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FEATURE|新しい食体験とは?日本料理を更新するレストランKabi。

新しい食体験とは?日本料理を更新するレストランKabi。

The New Classics

新しい食体験とは?日本料理を更新するレストランKabi。

食文化が花開く現代の日本。今もっとも面白いカルチャーである、フードシーンを牽引する店のひとつが、懐かしくも“新しい食の体験”ができる、東京・目黒の「Restaurant Kabi」(以下、Kabi)。“20代のシェフ”“発酵”という話題先行でなく、食通から口コミが広がっているその確固たる理由を探りに、お店に伺いました。

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北欧で気づいた発酵の魅力。

知っている美味しさはほとんどなくて、“知らない美味しさ”がたくさんあった。「Kabi」での食事を終えた感想は、こんな発見だった。

昨年11月、東京・目黒にオープンした「Restaurant Kabi」は当初、“20代のシェフ”“発酵”というキャッチーさで注目を集めたが、現在はちょっと玄人的な美食家たちをも常連にしている。

発酵を軸にしつつも、日本料理そのものを更新するような、ほかのどこにもない“新しい体験”が口コミとなり、2018年上半期、もっとも予約が取れないレストランの一つとなった。

例えば、スペシャリテ(看板料理)の「saba」は、鯖の酢漬けにマンステールチーズや甘めの発酵味噌などを合わせ、葉わさびで巻いたもの。

また、3月のコースのひと品「Vegetable(Greenpeas)」は、もろみ味噌に漬けたホタテ貝柱とアサツキ、ピクルス、ダイコンのピクルスに、白いパウダー状に仕立てたハマグリをかけ、発酵させたグリンピースジュースと、ハマグリの出汁とミントオイルで風味をつけた一皿。

覚えきれないほどのパーツの複雑な味が散らかるかと思いきや、素材ごとにギュッと熟した旨味が重なり、一つの分厚い旨味となって口の中に広がる。

左:シェフの安田翔平さん 右:ソムリエの江本賢太郎さん

「発酵は、もともとある日本の食文化のひとつですし、僕の料理は日本の食材や調味料を多く使って、漬物や変わり寿司を定番として出しているので、自分では“日本料理”だと思っています」
こう話すのは、シェフの安田翔平さん。安田さんは、オープンして世界最速でミシュラン一つ星を獲得した東京・白金台にあるフレンチ「Tirpse(ティルプス)」でスーシェフ(副料理長)を務めた後、単身修行先のデンマークでも一つ星レストラン「Kadeau(カドー)」でシェフを務め、2016年末に帰国。ソムリエの江本賢太郎さんと共同経営で、「Kabi」をオープンした。

「デンマークは、食のレベルが凄く高いのですが、なかでも『Kadeau(カドー)』をはじめ、人気のレストランでは、発酵によって食品を保存すると同時に旨みを高めて美味しくするという調理法がとても盛んでした。それは日本の漬物に対する考え方と同じで、さらに元をたどれば、日本の食文化に影響を受けているお店が多かったんです。でも僕は日本人なのに、ぬか漬けも作ったことがなかった。どうやって作るんだろう? と、彼らから学んで、逆輸入した感覚ですね。例えば、フランス人が日本で修行して、フランスに帰って和食屋さんを開くことがほとんどないように、僕もフレンチ出身とはいえ、日本で自分のお店を出すなら、元来あった日本の食文化や伝統食の魅力を伝えたい、と今のカタチにたどり着きました」

“寝かせて旨みを引き出す”現場は、レストランの奥に。

カラフルな瓶や、渋い色味の瓶が綺麗に並んだ棚には、上段に昆布茶や果物を使った発酵ジュース類。中段から下には、ピンク色のイチゴの瓶や、すぐりの実など、安田さん自らが拾ってきた木の実が泡を立て、発酵中であることを暗示している瓶などが20種類ほど。

