パリとは一定の距離を置きたい。 みんな同じようなことばかりしたがるから。
ストリート」という言葉を聞くと、どうしてもアメリカを連想してしまう人が多いかもしれない。でも、ヨーロッパにおいてもストリートシーンは発展していて、とりわけいま注目したいのがフランスのソレなのである。その理由やシーンの“いま”については絶賛発売中の『フイナム・アンプラグド vol.04』で追っているのでそちらを見てもらうとして、ここではフレンチ・ストリートにおける重要ブランドのひとつ〈ドロール・ド・ムッシュ〉を紹介しよう。
デザインおよびPRを担当しているダニー。
マキシムは、ダニーと一緒にデザインをする傍ら、セールスなども担当している。
このブランドは2人のフランス人の手によってクリエイトされている。背が高く端正な顔立ちのダニーと、スキンヘッドで寡黙なキャラクターのマキシムだ。ふとしたことがきっかけで出会ったふたりは、ファッションに情熱を燃やす者同士すぐに意気投合。ヨーロッパのファッションシーンにないものをつくろうという想いから、2014年にブランドをスタートさせた。
「フレンチテイストを取り入れたモダンなストリートウェア。それが〈ドロール・ド・ムッシュ〉のコンセプトだよ。ブランド名にある『ドロール』いう言葉は『ストレンジ、変わり者』という意味を持っていて、それはまさにぼくたちのことを指し示す言葉でもある
ー彼らが「ドロール」である理由。そこには2つの意味が隠されていた。
「ダニーはもともとレストランのマネージャーをしていて、ぼくは学生でファイナンスの勉強をしていたんだ。つまりふたりとも服づくりに関しては無知の状態。それでもファッションに対する情熱が先行してぼくらはブランドをはじめてしまったんだよ」(ダニー)
ーいくらファッションが好きとはいえ、無学のまま右も左もわからない状態でブランドをスタートさせるなんて無謀な挑戦とも言える。はじめはインターネットを頼りにスエットシャツ数型をリリース。その後は服づくりに詳しい知人に教えを乞いながら、現在のコレクションはアウターからパンツに至るまでトータルで自分たちのスタイルを提案している。
ーこれが1つ目の理由。もう1つの理由を尋ねると、こんな答えが返ってきた。
「フランスでファッションが栄えている街といえば、真っ先の思い浮かぶのが“パリ”。でもぼくらが活動を行っているのはパリから南東に300キロほど離れたところにある“ディジョン”という街なんだ。ここなら俯瞰してパリを眺めることができるし、ファッションのメインストリームと一定の距離を置きながら自分たちの表現したいことを発表できる」(ダニー)
「パリは素敵な街だよ。でも、ファッションという意味においては話が変わってくる。あそこは情報が溢れすぎているし、みんな似たようなことをしがちだからね」(マキシム)
都会とは違い、のどかな空気が流れるディジョンの街。歴史ある建物が目を惹く。
ーディジョンに関してふたりに情報を求めると「べつにファッションが栄えているわけではない」という答えが返ってきた。
「ディジョンはぼくたちの故郷。本当にのどかな街で、ぼくらはここが好きなんだ。とくにファッションが栄えているわけでもないから、クリエーションをする上では困難もある。だからこそ、ぼくたちが〈ドロール・ド・ムッシュ〉のクリエーションをする意味があると思うんだ」(ダニー)
クリエーションにおいては、日本のスタイルにも影響を受けている。
ー彼らがつくるアイテムの数々は至ってシンプル。スエットやパーカなどのベーシックなアイテムに、さり気なくデザインを加えるアプローチが目に付く。
「いまファッションシーンを賑わせている洋服はどれも装飾が効きすぎていて、トゥー・マッチだと思う。ぼくらはもともとミニマルなものが好きだし、自分たちが着たいものをデザインするようにしているよ」(ダニー)
ーアイテムをつくる上でふたりが参考にしているのが写真だ。ブランドのサイト にある「JOURNAL」というコンテンツからは、彼らのコレクションのインスピレーション源が公開されている。
