- ー塊根植物が空前のブームを迎えていますが、そもそもどういった植物なのか教えてください。
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横町:ざっくりと言えば、多肉植物の一種ですね。英語ではコーデックスと呼ばれています。アフリカや中米などの乾燥した環境でも育つように進化した植物なので、根や幹を木質化して、貯水タンクの役割を果たしています。そのため独特なフォルムをしており、希少性も手伝って人気に火がつきました。
- ーどのような流れで、いまのブームに至ったのでしょうか。
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横町:個人的な見解としては、ここ3~4年で盛り上がった印象ですね。10年くらい前から、一部の植物愛好家だけでなく、インテリアとしてグリーンを取り入れる人が増えたと思います。人と被らないもの、ほどよく管理しやすいものと追いかけていって、塊根植物に行き着いた人が多いと思いますよ。その中心となったのが、多くの種がマダガスカル島を原産とするキョウチクトウ科のパキポディウムですね。
マッケイ渓谷で発見された新種、パキポディウム・マカイエンセ。和名は魔界玉。
とりわけ高い人気を誇るパキポディウム・グラキリウス。マダガスカル・イスカ地方で自生する。
- ー「パキポディウム」にも色々ありますよね。
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横町:マカイエンセやブレビカウレ、ラメリーなど、一言にパキポディウムと言っても様々な植物があります。どれも人気があるのですが、そのなかでも代表的なのが、僕も大好きなグラキリウス。
- ー代表的な品種ですよね。塊根植物と聞いて、真っ先に思い浮かぶ形です。
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横町:グラキリウスは、パキポディウムの中でも特にまん丸なフォルムになるので、ものすごく愛らしいんですよ。自然がつくりだすアートと言いますか、同じパキポディウムでもひとつひとつの個体で形が異なるので、より愛着が湧くんですよね。丸くて枝の短いものが理想とされていて、そのような個体は価値が上がります。
- ーたしかに同じグラキリウスでも大きさや造形でかなり価格が違いますね。
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横町:塊根植物は、基本的に成長するのがものすごく遅いんですよ。種類や環境にもよりますが、1年で1~2センチ程度しか成長しません。その分、価格にも反映されます。一般的な観葉植物を育てる楽しみというより、その造形を楽しむ愛好家が多いと感じます。いい形を探してコレクションするフィギュア集めに近い感覚かもしれませんね。「ボタナイズ」では30~40代の男性のお客様が多いですね。
- ー「ボタナイズ」では鉢とのコーディネイト提案も面白いですよね。より男心をくすぐられるというか。
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横町:植物の形や大きさを意識して、バランスを見ながら鉢と組み合わせます。そうすることで、より個性的に仕上げられるんですよね。塊根植物はフォルムが特徴的なので、コーディネイトしがいがある。これもひとつの醍醐味であり、塊根植物が盛り上がった要因かと思います。
- ーどんな鉢が人気なんですか?
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横町: 取り扱っている鉢はどれも人気ですが、なかでもカルト的な人気を誇るのが、〈インビジブルインク(Invisible Ink)〉というブランドの鉢です。鉢として使いやすいうえ、ひと目で〈インビジブルインク〉だとわかる個性があります。優れた陶芸の技術を持つ、クリエーター気質のブランドで、毎回驚かされるようなものを作ってくれます。作り手本人も塊根植物が好きですし、愛好家たちのツボをいつも刺激してくれます。
- ー「ボタナイズ」でも度々、コラボレーションしていますね。
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横町:そうですね、節目節目でうちのアイコンをモチーフにした鉢を特別に作ってもらっています。熱心なファンが多く、発売時には長蛇の並びが出るほどです。最近だと代官山の「ボタナイズ」1周年記念や定期的にポップアップストアをやらせてもらっている「ユナイテッドアローズ 六本木店」のイベントで別注作をリリースしました。
白金に誕生したボタナイズの新店で、塊根植物に触れる。
- ー前置きが長くなりましたが、この度オープンした「ボタナイズ 白金」は、どのようなきっかけでオープンされたんですか?
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横町:実は計画的にショップをオープンさせようとは考えていなかったんです。たまたまこの白金の物件と出会って、そこが自分の思い描いていた理想を実現できる場所だなと感じたからです。
- ー一階から屋上まで、すべて横町さんが手掛けるお店ですね。
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横町:このビルは日当たり抜群の大きな屋上がある3階建て。1階と2階は「アネアカフェ」にして、3階は「ボタナイズ」と事務所、そして屋上に温室という構成です。はじめてこの物件を見たとき、瞬時にこの構成が浮かびました。
- ー都内でこんな立派な温室は見たことがありません(笑)。
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横町:まぁ、その分かなりの金額を投資しましたよ(笑)。代官山にある「ボタナイズ」にも温室はあるのですが、スペースの都合上、手狭になっていたのでちょうどよかったんです。この白金の店舗を持つことで、しっかりと植物のコンディションが整えられて、代官山の店舗はより販売に特化できる場所にアップグレードできました。
- ー今回のオープニングでは、塊根植物のほかにサボテンを数多く取り揃えていましたね。なにか狙いがあったのですか?
