より嬉しかったのが「きせサン止まってない、進んでます」(原文ママ)って書いてくれたこと。白い空間にしたのも、ぼくはぼくで自然とそうなっていっただけで、リサーチして “いまはこっちの流れ” みたいなのを追ったわけじゃないんです。そういうこと、ぼくはしたことない。

ーほんと、ご自身の “好き” や “生活から立ち上がるもの” を大事にされてるんですね。

黄瀬: そう。ばかげてますよね、あんな建物までつくって。家具つくって、そこで写真撮って、文章まで書いて。ようやっとるな、と自分でも思う(笑)。この本は3ヶ月でつくってるんですよ。展示会用の小冊子をつくりたくて、たまたまバンクーバーのデザインチーム「FACULTY(ファカルティ)」と知り合いやったから、ウェブと小冊子をお願いしたら、こんな本になって。スタイリストとかでもないのに、家の中のものをかき集めて写真を撮って(笑)。文章も全部自分で書いてます。でも文章を書くの、めっちゃ好きなんですよ。

ー文章もうまいですよね、実に読ませる感じで。

黄瀬: ありがとうございます。楽しいんですよ。(以前出版した)『TRUCK NEST』も、友達の料理家・ケンタロウが「絶対自分で書いた方がいい」って言うから、やってみるかと思ってパソコンを買って。形から入るタイプなんですよね。村上春樹さんが長編を書くときは朝4時から5時間書くって聞いて、かっこいいなと思って。ぼくも冬の暗い朝5時から、静かなピアノの曲を流しながら書いてて。なんか作家になった気分でめっちゃ楽しかった(笑)。でもランチをオーダーしたのを待ってる間に、「Bird」(TRUCKが運営するカフェ)の本棚に置いてる片岡義男さんの本をパラッと開いたら、数行でガーンとやられて、「薄っぺら!」ってなってまた書き直し(笑)。でもそうやって、書くのが楽しいって初めて知ったんです。今回はもうルンルンで書いてます(笑)。

ー形から入るのって重要ですよね。ちょっと小難しい話かもしれませんが、黄瀬さんはひとりでできちゃうひとじゃないですか。ひとを育てる難しさは感じてますか?

黄瀬: 1998年とかその辺り、初めはひとりで〈TRUCK〉をはじめて、そこにひとり増えて…っていう時期がありました。最初は全部気になるんですよ。そこの木くず払って、その置き方ちゃうとか、全部言い過ぎてしまって…。言われるほうも大変やったと思う。でもひとが増えていくうちに、任せることに慣れてきて、任せられた方も責任感が出るし、楽しいんですよね。忘れられへんのは、入って一週間くらいの子がいて、試作中の椅子の背もたれをぼくがちょうど削り終わって、ええ感じになったなと思ったら、その子が座って「もう少し大きいほうがええと思います」って言ってきたんです。一瞬「は?」ってなるんですけど(笑)、言われてみたらたしかに、と思ってつくり直したらそっちの方がよかった。だから、常に柔らかくいたいなと思いますね。

ー黄瀬さんは、変わり続けることをあまり恐れてない感じがします。

黄瀬: 周りから何か言われたら、即採用、即実行(笑)。絶対にこっちやろって固まるんじゃなくて、とりあえずやってみたらええやんって。常に実験です。

ー最後に、新レーベルを立ち上げて、改めて感じた家具づくりの面白さを教えてください。

黄瀬: やっぱり面白いし、楽しいですよね。つくるのも楽しいし、見てもらって感じたことを聞くのも楽しい。自分では思ってなかったことをひとに言われたりして、「あ、結構ええもんつくったんやな」って。レセプションが終わったとき、何年かぶりにやっと寝れました(笑)。ずっと夜中に目が覚めて、ぐるぐる考える日々やったから。みんな「絶対ひと来るから大丈夫」って言うけど、本人はめっちゃ緊張してるんですよ。見てもらって、いいと言ってもらえて、ようやくええもんつくったなと噛み締められてる感じです。ここからどうなるかはわからないけど、まずはそこが一番大きいですね。

INFORMATION

関連記事#TRUCK FURNITURE

もっと見る