「特定のカルチャーに影響を受けて、それをもとにクリエーション行なっているワケじゃないんだ。ふたりでいろんな写真を眺めて、意見を出し合いながらイメージを共有してデザインを決めているんだ。スタイルに関しては、東京のストリートファッションの写真も参考にしているよ。パンツの穿き方、とくにシルエットやレングスのバランスなど、東京にはフランスでは見ることができないスタイルを持った人々が大勢いるからね。それをぼくたちのアイデンティティであるフランスの文化と掛け合わせてデザインをしているよ」(ダニー)
ーそんなふたりがおすすめしたいと話すのが、このストライプパンツだ。一見するとスラックスのように上品なアイテムだけど、ウエストがイージーになってるしジャージのような生地で仕立てられているから、履き心地がとにかく快適。
「デイリーに着られるというのがストリートウェアの真髄。それに、ワードローブからあれこれと選んで着るんじゃなく、サッと選んで着れるものがいい。そのためには多少の上品さが必要だと思うんだ」(マキシム)
日本のパートナーが「JOURNAL STANDARD relume」をプッシュしてくれた。
ー洋服に対する彼らの情熱、そして哲学が詰め込まれたコレクションは、もともとブランドのオフィシャルサイトでしか手に入れることができなかった。しかし現在では限られた店舗にデリバリーされるようになっている。
「さっきも話したように〈ドロール・ド・ムッシュ〉は小さな規模からスタートした。だから、販路もオンラインのみしか考えていなかったんだ。でも、ある年のパリのファッションウィークでゲリラ的にプレゼンテーションを行なったんだよ。それは、いまぼくたちが着ている『not from paris madame』と書かれたスエットを着て街を歩くというもの。しかも、なんの許可も取らず告知もせずにね。それが見事に成功したんだよ」(ダニー)
ーそうしてパリの街でアピールしたあと、オンライン上ではオーダーが絶えなくなったという。彼らが行なったプレゼンテーションが、目の肥えたパリのファッション・アディクトたちに支持されたのだ。
「そうして注目を浴びるようになって、ショップからもオーダーが来るようになったんだ。だからといって、どこで取り扱ってもオーケー、というわけにはいかない。それは自分たちが共感できるショップとビジネスをしたいから。〈ドロール・ド・ムッシュ〉をほかのブランドとミックスして、上手にエディットしてくれるところがいいなと。〈シュプリーム〉といったストリートブランドや〈カルヴェン〉などのラグジュアリーなブランド、そしてフランスを代表する〈A.P.C〉が好きだから、そんなブランドと一緒に〈ドロール・ド・ムッシュ〉が展開されるのが、ぼくらの夢でもあるんだ」(ダニー)
ー今回ポップアップ・イベントが行われている「JOURNAL STANDARD relume」に対しては、どんな印象を抱いたのだろうか?
「『このショップがいい』って日本のパートナーがプッシュしてくれて、今回のイベントを行うことになったんだ。実際に来てみて、すごくいいお店だと思うよ。ブランドのセレクトやお店の内装、雰囲気もいい。フランスではこうしたポップアップというアプローチがなかなか無いんだ。だからこうして自分たちの世界観をお客さんと共有できて、すごくうれしいし興奮しているよ」(ダニー)
ー最後に、ダニーとマキシムは「いつか自分たちのお店をつくりたい」と話してくれた。
「展開するショップを増やして、いろんな人に〈ドロール・ド・ムッシュ〉のことを認知してもらうことも大事だけど、やっぱり自分たちの世界観をギュッと凝縮したお店をつくるのは、ブランドにとって夢でもある。フランスじゃなくて、ロンドンにつくるのも面白いかなと思っているよ。ぼくたちのブランドはロンドンで人気なんだ(笑)。東京に? たしかにそれもアリかもしれない。東京ならユニークなスタイルが提案できると思うしね。とはいえ、まだブランドがはじまって2年しか経っていないし地道に力をつける必要があるから、いまの段階ではなんともいえないけど、楽しみにしててくれるとうれしいな」(ダニー)