スケートとアートの架け橋。多彩な表現方法で魅了するエド・テンプルトンとは。

Special Interview of #DAILYHBPIERPHOTO EXHIBITION BY ED TEMPLETON

スケートとアートの架け橋。多彩な表現方法で魅了するエド・テンプルトンとは。

“エド・テンプルトン”と聞いて一体何を思い浮かべるでしょう。90年代を代表するレジェンドスケーター、あるいは〈トイマシーン(TOY MACHINE)〉のデザイナー、「トランジスターセクト」に代表されるドローイングアーティスト、そしてフォトグラファー。ストリートの鬼才、エド・テンプルトンは様々な顔を持ち、その多彩な表現方法で多くの人々を魅了してきました。そこで今回、フイナム編集部は「ピルグリム サーフ+サプライ(Pilgrim Surf+Supply)」で開催されている彼の展示イベントに合わせてインタビューを敢行。スケートとアートをつなぎ、ストリートアートシーンに多大な影響を及ぼすエド・テンプルトンのクリエイションの根幹とは何か? パーソナルな部分にスポットを当てながら、その深層に迫りました。

  • Photo_Shin Hamada
  • Text_Yuho Nomura
  • Edit_Yosuke Ishii
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エド・テンプルトン(ED TEMPLETON)

1972年、カリフォルニア州出身。スケーターとして数々の功績を残したストリートにおけるリビングレジェンド。1993年にはスケートカンパニー〈トイマシーン(TOY MACHINE)〉を設立。一方でドローイングや写真といったアーティストとしても活動する、現代のストリートアートシーンを担うキーパーソンの一人。

 写真は見たものをそのまま写し、記録したもの。アートは頭の中にあるアイデアを具現化したもの。

ーちょうど1年ぶりくらいの来日ですね。早速ですが、まずはエドのことを簡単に教えてもらえますか?

エド:まず大前提として、僕のすべての始まりにはスケートボードがあるということ。1985年にスケートを始めて、気が付いたらこれまでに沢山のスケートカンパニーに所属し、サポートを受けながらプロとして活動を続けてきた。1993年にスケートカンパニー〈トイマシーン(TOY MACHINE)〉を設立し、ディレクターとしてデザインに携わりながら、写真を撮ったり、アートに没頭したり、旅をしたりしながら今日まで過ごしている感じかな。

ーエドはスケーターでありながら、ドローイングや写真といったアーティスト活動も活発ですよね。これまでに手掛けた作品の中でも、代表作である「トランジスターセクト」は特に印象的です。このキャラクターが生まれた経緯をお教えください。

エド:スケートのトリップに出掛けるときってバスで何時間も延々と移動するから退屈なんだ。そうすると大抵クルーの誰かが落書きをしはじめて、みんな自然とそれに加わったり、笑って感想を言い合ったりしながら時間を潰すことが多いんだよね。「トランジスターセクト」は、いつかのそんな場面でたまたま生まれたキャラクターなんだ。

ーあの有名なキャラクターが、まさか暇潰しの落書きから生まれたとは。驚きです。いまやエドと〈トイマシーン〉を象徴するキャラクターにまで育っていますよね。

エド:当時ゴンズ(*マーク・ゴンザレス)がしていたように、僕も自分で作ったスケートデッキに「トランジスターセクト」を描いてみたんだ。そのデッキを一部のショップで販売していたんだけど、予想以上に反響があって。この出来事が〈トイマシーン〉を始めるきっかけになったんだよ。ブランドを始めたのは1993年だね。

ーアートがきっかけで〈トイマシーン〉が誕生したんですね。実にエドらしいエピソードです。

エド:僕の手掛けるアートは大きく2種類に分けられる。ひとつは〈トイマシーン〉に提供するアートワーク。もうひとつは自由にハンドペインティングで描くドローイング。それぞれモチベーションも違うし、僕のなかでは全く別のものとして区別しているんだ。

ーデザインワークと創作アートという違いでしょうか。ちなみにアートと写真の場合は何か意識することや違いはありますか?

