「The Walther Raven」¥22,000+TAX
ブランドの代表作となるドーム型のフェイスにスモールセコンドのデザインが映えるモデル。夜を連想させるようなオールブラックのカラーリングとレザーのベルトがシックな印象を与えてくれる。
アメリカで痛感した日本人としての自分。
ー最近では世界各国を飛び回り、ライブペインターとしての活動にも注目が集まっていますが、そもそもフランキーさんが画家を志すきっかけとなった経緯からお話を聞けたらと思います。
フランキー :なにがきっかけだったというのはあまりなくて、昔から絵を描くことが好きだったんですよね。レストランやホテルにあるようなメモ書きとかを見つけたらずっと絵を描いているような子供で、そうした絵を描くことと同じくらい「どんな絵を描こう?」って考えることも好きだったんです。だから人生における分岐点みたいなものは特になくて、単純に子供のまま大きくなったという感覚の方が強いかもしれません。
あとは父が工業デザイナーで、手掛けた作品がMOMA(ニューヨーク近代美術館)に展示されたこともあったり、その叔父もアートディレクターとして働いていてCMや広告のディレクションをしていたので、そうした影響も大きいですね。母からは教育面で影響を受けていて、10歳の時に海外の大学を勧められたんです。その頃は私自身もインターナショナルスクールに通っていて、高校へ入学するくらいの時には自然と海外への意識が高まっていました。そして、いざ高校に進学して進路を考えた時にアメリカの色んな大学を見てみて、「やっぱり美大に行きたいな」と思い、ニューヨークのスクール・オブ・ビジュアル・アーツに入学しました。その時には画家になりたいという明確な目標を持っていました。
ースクール・オブ・ビジュアル・アーツといえば、キース・へリングを始めとする著名なアーティストを多く輩出している名門校として知られていますよね。やはり刺激のある環境だったのでしょうか?
フランキー :学校ももちろんそうなんですが、始めはまずニューヨークという街に対するカルチャーショックがすごかったですね。とにかくハプニングの多い街でした。印象的だったのは、街中にホームレスが溢れていたこと。それと同じ美大に通う学生やニューヨークに住む若いクリエイターたちがみんなガツガツしていて、積極的な姿勢で物事に取り組んでいたこと。自分の内面をしっかりとアウトプットできる人が多いのにも驚きました。
私はアメリカと日本のハーフなんですけど、日本ではインターナショナルスクールにも通っていたので自分はアメリカ人だとすっかり思っていたのに、「わたしって日本人だったんだ」って改めて思い知らされたというか。自分のアイデンティティやルーツを改めて考えるきっかけにもなりました。まさにアイデンティティ・クライシスですよね。でも、それも現在の私の作品や活動に良い意味で影響していると思うので、今となっては貴重な経験でした。
今季の〈コモノ〉がシーズンテーマとして掲げるアイスランドの山々をイメージして作られたフランキーさんの作品も店内に飾られる。
ー英語にも堪能で、ハーフでありながらもそうした環境への順応に苦労されたんですね。ちなみに学校ではどんなことを学ばれたのですか?
フランキー :日本の美大に通ったことがないので正確な比較はできないのですが、私の通っていたアートスクールでは、模写の授業やテクニック的なことを学ぶというよりも好きな画廊を40軒まわって、論文を書いてプレゼンしろ! みたいな教えがほとんどだったので、先生が生徒を試しているような環境でした。今振り返ると自分の頭でしっかりと考えて、テーマやきっかけを探求し、自分自身をいかに表現するかを重視していたのかなと。
ーそうしたアートの本場とも言える刺激的な環境を経て、日本へ帰国してすぐに画家・アーティストとして活動されているわけですが、普段の活動ではどんなコトやモノから影響を受けているのですか?
フランキー :まずは私自身の作品にも通じるのですが、昔から色と形がとても好きなんです。すごい抽象的なんですけど。これまでの人生を通して色んなモノを見てきたんですが、その中で最も血が騒いだのが珊瑚だったんです。ダイビングやシュノーケリングした時などに人工的ではありえないようなサイケデリックな色合いや歪な形の珊瑚と出会った時。それこそが私にとって刺激的で、最大のインスピレーション。初めてそう思った時に私の作品に取り入れたいと思ったんです。
あとは小さい頃から文字を読むのが苦手だったんですけど、その代わりに絵や写真を見ることが好きでした。どんな写真が好きか? と聞かれたら迷わず、コンセプチャルな作品が好きと答えます。現代アートもそうだと思うのですが、コンセプトがあってこそ鮮明になるモノに惹かれるんですよね。なので写真家で言えば、古い映画館の写真を撮り続けている杉本博司さんは大好きですね。私自分も10歳の頃からカメラを持っていて趣味としてたまに写真を撮るんですが、構図など絵画とも共通することも多く、気になるものはなるべく記録するように心掛けています。
ライブペイントで欠かすことのできない筆やペンキ、絵の具などの道具たち。
ーフランキーさんの最近の活動では軸にもなっているライブペイント。即興性の高いアートでもあると思うのですが、普段ライブペイントをされる時はテーマなどは設けているのですか?
