訪日外国人、いわゆるインバウンドの話題が盛んだ。有名観光地などを歩くと外国語しか聞こえないというのはもはやデフォルト。もちろん都内もそうである。
先日、生まれ育った岡山・倉敷で所用を終え、1時間あまり潰す時間ができたので当地の観光地として名高い美観地区へ行ってみた。近年大きく様変わりしたと聞いていたが、こんなにお店ができているとは。シャッター通りだった商店街も若干復活しそうな気配だし、これぞ地方再生のモデルなんて言葉が頭をよぎった。倉敷はデニム生産で世界に知られるようになったので、ここでしか買えない(たぶん)デニムアイテムを扱ったお店がいろいろあってそれはそれで面白い。これは確かに観光客にはウケそうだ。
我が物顔で歩くインバウンダーを想像していたら、さにあらず。まだここはそこまでは荒らされていないサンクチュアリであった。ローカルに言わせると外国人はものすごく増えたというが、占領されているとはいえない。行くのであればいまのうち。
フイナムのブログにも何度か書いたのだが、日本の物価はここ30年くらい一部を除きあまり上がっていない。むしろ当時より安くなったものも少なくない。30年前のワンルームマンションは6万円くらい(私鉄沿線で徒歩10分以内くらい)、大卒初任給はおよそ20万円、オールデンの革靴は3万5000円、リーバイスは6800円くらい。家電製品はコモディティ化されると売価が下がるので参考にはならないだろうが、ビデオデッキやカメラなんて20万円以上だったし、テレビも1インチ1万円切れば安いなんて話題になったくらいだ。
ぼくらの親時代の初任給がおよそ5000円だったとか聞いたことがあるが、30年前を起点にその前30年と今日ではインフレ率がまったく違う(高度成長などの要因はちょっと目をつぶって)。
一方、諸外国に目を向けてみるとこれとはまったく違う。先進国どの国を見てみても、程度の差はあるけれど、モノの値段は健全に上がってきている。先にオールデンを例に出したが、いま日本では倍以上のプライスが付いている。これはもちろん向こうの価格上昇に伴う物価スライドだろう。
NYに住んでいる息子がドーバーストリートマーケットで働いているのだけど、その給与額を聞いて驚いた。日本の大卒初任給の倍以上。物価の高い街だからとねえ、といって諦めていい話ではない。先にも中国の企業が初任給40万円以上ということで話題になったが、これじゃあ日本企業太刀打ちできない。じゃあ、お前の会社はどうなんだとスタッフに詰め寄られそうですが。すみません。
友人・知人がNYでブランドをやっているが、日本でモノを売るのにこの内外物価差は大変だろうと想像する。NYでモノづくりすると人件費が日本の比ではない。さらにフレートや関税などでさらにコストアップ。その跳ね返りが上代に反映される。
いまぼくのワードローブのほとんどがそんなNY製の製品。シャツは特にそう。〈ポストオーバーオールズ〉のシャツ以上のお気に入りには近年出会えてない。個人的に好きなんで無理してでも買うんだが、ユニクロでいいなんて人には絶対に届かないアイテム。
もうこっちもインバウンドに頼るしかないのか。