エド:アートは僕の頭の中にあるアイデアを具現化したもの。その反面、写真はあくまで僕の見たものをそのまま写し、記録したもの。もっとリアリティのある表現方法だね。その両方がちょうど良いバランスで保てていることが、僕のライフスタイルでは大切なことなんだ。

ーそこにも明確な意識の違いがあると。では1日のルーティンはどう過ごしているのでしょう?

エド:当然その日にもよるんだけど、基本的には朝起きてから、まずPCの前に座り、前日までに撮影した写真の取り込みと編集をする。それから、飽きたら犬の散歩に出かけて、外の写真を気ままに撮ったり、家にある作業場で絵を描いたりしているかな。ブランドの仕事が忙しい時はそっちを優先させたりもするけどね。

ーアート制作や写真を撮ることが生活の一部になっているんですね。ところで最近はスケートしていないんですか?

エド:5年前のスケートデモで足を骨折しちゃってね。(携帯電話で撮影したレントゲン写真を見せながら)トリックした時に着地に失敗して、足に思いっきり負担がかかって…おかげで足にボルトを沢山入れる羽目になったよ。それからというもの、スケートはほとんどできていないんだ。たまに仲間とクルージングしたりはするけどね。だけど今は絵を描いたり、写真を撮ったりしている。こういった活動も、自分にとってはスケートがあったからこそなんだ。

日常にあるものが自然と作品やクリエイションにつながっていく。

ー今はスケーターでありながら写真やアート、音楽など、スケートとは異なる表現の手段を持つ人が沢山出てきました。その先駆けでもあった「ビューティフル・ルーザーズ」(*NY イーストヴィレッジの「アレッジド・ギャラリー(ALLEGED GALLERY)」から発信された、D.I.Y.精神のもとに制作されたストリートアートムーブメント)の面々が身近にいたっていうのもエドにとっては大きかったのでしょうか?

エド:そうだね。ゴンズは今でも絶対的な存在だし、トーマス・キャンベルやクリス・ヨハンソン、ハーモニー・コリンなど、とにかく沢山のクリエイションを共感できる仲間たちが当時から周りにいたことはとても刺激になったし良い影響を与えてもらったと思う。今はもう「アレッジド・ギャラリー」のような場所はないからね。

ーいつ頃から写真を撮り始めたんでしょうか?

エド:写真は僕自身がスケーターとして活動をし始めた頃から撮っていたんだけど、きっかけは毎日沢山のスケーターと共に過ごしていく中で彼らのレイジーなライフスタイルに惹かれて、その様子を撮りためようと思ったんだ。ラリー・クラークが『TULSA』を撮ったようにね。スケートをして毎晩のようにパーティーをしては酒を飲み、騒いでいる彼らと一緒にいるのがとにかく楽しかった。僕は酒もタバコもやらなかったから、周りからは退屈そうな奴に見えていたかもしれないけど(笑)

ーだからこそ俯瞰してスケーターたちのことを見れていたのかもしれないですね。そういえば、近々そうしたスケーターたちにフォーカスした作品を制作しているという話を聞きました。プロジェクトは進んでいますか?

エド:『Wires Crossed』のことだね。長い間ずっと撮り溜めてきた沢山のスケーターたちを収めた写真集をちょうど製作しているところなんだ。どの写真もこれまで世に出ることのなかった未発表のものばかり。多分、僕自身のキャリアの中でも集大成となるような作品になるんじゃないかな。

ーそれは楽しみだね。エドの写真といえば『TEENAGE SMOKERS』シリーズや『LICK』など、これまでコンセプチュアルな作品が多かったように思います。それは事前にコンセプトなどを設けていたのでしょうか?

エド:いや、実はどれも撮影した後にコンセプトを決めていることが多いんだ。というのも、写真はあくまでも僕自身が面白いと思ったものを記録していく手段でしかなく、そこに強いメッセージはないんだよ。『TEENAGE SMOKERS』に関して言えば、周りから「エドの写真にはティーンの子たちがタバコを吸っている写真が多いね」って感想を言われたのをヒントに作ったくらいだからね(笑)。日常にあるものが自然と作品やクリエイションになっていることが多いから、自分自身で意外と気がつかないことも多いんだ。

