本誌でカバーできなかった<br>夏のヨーロッパ・アルプス珍道中。

本誌でカバーできなかった
夏のヨーロッパ・アルプス珍道中。

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ヨーロッパでいちばん高い山。

 

イタリア第四の都市、トリノからクルマで1時間も走ればヨーロッパアルプスが眼前に広がる。北西方面に進めばモンテビアンコ(フランスでいうモンブラン)、ほぼ真北がマッターホルンだ。

モンテビアンコ/モンブランはフランスとの国境、そしてマッターホルンはスイスとの国境にある。

今回はマッターホルンの麓村である、イタリア・チェルビニアとスイス側のツェルマットの取材だが、観光局のSさんの計らいで、フランス側の国境、つまりモンテビアンコも案内してもらった。本誌ではスペースの都合ですこししか紹介できなかったのでここでフォローしておく。

モンテビアンコ/モンブランも麓の村がイタリア側、フランス側にあり、それぞれクールマイユール、シャモニーである。

イタリア側のクールマイユールは、「トルデジアン」という山岳レースのスタート/ゴール地で有名。最高標高3,300m、全長330キロを150時間以内で走るという過酷なトレイルランニングレース。日本でもNHKが特番を作ったり、数名の選手がエントリーしているので知ってる人もいるだろう。

山の向こうのシャモニーは、世界有数の高級スキーリゾート。1924年に行われた第一回冬季オリンピックの開催地としても知られている。つまり冬季五輪発祥の地。それらの村に挟まれる形でモンテビアンコ/モンブランは空高くそびえている。

このモンテビアンコをまじかに見られるゴンドラが昨年リニューアルされたという。せっかくここまで来たなら乗らないとい損である。

このゴンドラの正式名は「SKYWAY Monte Bianco」。2区間に区切られていて、第一区間のキャビンは80名が定員。次の第二区間は75名。移動中、キャビンはゆっくりぐるりと360度回転しながら氷河やアルプスに連なる山々の一大パノラマを見ることができる。どの位置にいても絶景を見逃すことはない。

乗り場となるステーションの位置は標高1,300m。駐車場完備で多くの観光客が集まっている。

クールマイユールの村

Skyawayの乗り口。

結構なスピードで中継乗り換え駅のパヴィオン・デュ・モンフレティへ。小さく見えるけど80名定員ということからサイズ想像してね。間近に氷河を見ながらダイナミックに登るのであるが、どんどん酸素は薄くなっていく。

エルブロンネ展望台(標高3,462m)からのモンテビアンコ。マッターホルン、あるいは富士山のようにわかりやすいキャラクターではないのでどれがモンテビアンコなの? とついきいてしまうが、写真中央の最も高い2点を頂上としてこれら周りを総称してモンテビアンコである。2点の左側がイタリア側、右はフランス側。イタリア側は岩で高さが一定なのに対し、フランス側は氷で囲われているため、年によって高さが若干変わるらしい。それでどっちが高いかという議論が毎年のように両国で繰り返し論議されているという。まるで子供のケンカ状態だそうだ。

エルブロンネ展望台からフランス側を臨む。写真下からワイヤーが写真中央に向かって伸びているが、これがフランス側へ続くロープウェイ。先に小さな突起(左上にワイヤーが伸びている)がフランス側のステーション、および展望台。

展望台にある山の名前の案内板。日本人からするとあまに馴染みのない名前ばかりで特徴もない山々なのでなにがなんだかよくわかりません。

展望台の下はバーやレストラン、そしてスパークリングワインのカーヴまである。

 

3,466メートルの展望台までの時間は乗り換えも含めおよそ15分。景色を眺めていたらあっという間だ。

展望台のステーションでゴンドラを降り、展望台まで階段をあがるのだが、急に高度に連れてこられたためか息が上がって仕方がない。一歩一歩深く息をしながらヨレヨレと登っていく。8,000メートル級の山に挑戦している人のことを考える。あの人たちは体の構造から違う。

運良く天気は晴れ。展望台からは360度の大パノラマだ。フランス側の展望台も見えるし、モンブランは待ってくれていたかのように眩しく目の前に鎮座している。あまりの絶景にしばしそこを動けない。というか息が上がっているせいかもしれない。

このゴンドラは先の戦争の前に造成されたそうだ。山の向こうから迫ってくる敵に優位に立つよう時のイタリア政府が作らせたものだ。正直、こんな険しい山を越えて攻めてくる軍隊とかいるのかななどとバカな考えが頭をよぎる。山越えたところでもうヘトヘトになって使い物にならなさそう。

