Styling of Kento Nagatsuka from WONK.
楽曲制作の前に立てた戦略。
いま東京を代表するバンドのひとつ、WONK。自らをエクスペリメンタルソウルバンドと名乗り、メンバーそれぞれの嗜好を反映させた高いオリジナリティを携えて、ジャズフェスからロックフェスまでさまざまなジャンルを縦横無尽に渡り歩く。音楽が売れない時代に自覚的な彼らのスタンスはある種ドライでありながら、結成当初からの緻密な計画には並々ならぬ熱い想いが見え隠れする。そんなWONKのヴォーカルであるKento Nagatsukaさんに話を訊いた。
「まず曲作りをする前に、バンドの方向性をぜんぶイチから決めました。J・ディラのビートミュージックを生音で表現するというテーマも、ただ欧米系リスペクトのバンドをやるのではなく“東京出身”で打ち出すことも。写真や販促ポスターなんかも自分たちでデザインしたんです」
ファッションに求めるもの。
そこまで戦略的に考え動いたものの、音楽ファンからの評価を読み切ることはできなかった。ただし、いい意味で、だ。2016年に発表したファーストフルアルバム『Sphere』の大ヒットを「本当に思いがけなかった」と語る。そうして結成から5年が経過するいま、自ら運営するレーベル「エピストロフ(epistroph)」において、彼らは音楽だけに留まらない“カルチャー全般”を網羅せんとしている。アパレル、デザイン、楽曲制作など、音楽をつくることだけにこだわらない新世代バンドは、ファッションにおいても自らを冷静に見つめつつ、作り手としての情熱も垣間見せる。
「ひとを見て、かっこいいな、あの服、と思う事はありますが、自分に似合わないものには手を出しません。個人的に好きなファッションは、メジャーマイナー関係なく、作り手の想いや理念が伝わってくるもの。もちろんデザインで選ぶこともありますが、基本的にはそこを頼りにします。普段はトラディショナルな雰囲気や、ワークな匂いのするものを着ることが多いですね。足元も、スニーカーで軽めに合わせるより、断然、革靴。炭鉱で働いてそうな、男臭いスタイルが好みです(笑)」
歴史あるビルケンシュトックだからこそ。
革靴重視のKentoさんでも、夏場にはサンダルを履く機会も多い。
「トラッドやワークももちろん好きなのですが、夏にプライベートで遊びに行くときなんかには、そういうのを一旦置いて、とことんリラックスできるカジュアルな服装を選びたい。自然と気分が切り替わるから、サンダルを選ぶことも増えてきます」
なかでも〈ビルケンシュトック〉は、ビーチサンダルのような“どカジュアル”なものより、Kentoさんのスタイル、ひいてはWONKが奏でる音楽との共通性が高い。
「すごく歴史が長いですよね。200年以上でしたっけ? 僕らが音楽をやるうえでも、たとえば昔のジャズミュージシャンやクラシックの作曲家の影響を受けることが多い。彼らの想いを考えながら詩を書いたりもします。歴史あるものを身につけることは、それと似てるんじゃないかと思うんです。もちろん〈ビルケンシュトック〉を履くことでドイツの歴史を感じるわけではないですが、それでも歴史や背景のないものを履くのとは、気持ちの面でまるで違う。だからカジュアルなものに合わせても、なんとなく気持ちが引き締まるんでしょうね」
なかでも「チューリッヒ」には、体験してこそわかる魅力が潜む。デザイン、履き心地へのそのこだわりは、Kentoさんも大いに感じ取っているようだ。
「出合いは中学生の頃でした。同じクラスの男の子が愛用していたのを見て、真似して買ったのが最初です。いま改めて履いてみると、やはりスタイルを選ばない“いいとこ取り”なデザインに惹かれますね。履き心地に関しては言わずもがなで、足へのフィット感はやはり抜群だなと思います。そういうところに完成度の高さを感じる」
メンバーそれぞれの出自を活かし、音楽以外の活動も着々と進行中というバンドは、どんな未来を描こうとしているのだろうか。
「結成当初から、やりたいことは山ほどありました。たとえば18SSから始動するアパレルブランドは、ドラムの荒田が主導。そんな風に、誰かのクリエイティブを中心にして他のメンバーがアイデアや意見を持ち寄りながらつくっていくことで、クセも好みも強いメンバーが不思議とぶつかり合わず切磋琢磨できています。そのやり方は、楽曲をつくるときも同じです。そのようにして音楽でつくった価値を他のジャンルにも波及させていくことによって、はじめてカルチャーになると思っているんです」