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ジャン・ジュリアンに聞く、これまでとこれから。

Talking about up until now and from now on.

ジャン・ジュリアンに聞く、これまでとこれから。

シンプルかつポップに、時に風刺的に描くスタイルで、今最も注目を集めるドローイングアーティストのジャン・ジュリアン(Jean Jullien)。彼が現在、日本で初となる個展『同じ海』を原宿ギャラリーターゲットにて開催しています。『New York Times』や『the New Yorker』といった雑誌から、アパレルブランド、ワインメーカー、レコード会社まで、様々なクライアントを持つ彼。本展では、ドローイング作品をはじめ、新たに力を注いでいるというペインティング作品を展示しています。早速、展示のこと、日本のこと、そして彼がこれまで歩んできた道のりとこれからの展望について聞いてきました。

  • Photo_Haruki Matsui
  • Text_Maruro Yamashita
  • Edit_Jun Nakada
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ジャン・ジュリアン(Jean Jullien)

フランス出身、現在ロンドンを拠点に活動するアーティスト。2008年にロンドン芸大のセントラル・セントマーチンズを卒業後、2010年にロイヤル・カレッジ・オブ・アートにて修士号を取得。 イラストレーションを軸に写真、動画またインスタレーションを製作するなど、幅広い分野で活躍中。過去にはロンドンのテートモダンやKemistry Gallery、LAとベルリンにあるHVW8、またシンガポール国立博物館など、世界各国で展示を行なっている。クライア ントは、ニューヨーカー、ウォールストリート・ジャーナル、ナショナルジオグラフィック、UNICEF、ロンドン交通局など多岐に渡る。
www.jeanjullien.com
www.instagram.com/jean_jullien/

人生ってそんなにピースなことだけじゃないから。

まずはじめに、今回の個展「同じ海」のコンセプトについて伺わせてください。

ジャンビーチを描くことから、いつも大きなインスパイアを受けていたんだ。というのも、僕は海辺の町、フランスのナント出身なのと、色んな国のビーチでスケッチをしていて気付いたことがあって、人や景色は異なっても、ビーチっていう要素はどこの国に行っても同じなんだよね。例えば、森だったら国によって木が全然違ったりするよね、だけどビーチは一緒なんだ。元々、色々なことが気になったり、腹を立ててしまうタイプの人間で、これまではそういう自分の感情を作品として昇華して、他の人がクスッと笑えるようなものを数多く描いてきたんだ、一種のセラピーのような感じでね。でも、このビーチの絵は、僕の人生にとってにおける異なる側面を現しているって感じ。少し歳をとって、よりありふれた平穏みたいなものを描きたくなって、それがビーチだったんだ。でも、単にビーチを描くんだとピースフル過ぎちゃうし、人生ってそんなにピースなことだけじゃないから、その場にいる人も一緒に描くことにしたんだよね。

ナントにはいつまで住んでいたんですか? また、どんな街なのでしょうか?

ジャン18歳まで住んでいたよ。とてもカルチャー的にダイナミックな町かな。スケートボードのようなフリーカルチャーが根付いていて、当時は映画を無料で見れるようなストリートシアターがたくさんあった。そこでは子供向けの作品だけじゃなくて、色んな作品を観ることが出来たんだよ。音楽的にはパンクも流行っていたし、90年代のフランスには、ジプシーのロックがとても盛んだった。僕はアートに対してのめり込んでいたけどね。両親はコンサートにもパーティにも、どこにでも連れて行ってくれたんだ。成長する過程で彼らと同じものを共有できたのはとてもよかったと思ってるよ。

では、アートに興味を持ったきっかけを教えてください。

ジャン他に何も出来なかったんだよ(笑)。それに母は建築家でありキュレーターだったから、たくさんの絵画や建築、デザインなどのクラシックなアートを見せてくれた。同時に、兄はマンガやカートゥーンの大ファンだったから僕もたくさんのマンガを読んで育った。そういうカルチャーも僕にとってはとても大事な要素で、ポップカルチャーとクラシックな要素が混ざっていたからこそ、僕にとってアートはとても身近なもので、いつも絵を描いているようになったんだと思う。それからフランスでグラフィックデザインの勉強をするようになったんだけど、そこではテクニカルな技術を中心に学んでいて、ソール・バス(NY出身のグラフィックデザイナー)が手がけたポスターのデザインなどから、実践的なことをたくさん教わった。コマーシャルなアートワークとはいっても、そこにもちゃんとアートに対してのパッションがあるということ知ることができた。

ジャン僕は今でもギャラリーでエキシビションをやったり、本を作ったりするのと同じくらい、ビームスとコラボレーションしてTシャツを作ることが大好きなんだ。コマーシャルには、普段生活しているようなとても現実的な側面があるでしょ? 僕は、文化的なスペースで作品を観てもらうのも良いけど、服やスケートボードにアートを落とし込んで、鑑賞してもらうことも大切なことだと思っているんだ。

フランスでグラフィックデザインを学んでいたというのは、ロンドンで芸大に入る前の話ですか?