当時は観光基準やら遺産整備やらそんな概念のない時代。大自然に楔を打ち込むのも機械で大きな穴を掘るのも自由なおおらかな時代であった。そのおかげで今日、わずかの利用料を払うだけで3,000メートル以上の山の上へ、ハイヒールでもやってこれる。さすがに夏といえど寒いのジャケットは必要だが。

これら展望台の施設の資材はすべてヘリコプターで運ばれたそうだ。ゴンドラで運ぶのかヘリで運ぶのかというのはニワトリが先か卵が先かというパラドックスに満ちていて面白い。

ちょうど我々が訪れた時にもけたたましい音量でヘリコプターがなにかロープで資材のようなものを運んでいた。どうも我々が普段生活している視点からするといちいちスケールがでかい。

面白い経験ができたものだ。


アオスタで飛行機に乗る

 

クールマイユールを後にして、チェルビニアに向かおうとした時、観光局のSさんが、こんなに天気がいいのでよかったら遊覧飛行しませんかと言ってきた。中継するアオスタの街に小さな飛行場があり、そこに飛行クラブがあるという。
「マッターホルンからモンテビアンコまでくっきり見えますよ」

旅は非日常である。非日常は人にとてつもない判断の誤りを時に促す。
「乗りましょう!」

小一時間で飛行場へ。小型飛行機のことをセスナと商標名で呼ぶが、いわゆるそんな小さな飛行機。定員は4名。

パイロットのおじさんはイタリア空軍でならした腕利きだというが、結構なお年を召しているのと、陽気なイタリア人ということでどうにも信用ならん。それでも無情にエンジンは大音量でエグゾーストノートを奏でるのであった。

パッセンジャーシートに乗っていると、おじさんが操作するたび腕やら膝やらがぶつかってくる。それくらいコクピットの中は狭い。しかも操縦桿が床から伸びて膝で挟む位置にあるし、床には足の届く位置にペダルがある。事前に絶対にどれにも触るなと聞かされていた。しかし急な揺れや降下のたびにしがみつく場所探してもどこにも取っ手のようなものはなく、無意識に操縦桿を握るのであった。身体中からイヤな汗が湧き出てくる。

安定飛行に入ると普段乗っている飛行機のようなもので、徐々にしか動かない景色を見ながら退屈な時間を過ごすことになる。

途中「シャモワ」という村の上を越えていく。人口約100人の小さな村で「アルプスの真珠」と呼ばれている集落だ。

山の上にある自給自足の村で、ここへのアクセスはゴンドラか小型飛行機のみ。この村につづく道がないのである。完全な孤立集落。世界中から研究者がやってきて文化人類学的見地で調査しているそうだ。もちろん日本人学者もよくくるらしい。エコの極みといったところか。

ここまでくるとマッターホルンはもう近い。

しかしここまで続いていた好天であるが、徐々に雲が湧き出てきた。午前早い時間は比較的くっきり晴れるのだが、この時期は10時を越えると気温があがり、水蒸気が上って雲になるのである。

グレッシャーパラダイスのプラトーローザでスキーを楽しむ人を目視しながら正面を見るのだが、雲の間からマッターホルンの頂上がちらりと見えるだけ。さらに雲が増えてきたのでこのまま進むと危険というおじさんのアドバイスでやむなく引き返す。残念、マッターホルン、チェルビニアでまた会おう。

そしてまた退屈な時間をかけてモンテビアンコへと書きたいところであるが、この道すがらは思いの外飛行機が揺れてちょっとしたパニックになってしまう。機体が全体で上下左右にぶれるというのではなく、お尻だけがびっと横に滑るような挙動。これまでどんな乗り物でも経験したことにないような気持ちの悪さ。出来の悪い遊園地のアトラクションのようであった。

モンテビアンコもマッターホルンと同じで雲に行く手を遮られた。しかしてっぺんはちらりと見えたし、さっきまでずっと見てたんだからいいだろうと急くように早く降りようよというサインを出すのだが、おじさんは意に介さず、マイペースなのであった。

着陸は高度を徐々に下げている。急に降りると体に悪いということでアオスタの上空を何度も円を描くように機体を斜めにして旋回して降りていくのだ。斜めの機体からずっと外の景色を見ている状態が10分くらい続くというのも健康に悪い。