ー日常にあるものが自然とクリエイションに影響していたという点では、エドの奥さんが写真家であるというのも大きいのかもしれませんね。

エド:そうかもしれないね。今回の来日でディアナも新作の写真集を発表しているしね。ディアナとは食事中は必ずと言っていいほど写真について話したり、ディスカッションしている。二人で街を歩きながら写真を撮り合ったりもしているよ。たまにお互い撮影した対象が一緒で、それが原因で喧嘩したりもするよ(笑)

一人でも多くの人に自分の作品をシェアしてもらいたい。

ーそういえばエドは日本に来日した際には、#edo_in_japanというハッシュタグで日本のいろんな写真をInstagramにアップしていますね。

エド:そうそう。今回は大阪にも足を伸ばしたんだけど、東京とはまた異なるディープなスポットが多かったよ。特に新世界ってエリアは少し危険な匂いもしたけど楽しい場所だったね。

ー今回の来日のメインである「#DAILYHBPIERPHOTO EXHIBITION BY ED TEMPLETON」ですが、日本で開催することに対して特別な思い入れなどはありますか?

エド:日本はもちろん、いろんな国で自分の作品を発表できるのはやっぱり素晴らしいことだよね。 僕の場合、自分の作品は一人でも多くの人にシェアしてもらいたいと思っているからなおさら。こと日本は僕にとって特別な国のひとつでもあるからね。最近では、ビーガンのお店も増えてきているし、京都とか浅草とか鎌倉みたいに文化的な背景が感じられる場所も多いのも魅力のひとつだ。特に鎌倉は僕の地元であるハンティントンビーチと雰囲気も似ていて、いつか住んでみたいと思ったよ。

ー今回の展示イベントのテーマもエドにとって所縁のある ハンティントンビーチが題材になっていますね。

エド:そうなんだよ。自分の生まれ育った場所で今も住んでいるハンティントンビーチの写真にハッシュタグをつけてみんなとシェアしたいなって思ったのがきっかけ。Instagramの影響が大きいかもしれないね。展示している写真は最近のものもあれば、何十年も昔に撮影したものもあるよ。

ー今もハンティントンビーチから離れない理由はなにかあるんでしょうか?

エド:昔は友人も多く住んでいるLAに移ろうかと考えたけど、やっぱり生まれ育った場所で勝手もわかっているし、海にも近いハンティントンビーチの雰囲気が好きなんだ。今はアトリエを併設した大きな家も手に入れたしね。LAは家賃も高くて、なかなか広い家にも住めないだろ? まぁ結局は自分のライフスタイルに合っている場所で暮らすのが一番なんだよ。

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ー今回は写真だけじゃなくて、描き下ろしのドローイング作品やコラボTシャツも作りましたね。

エド:今回のイベントのために書き下ろしたドローイングをプリントしたTシャツを制作したんだ。このイベントに来ることで、僕が何者かということが少しでも理解してもらえたらと思っている。こうした展示やイベントを通じて新しい出会いが生まれることを嬉しく思っている。

ー最後に日本にいるエドのファンやスケーター、写真家、アーティストたちに向けて一言メッセージをもらえますか?

エド:オーケー、少し考えていいかな…。うまく伝わるかわからないけど、自分の意思で船の舵を切らなければ、海の中を進むことができないだろ? 今はインターネットだってあるんだし、自分の意見をもっとプレゼンしていかなきゃダメだよ。それがInstagramだって、zineだって良いんだから。特に今日本でも本気で写真を仕事にしたいと持っている若い子は多いと思う。みんないつかは大きなギャラリーで自分の個展を開くことを望んでいるかもしれないけど、僕だって10年くらいはかかった。それまではとにかく街角の小さなコーヒースタンドや友人の洋服屋、知り合いのアトリエ、どこでも声がかかれば出展していたよ。僕自身がスケートショップでしか展示はしない!みたいなタイプではなかったからなのかもしれないけど。それでもまずは多くの人の目に留めてもらうことが大切なんだ。そこから可能性は広がっていくはずだから。

#DAILYHBPIERPHOTO EXHIBITION BY ED TEMPLETON

会期:開催中 ~ 11月6日(月)
会場:Pilgrim Surf+Supply
住所:東京都渋谷区神南1–14–7 1F
電話番号:03−5459–1690
営業時間:11:00~20:00
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