フランキー :ライブペイントの時は、クライアントからテーマや課題のようなモノをもらうこともあるのですが、極力明確なテーマは設けずに“今の自分”を表現することに注力しています。やっぱり自分もやってて楽しくないと意味がないですからね。それと最近では、単純にキャンバスや壁画だけではなく、よりインタラクティブな作品を作りたいと思うようになって、つい最近も絵の中に入れるライブペイントとしてトラックの中にコンテナを用意して、床まで含めたすべての空間に絵を描いたんです。その中に入ると絵の海の中に入ったような光景が広がるような不思議な感覚を味わってほしくて。入り口には『NO SHOES』とだけ書いて、お客さんに対して「靴を脱げば入れるんだ、見てみたいな」って思ってもらえるような仕掛けなんかも考えたりして。そうした広義としてのパブリックアートが好きなんですよね。
今回のライブペイントでもアイスランドの大自然を連想させるデザインをベースにしながらも、より優しく鮮やかなパステルカラーで表現。中央の円は時計のフェイス部分をイメージしている。
ーそして、去る9月9日に開催された『VOGUE FASHION'S NIGHT OUT TOKYO』では、「H°M′S″WatchStore 表参道 」の店舗にて実際にライブペイントも披露されました。イベントを終えてみて率直な感想、そしてどんな想いを持って描かれたのかも教えてください。
フランキー :『VOGUE FASHION'S NIGHT OUT TOKYO』だったからこそファッションやアートに興味のある方にも披露できて、またデザイン面でも今までとは違う絵を描けたので純粋に楽しかったです。今回は現代人が日々時間に追われる中で、そもそも時間という人工的な法則を決めたのは人間だということを再認識したいという考えのもと、この作品を描きました。時の流れは無限であり、それをどう使うかはそれぞれ自分次第。そんなコンセプトも一緒に伝えられたらなと思い、タイトルは『Abstraction of Time』がいいなと思いました。
ー今回着用いただいています〈コモノ〉の「Walther」コレクションのモデルについてですが、まずフランキーさんは右利きでありながら、右手につけられていますよね? それにはなにか理由があるのでしょうか?
フランキー :絵を描く時には、当然利き腕の右手を使うんですが、ライブペイントを行う際にはどうしてもペンや筆を持っている右手に視線が集まりますよね。そうなると自然と、時計やアクセサリーも右手につけることが多くなるんです。ライブペイントって単純に作品を見せるというよりはその過程も含めて作品となるので、私自身の立ち振る舞いや佇まいなど見え方にも注意しているんです。
ーライブペイントの時でも腕時計はつけられるんですね。それはやはり時間の制限がある中で絵を描くために常に時間を意識しないといけない状況だからでしょうか?
フランキー :そのとおりです。でもライブペイントに限らず普段から時間を意識することは多いかもしれません。12歳の頃からエンディングノートを書いていて、何歳で結婚して、出産をして、死ぬ。みたいな長期的な計画や目標を持って生きていると人生がすごく楽しくなるんです。仕事でもタスクやTO DOリストなどをチェックしていくと少なからず達成感みたいなものを味わえるじゃないですか? その感覚に近いかもしれないですね。なので、時計の針は常に5分早く進めておいて、日頃から時間を先取りするように心掛けています。
ー機能やデザインなど実際の使い心地はいかがでしょうか?
フランキー :想像以上に、軽くて使いやすいですね。実は時計がすごく好きなんです。だから色々と選ぶ基準はあるんですけど、このモデルはドーム型のフェイスがまず気に入って、ソリッドなデザインで男性っぽさもあるんですけど、レザーベルトの温かみがヴィンテージ感とも相まってフェミニンな印象にも感じられますよね。今日の花柄のファッションにも合うと思いますし。機能でいえば、レザーの素材はペンキが染み込んでしまうのであまり良くないのですが、今回に関しては完全にデザインに惹かれました。
ー最後に今後の展望、あるいは既にエンディングノートに記されている近い将来達成したい目標などはありますか?
フランキー :日本にも沢山の素敵なギャラリーや画廊がありますが、やはり一番の大きな目標は海外の、それもアメリカで著名な画像に作品を置いてもらえるように頑張りたいです。いつかフランク・ステラやフランツ・クラインのような自分の好きなアーティストや画家の作品と一緒に私の作品もコレクションしてもらえたら、それ以上の幸せはないです。お墓じゃないけど、自分の居場所がそこにもあるって思えることは画家としてとても嬉しいことなので。