滑走路に着陸した頃にはもう体はぐったりであった。

おじさん、ありがとう。もう二度と乗らない。

これが飛行機。軽四自動車のようなものである。

雲で隠れたマッターホルン。イタリア側から眺めた図。

上空から臨むチェルビニア村。


マッターホルンのB面

 

チェルビニア。現地の人の発音ではチェルビーニア。音引きがどうにもイタリア語らしい。

歩いて回っても15分くらいで一周できるくらいの小さな村。冬になると世界中からスキーのチームが合宿に訪れるというスパルタンなスキー合宿地であるが、とはいえ観光地でもあるのでリゾートしての価値も高い。なんせここはイタリア。山の向こうのスイスとは物価が全然違う。しかもどこで食べても美味しいというのがイタリアという国。食べるものの満足度、コスパでいうとアルプス随一である。実際、スイス側に滞在してスキーを楽しみ人も、ランチにはこっち側にきてちゃっかり安くておいしいものを食べて帰るらしい。

そしてマッターホルンに近い。いや違った。チェルビーノ。イタリア語ではマッターホルンをこういうのである。

村はリアルに山の麓。しかし山の形は残念ながらスイス側にやや遅れを取っているか。イタリア側から見るとゴツゴツした岩山にしか見えない。コンプレックスがないかといえばなくはないだろうなというのが、不躾な第三者である我々の感ずるところではある。マッターホルンのB面という感じか。

村は空いていた。4月末に終わる冬シーズンののち、5、6月は休み、夏シーズンが始まったばかりの7月上旬であるが、それにしても後でいくツェルマットの観光客の多さと比べると渋谷のスクランブル交差点と地方都市のそれという感じか。

なのでのんびりできる。スポーツを楽しんで、おいしいものを食べてバーで飲んで、それでもまだ明るい。それもさらにゆったりムードを増長させる。ちょうどユーロのイタリア対ドイツの準々決勝が行われていて地元の人たちはバーで大騒ぎをしていたものの、2時間足らずで無言になっていた。

夏のチェルビニアはアウトドアスポーツのメッカである。本誌でも紹介している登山やスキーはもちろん、トレッキング、トレイルランニング、ダウンヒルバイク、はてはゴルフまで。山に登るゴンドラも歩いていける距離にあるので、基本村のどこの宿に泊まっても大丈夫。

スキー場へはそのゴンドラを2度ほど乗り換えていく。平日だったので地元の中高生スキー部のような子たちが大勢いる。ここから次のトンバが生まれるわけである。一年中滑られるという環境は何にも増して有利である。

スキーのできるグレッシャーパラダイスは高所なので、やはり何本もすべると息が上がってしまう。現地の子たちはそれはもう何本も何本もTバーに捕まって登っては滑りを繰り返している。そうここはリフトではなく、Tバーなのである。

Tバーとは文字どおり、T字のバーが上空のワイヤーから伸びてきて、それを捕まえてお尻に引っ掛けてスキーで滑って登っていく昇降具である。徐々に動いている安定していない氷河の上に常設構造物を置くことは不可能。なのでテンポラリーに施設できる簡易なTバーが氷河スキーの標準なのである。スキーは比較的マスターするのは簡単だが、本誌にもあるとおり、スケボの人はコツがいるようだ。ライターのMさんも最初は苦戦していた。

ゲレンデは午後1時まで。気温が上がってサーフェイスがゴツゴツになる前にクローズし、ピステンで慣らして翌日朝を迎える。その繰り返し。夜には夏でも雪が降るのでコンディションはとてもいい。仕事でなくて遊びで来るなら、朝ワンラウンドスキーを楽しんで午後からゴルフやテニスというのも悪くない。

宿に関しては、本誌でも紹介しているサント・ウベルトスが特別に良かった。ゴンドラ乗り場のすぐ下というロケーションもさることながら、全室に暖炉が付いている。冬のハイシーズン、遊びで来るなら絶対ここと、取材陣全員が妄想していたと思う。

それにしてもイタリア、メシうまいね。

街に覆いかぶさるようにチェルビーノ(マッターホルン)が聳える。イタリア側から見るとただの岩の塊にしか見えないのが残念。

B面とはいえ、美しいものはやはり美しいのであった。ブルー湖に映る逆さチェルビーノ。

ゴンドラを降りるとそこは冬景色。曇ると気温は零下まで下がる。しかし真夏とは思えないコンディション。

写真左側に写っているのがTバー。二人で乗ることもできる。

ゲレンデから望むチェルビーノ(マッターホルン)。東側側面が見えている。

スキー場から見上げるブライトホルン。筋の上に蟻のように見える点々は頂上にアタックしている登山者。いやはや。


これぞマッターホルンのA面!