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横町:基本的には塊根植物がメインなのですが、先ほどのグラキリウスも含めて、花形の塊根植物は夏型のものが多いんです。つまり成長期である春から秋まで葉っぱがあって、冬は落葉して休眠してしまいます。葉の付いていないパキポディウムだと慣れている方は問題ありませんが、初心者は少し不安かと。そんな時にちょうどコピアポア属の現地球を仕入れられるチャンスがあったので、今回打ち出してみました。黒王丸や弧竜丸が中心のラインナップで、そこに冬型の塊根植物を差し込んだ感じですね。
- ーコピアポアやアガベの一部も盛り上がっている印象がありますね。
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横町:コピアポアは、チリを原産とするサボテンの1種で、これはパキポディウム以上に成長が遅いですね(笑)。今回の中で、一番大きなものは樹齢200年を超えています。コピアポアでもチリから輸入された現地球と、日本国内で種実生されたものがあって、人気の黒王丸だと前者じゃないとくすんだような表情にならないんです。今回はすべて現地球なので、マニアの方々も喜んで頂けたかと思います。
- ーコピアポアの現地球は珍しですね。価格も相当でしょう?
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横町:今回はオープニングというお祭り的なイベントだったので、頑張って価格は抑えました。正直、本当にギリギリです(苦笑)。ただ、うちでは熱心な愛好家の方はもちろん、植物に興味を持ち始めた人でも楽しめるようなショップにしたいという思いがあります。だからお手頃なユーフォルビアなどもセレクトしています。それまで代官山店はコーデックス9、その他が1といった割合でしたが、いまはコーデックス7、サボテンやその他が3といった割合で展開しようと思っています。
- ー植物を見て、そのあとにゆっくりとお茶ができるというシチュエーションもいいですね。
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横町:これまでは「ボタナイズ」と「アネアカフェ」は別々でしたが、ようやくひとつの建物にまとめることができました。カフェはワンちゃんも大丈夫ですし、テイクアウトメニューも豊富に揃えています。白、黒、グレーの3色で構成しているのもこだわりです。
- ー来店したお客さんを見ていると、実際に「ボタナイズ」で買い物した後に、カフェでゆっくりしていく方が多いですよね。
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横町:購入して頂いた植物を眺めながら、お茶や食事をしてもらえるほど、嬉しいことはないですよね。この店のだ醍醐味でもありますし、オープンしてよかったと心から思います。
- ーボタナイズをはじめとしたオピニオンにより、塊根植物が広く認知されるようになりました。今後、この塊根植物を取り巻く環境はどう変化していくと思いますか。
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横町:ブームという意味では、正直いまが一番のピークではないでしょうか。若干過熱気味ではあるので、きっとこの先多少落ち着いていくとは思います。ですが、極端に衰退していくことはないと僕は考えています。
- ーそれは何故でしょうか?
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横町:このブームのおかげで新しいファンが確実に増えました。そして皆、塊根植物の奥深い魅力にはまっているんですね。自分も含めて、”塊根ホリック”といいますか。塊根植物には、形や物珍しさだけでは語りきれない、不思議な魔力が潜んでいるんです。
- ー確かに塊根植物ファンは、ほかの植物に比べてはまり方が深いですよね。
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横町:本当にその通りなんでです。塊根植物は種類が多様なので、例えばいまはパキポディウムにはまっていても、そのあとアデニュウムやユーフォルビアといった具合に、他のジャンルに移行することもできる。品種によって見た目も育て方も違いますし、そうやって幅を広げながら楽しめるんですよね。それと塊根植物は寿命も長いので、末長く付き合っていけるのも魅力です。
- ーまさに底なしですね(笑)。 それでは最後になりますが、今後の「ボタナイズ」についてお聞かせください。
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横町:お店でお客様を見ていると、塊根植物の初心者のファンが増えたことを本当に実感します。「ボタナイズ 白金」ができたことで、ようやく環境が整ったので、マニアの方はもちろんですが、そういった方にも塊根植物をもっと楽しんでいただけるように努めていきたいですね。それとまだ構想段階ですが、ゆくゆくはコンセプトの違う小さい規模のお店も近くに作りたいなと考えています。例えば、周りの作家さんを集めて、鉢に特化したお店とか、植物周りのツールを集めたお店とか。代官山店や白金店をはじめ、ボタナイズの色んなお店をバスで回遊しながらまわれるようにしていきたいですね。これからもどんどん面白いことを仕掛けていくので期待してて欲しいですね。