ジャンそうだよ。ロンドンに行く前に3年間くらいいたかな。そこでベーシックな部分を教わったから、ロンドンではより楽しみながら過ごすことができたよ。

今回展示されている〈ビームス T〉とのTシャツや〈ファブリック〉とのバッグ、小物類など意外にも、これまでにたくさんの服のデザインを手掛けていますよね。〈ヌー・ヌー〉というのはあなたのブランドなんですか?

ジャン〈ヌー・ヌー〉は2016年からスタートした僕らのブランド。元々同じ大学に通っていた韓国人の友達とやっているんだ。彼が12年間住んだロンドンから韓国に戻ることになって、ブランドをスタートすることになったんだ。服だけではなく、もっとクリエイティブなものを色々作っているよ。玩具やカーペット、来年にはソウルにカフェもオープンさせるんだ。パリにもゆくゆくはオープンさせたいと思っている。〈ヌー・ヌー〉は、何か良いアイデアを思いついた時に色々な形で表現できるプラットフォームのようなものなんだよね。それに、常々僕は、海外の人と一緒に何かものづくりがしたいと思っていて、だから〈ヌー・ヌー〉ではいつも韓国の人たちとものづくりしている。もちろんいつか日本でも何かものづくりがしたいと思っている。メイドインジャパンはとても魅力的だからね。

服のデザインを行う際に心がけていることは何ですか?

ジャン人が着る物だということ。そこにクリエイティビティが刺激されるんだ。〈ヌー・ヌー〉でやっていることは、少しチャレンジングなことだと思っているよ。だって、僕はファッションデザイナーではないからね。グラフィックを服に乗せるのには、普段とは違ったマナーがあるんだ。だから、たくさんのTシャツ用のグラフィックを作ったけど、飽きることはないね。

日本人は物語やファンタジーに対してとてもオープンマインドだと思う。

若い頃に影響を受けたカルチャーやアーティストについて教えてください。

ジャン聖闘士星矢やドラゴンボール、シティハンターといった日本の漫画作品の数々。フランスのバンドシネと呼ばれる漫画作品、中でもメビウスは僕のフェイバリットアーティストの一人だね。それにアメリカのスパイダーマンやX-メンとか。英語はアメコミで勉強したんだ(笑)。辞書を引きながら毎晩読んでた。大人になってグラフィックデザインを学び始めてからは、フランスのポスターアーティストであるサヴィニャック、風刺的な作品も描く絵本作家のトミー・ウンゲラー、偉大なイラストレーターであり漫画家のジャンジャック・サンペなどから大きなインスピレーションを得ているよ。

日本の文化からも影響を受けているんですね。

ジャンそうだね。日本人の、物語やファンタジーに対してとてもオープンマインドで寛容な態度が大好きなんだ。企業の社長でも、トレンディな人でも、普通のお父さんでも、みんな漫画を読むだろ? でも フランスでは、漫画は文化とは完全に分けて考えられるものなんだ。漫画がビジネス的に優れたものであってもね。だから、日本のそういうところが好きなんだ。あと、日本のミニマリズム的な美学や、どんな人でも礼儀正しいところ、一定の教養があるところ、マナーや教育の基礎ができている所なんかもとても素晴らしいと思う。それに、異なる文化を取り入れて日本的にリミックスするのがとても上手だと思う。想像力というのは、決してオタクや子供の為だけのものじゃないからね。

今の日本文化や、日本のアーティストで興味があるものはなんですか?

ジャンミサキ・カワイや長場雄が好き。長場雄のオリジナルのアートワークも買ったんだよ。もちろん、そういうグラフィックアーティストだけでなく、日本のファッションも大好きだよ。〈ビズビム〉、〈コム・デ・ギャルソン〉とか。現代の文化的な側面のひとつだね。

2016年のJuxtapoz(編注:アメリカで発行されているストリート / コンテンポラリー アートの専門誌)で、スケートボードブランドの〈チョコレート〉などのデザインを手掛けているエヴァン・へコックスから大きく影響を受けたと語っていましたが、スケートボードカルチャーは好きだったんですか?