 

マッターホルンといえば最初に浮かぶのはツェルマットである。スイス、アルプス、マッターホルンとなると必ずツアーパンフにその名前が載っている。151年前、初めてのマッターホルン登頂を成功させたエドワード・ウィンパーらがアタックのために滞在した村がツェルマットであった。そしてその後、観光地として世界中にその名を轟かせることになる。

ツェルマットは環境先進村で村内はガソリン車は走れない。すべて電気自動車。タクシーもトラックもブルドーザーも働くクルマはすべて電気で動く。目抜通りは1キロほどあり、その周りにホテルやコテージなどが広がっている。チェルビニアに比べるとふた回りほど大きいという感じ。ちょっとしたブランドのブティックや高級時計屋さんなどもあり、さすがスイスといったところ。意外に日本人の壮年観光客が多いのに驚いた。近年どこにいってもアジア人というと隣国の人たちにマジョリティを奪われているのに、ここスイスはまだまだ日本の経済大国の余韻が残っているのである。

ホテルやレストランは小ぎれいでモダン。いわゆる観光地然としているので、チェルビニアと比較すると好みは分かれるかもしれない。

しかしゴルナーグラートの体験はすばらしかった。こちらも山の名前で3,100メーターの尾根にホテルが建っている。ツェルマット村からゴルナーグラート鉄道が通じていて、およそ33分で到着する。料金は片道45スイスフラン。ちょっと高めではあるが、登る価値はある。

我々はその山の上に立つクルム・ゴルナーグラートホテルに一泊した。ちょうどランチ時に着いたのでビールを一杯、とまでは良かったのだけど、カメラマンのMくんは空気の薄さでアルコールがまわり、若干ダウン。空気の薄さに男性チームはすこしやられました。

なんといっても夕焼けのモンテローザ、朝焼けのマッターホルン、そして夜の何も遮るものがない星空は、息をのむ瞬間だ。幸い天気に恵まれたのでこれらを経験できたけど、巡り合わせが悪くて目にできなかった人たちには心から同情する。それくらい価値ある景色であった。

モンテローザの夕焼け。薔薇色に染まるからモンテローザなんだね、と聞いたところそうではないらしい。けっ。

マッターホルンの朝焼け。ビューティフルですなあ。

空気は澄んでいるし、雲の上だし、下界の光は届かない。星空を見る上でこれ以上良い条件は考えられないのである。

今回の取材にはGoProを借りてみた。アクションスポーツには必携ということで。事前にあれこれいじってるとこれは面白い。携帯からも簡単に操作できるしね。レンズは超ワイド、中間、普通(←シロウトか)の3種で今回は原則真ん中の中間画角で撮ってみた。

しかし撮影者がヘタなもんであまりいい映像は残せなかった。それでもスキーの風景やら写真よりイメージしやすいので、ちょっと見てやってください。

 

グレッシャーパラダイスのプラトーローザ(バラの平原という意味か?)でのスキー風景。中央かやや左正面に見える高い山がマッターホルン。天気にも恵まれた。



プラトーローザからトロッケナー・シュテクへ続くなだらかで直線な斜面。途中、少し傾斜のきついところもあるけど、超初心者がスキーに慣れるには絶好のコース。途中小さな橋のようなところを渡ったり、結構面白い。コース左手にずっとマッターホルンが見える。



アオスタで小型飛行機体験。まずは離陸から。



最初正面に見えるなだらかな雪面がプラトーローザ。つまりスキー場。左にターンして雲の隙間からちょっと頭を出すのがマッターホルン。雲が突然湧いてきてきっちり見えないのが残念。



マッターホルンから引き返し、またモンテビアンコ/モンブランへ。こちらもさっきのSKYWAYでの登頂時とは違い、雲に視線を阻まれる。雲からちらりと顔を出すのがモンテビアンコ。

アンプラグドのB面 ISSUE 04
B面では、Webでしか見られない未公開カットや、雑誌には載せきれなかったコンテンツをもれなくアップしています。本誌と一緒にごらんください。
http://unplugged.houyhnhnm.jp/
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