安田さんが一つひとつパカッと瓶を開け、状態を確かめていく。熟成された香りが辺りに広がり、古民家の壁はその香りや菌を吸い込んで、呼吸を繰り返しているようだ。

「他のレストランと違うのは、仕込んでからが長いんです。いまは、昨年の秋から冬に仕込んだシイタケやイチゴが、ちょうど発酵にベストなタイミング。冬に仕込んだものを半年後の夏に使ったりと、季節感がないことが特徴でもあります。なので、発酵食材に対で合わせる旬の食材は、できるだけ生で取り入れるように意識しています。一つのコースのなかの塩漬けの枠、燻製の枠、ぬか漬けの枠、果物系の枠などに、パズルのように当てこんでいき、そこへ旬の野菜や果物、魚などをバランスよく組み合わせていくことで、季節感も取り入れています」

「Kabi」で体験する懐かしくも“新しい美味しさ”とは、こうした日本料理の伝統である発酵の状態や香りが軸になり、何を合わせるか、どう調理しようか、創造されるメニューだから、つまりは作る過程がまったく新しいからこそ、これまで体験したことがない未知の美味しい日本料理になっているのだ。

さらに驚くべきは、その日のコースに対して、共同経営者でもあるソムリエ江本さんが合わせるペアリング。江本さんは、料理を味見せずとも、シェフの安田さんからどんな味なのかを聞くだけで、ペアリングの構成が組めると言う。

「特殊なペアリングはしていません。一皿ごとに料理の特徴はありますが、フレンチのようにソースが何層にも重ねられた料理とは異なり、パーツごとの味が口の中で混ざり合う料理なので、合うか合わないかがわかりやすい。例えば草っぽい味わいにたくあんのような香りのある料理だとしたら、そのひとつの世界の中にこの酒のパーツが入っていて違和感がないか? を考えれば、ペアリングしやすいんです。このワイン「Jean Yves Péron La Bottiere 2015」は、Jacquère (ジャケール)という品種の白ワインで、単体で飲んでも発見があるのですが、『saba』の料理と似た香りなので、自然と寄り添っていく。傾向として、たくあんなどが酸化した風味をもった飲みものを、漬物テイストの料理に合わせることが多いです」

「また、スペシャリテの「saba」に合わせるのは、日本酒で、「きもとぶれんど 白隠正宗(はくいんまさむね)」。静岡で文化元年(1804年)創業の酒蔵、高嶋酒造さんの冬季限定酒で、4種類の生酛純米酒をブレンドした、1種では出せない複雑で深みのある味わいです」

さらに、江本さんを語るのに、発酵ジュースを含むノンアルコール9品のペアリングも忘れてならない。

「モクテル(ノンアルコールのカクテル)を作っているので、液体として味を完成させていく作業は、出来上がっているお酒を合わせるアルコールペアリングとは大きく異なります。例えば世界的なレストラン『noma』などのガストロノミーでは、料理と一緒に飲むことで味が変わるドリンクを出したりしますが、ドリンク単体として美味しいものを作っているわけではなかったりもします。ですから僕は、ドリンク自体が美味しいものを完成形として作って、それが料理に寄り添う感じを大事にしています」

最後に、「Kabi」が目指しているカタチを、シェフの安田さんから伺った。

「僕ら作り手と共に、食べ手のレベルも上げていけるレストランを、二人とも目指しています。今は、レストランのレビューサイトや格付けをチェックしてから楽しみにきてくださる方が多いです。もちろん、それはそれでありがたいのですが、例えば、『何と何をどう調理してこれと合わせて…』と丁寧に説明されたから美味しく感じるのではなく、どんな風に作られているか知らずに食べても、美味しいと感じる、その体験自体を楽しんでもらいたいですね。情報で美味しく感じるのではなく、料理と空間を自分の五感で味わってほしい。お客様に、そういったレストランの楽しみかたを知ってもらうことも、今後の僕らの課題の一つですね」

Restaurant Kabi

営業:19:00〜22:00(コースのみ・完全予約制)、21:30〜アラカルト、ランチ土・日のみ11:00〜14:00L.O.
不定休
住所:目黒区目黒4-10-8
電話:03-6451-2413
料金:Tasting Course 9,000yen、Alcohol Pairing 8,000yen、Non-Alcohol Pairing 4,000yen
kabi.tokyo
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