ジャンエヴァン・へコックスからはたくさんの影響を受けたね。スケートボードカルチャーも大好きで、自分自身、10年以上やっていたし。エヴァン・へコックスは素晴らしいアーティストで、とても美しいグラフィックを手掛けるのに、スケートボードに描かれたそのグラフィックは、滑っているうちに傷だらけになっちゃうんだろ? それって凄いことだと思うんだよね。例えば、こういうギャラリーに飾られている作品を傷付けたりしたら大変なことだからね。アーティストとしても寛大だよね。もちろんそこにはお金も絡んでくるけど、アートっていうのはベストなコンディションだけで鑑賞される訳ではないし、ペインティングは買えなくても、スケートボードのデッキなら買えるかもしれない。僕の友人でも、デッキを壁に飾っている人はたくさんいるよ。

同じ記事の中で、ドローイングで自分自身の考えを表現し、それをSNSにアップし見た人たちとコミュニケーションを取ることに興味があるとも書かれていました。それは今も変わりませんか? 変わったとしたら、それは何故だと思いますか?

ジャン少し状況は変わってきているかな。今は少しSNSを通じて意見を交わすことが少し難しくなってきていると思うから、自分の意見を表現することは減っているね。僕の描くトピックはSNSで反響を生みやすいから、フォロワーも多くなっているしネガティブなコメントなんかも生まれやすいんだ。だから、今は作品の一部や素材をアップして、観る人に何かを自分なりに感じ取ってもらえたら良いなと思っている。そういう作品を積極的に載せるようにしているんだ。

ドローイングだけでなく、スケートボードや服、壺など、様々なフォーマットにアートワークを落とし込んでいて、それぞれにきちんとスタイルが現れていると思います。これはどのような切っ掛けで手がけることになったんですか?

ジャン大学で、写真や彫刻とか、自分の専門分野ではない授業があって、それが好きだったのが大きいかもしれない。自分の中で何か良いアイデアが生まれた時に、特定の手法だけでアウトプットするのではなく、アイデアによってベストなやり方で表現するのが良いんじゃないかと思って、色んな手法にトライするようになったね。

今、現在最も興味のあることは何ですか?

ジャンペインティングだね。エドゥアール・ヴュイヤールという19世紀から20世紀にかけて活躍した画家がいるんだけど、それが本当に素晴らしい。いま見ても全然古臭くなくて、コンテンポラリーなアートのように感じるんだ。そういう、クラシックだけどコンテンポラリーな魅力を持っている作家に興味があるんだよね。

製作へのモチベーションはどこに?

ジャン見てくれる人たちからの良いリアクションかな。今はSNSが色んなことを平坦にしちゃったから、Likeの数だけじゃ読み取るのは難しいけど、コメントを読むと自分の作品への感想をしっかり知ることが出来るし、それはとてもモチベーションになるんだ。あとは、こうやって色んなフォーマットのキャンバスに対してクリエイティビティを試行錯誤することは、本当に面白いし、製作意欲を刺激されるよ。

普段はどのように毎日を過ごしているんですか?

ジャンイーストロンドンのハックニーの通りに、スタジオを家を貸りているんだ。2歳になる子供がいるんだけど、朝起きたら10時にスタジオへ行くまでは家族と過ごしているかな。いつもたくさんのコマーシャルワークを手がけているから、NYにいるアシスタントと話したり、海外のエージェンシーとメールのやり取りをしたりと忙しいけど、自分の自由なスケッチの時間は必ずキープするようにしている。他人に見せないものでもね。本当に練習というか、感覚をキープするためにね。

年間でどれくらい旅をしているんですか?

ジャン毎月と言っていいくらいたくさん旅してるね。子供がいるから出来るだけ家に居たい。だから、来年はもっと減らそうと思っているんだ。先週はソウルにいて、今は東京、来週はサンフランシスコ、家に2週間戻って次は香港、クロアチア、また2週間戻って次はサンフランシスコっていう具合だからね(笑)。

今後、アーティストとしてどのようなキャリアを歩んで行きたいですか?

ジャン将来的には南フランスのビーチの近くにスタジオを設けたいと思っている。そこでもコマーシャルな仕事はやり続けたいね。35歳になって、こうやって初めて日本で個展が出来たのもそうだけど、異なる国で何か新しいことをやるのは、色々と刺激を受けるからね。だから、コマーシャルワークをある程度やりながら、自分の仕事に集中できるような環境を作っていきたいと思っているよ。

Jean Jullien「同じ海」

会期:開催中〜5月26日(土)
会場:Gallery Target
住所:東京都渋谷区神宮前2-32-10
時間:12:00〜19:00(日・祝休廊)
www.jeanjullien.com

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#ペインティング
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