右:加賀美健
1974年生まれ。東京都出身。ドローイングや彫刻などの作品をリリースし、国内外問わず多数の美術展に出展。アパレルブランドとのコラボレートも積極的に行ない、自身が運営する代官山の「ストレンジストア」では、自作のTシャツなどグッズ類を展開している。
Instagram:@kenkagami
kenkagamiart.blogspot.jp
中:平山昌尚
1976生まれ。兵庫県出身。絵画、ドローイング、パフォーマンスなど、東京を拠点に活動を行なう。自身の作品を展示した個展のほかに、グループ展などにも参加。Zineの出版なども行なっている。
Instagram:@masanaohirayama
www.himaa.cc
左:中村穣二
1974年生まれ。画家としての活動をベースにしながらも、様々なアーティストとのプロジェクトやグループ展も企画。また、ブックレーベル「K.M.L. BOOK」の運営も行う。
Instagram:@joji_nakamura
間がいい作家はユニークな作品をつくる。
加賀美前回は線画についてだったよね。今回はテーマが“間”だから、すごい脱線すると思うよ(笑)。感覚的な話だから。
今回のテーマである“間”というのは、どういうことなんですか?
加賀美アートで言えば作品の余白であったり、それを展示するスペースも“間”だよね。あとは会話における間の取り方であったりテンポ、それに人間関係における距離感もそうだし。生きていく上でもそうなんだけど、とくにぼくたちのようなアーティストは間がすごく大事なんじゃないかと思って。
加賀美ドローイングをするときなんかはすごく間を意識するようにしていて。
加賀美そう。ぼくの場合はあまり時間をかけないようにしているんだけど、穣二くんの場合もそんな感じがするな。ヒマくんが仕事なのに新作を持っていかないのも、ヒマくん特有の間だと思うし(笑)。
加賀美要するにそれぞれのアーティストに独自の間があるってこと。それで、いい作品はなんだか間がいいんだよね。
加賀美そうそう! 「この作品おもしろい!」ってなると、だいたい間がいい。作者もきっといい間を持ってそうだなって感じるし。
間のいい人っていうのは、自信も持ってそうですよね。逆に自信がない人はモジモジしてて間が悪そうなイメージです。
加賀美そうかもしれない。例えばぼくが若い子の作品を見て「おもしろい! 今度展示してみない?」ってなったときに、自信がある子ならトントン拍子で話が進むけど、自信がない子はグズグズしちゃうもんね。そしたら「間が悪いなぁ」って感じると思うし。
加賀美ヒマくん、いま可愛い女の子をイメージしながらそう言ったでしょう?
加賀美作品のインスタレーションも実はすごく「間」が大事で、空間の使い方次第で作品の良し悪しに影響が出てくるよね。
平山限られたスペースにいくつ作品を展示するかでも、間の使い方が変わってきますよね。
展示を行う場合、会場に合わせて作品をつくるんですか? それとも、あらかじめ完成している作品を持っていってバランスを取るのでしょうか?
加賀美基本的には後者になると思うんだけど、展示が決まったら、会場の下見は必ずするよ。海外での展示の場合は図面見たり、スペースの写真を見ながら考えたりします。基本的にはそんな感じかな。
平山展示に関しては、オーソドックスなことをやるのがぼくは一番かっこいいなと思いますね。例えば、壁があってそこにひとつだけ作品を飾るとか。
加賀美それがいちばんシンプルで難易度が高いよね。みんながやってることだし、それをどう他と違うように見せるかの勝負だから。
平山最終的には作品の強度の問題になってきますからね。
加賀美穣二くんは作品つくるときどうしてるの? すごくアブストラクトな作風だから、完成のタイミングを掴むのが難しそうだよね。
中村それこそ間が大事になってくるかもしれない。作品をつくりながら「あ、来た!」っていうのが降りてくるんだよね。ぼくはそこで終わらせてるよ。
中村サイズがあるから、大きければ大きいほど時間はかかるけど、だいたい20~30分くらいですね。
加賀美誰かが横にいて、「はい、そこで終わり!」って言ってくれればいいけど、そのタイミングを自分で探るのは難しいよね。
中村そうそう、だから間が大事。ぼくは全体を見ながら、ちょっと間が抜けているくらいの作品がいいなぁと思ってる。
加賀美作品を見て、それが上手すぎると笑っちゃうときあるもんね。そうゆう作品よりは、どこか間抜けでずっこけるような作品がおもしろい。
中村作家の癖が見えるというか、「ん? なんだこれ?」っていうようなやつがいいよね。そういう意味では自分自身も間の取り方を意識しているのかもしれない。距離を詰めすぎてもよくないし、逆に抜けすぎているのもよくないから。
ひとつの作品に対して20~30分ほど時間がかかると仰ってましたが、1日に何枚も描けるものですか?
加賀美描いててすぐにボツにしちゃうやつとかも中にはあるし。ペンが線からはみ出たらすぐに捨てちゃう。子供のときからそうなんだよね。ガンダムのプラモデルとか、つくるのミスったらすぐに捨ててたから(笑)。自分のことせっかちだなって思うもん。だから作品をつくるのも早いよ。
そういう切り替えがすぐできるのが加賀美さんの間の取り方なのかもですね。
加賀美そうかもしれないね。じっくりやるっていうのが苦手なのかも。
加賀美そうそう、描きたい! って思ったらすぐ描いちゃう。
平山描いてるときに違う意味でムラムラすることもありますよね。
加賀美ヒマくん、何言ってるの(笑)? 断言するけど、ぼくと穣二くんはそんなこと絶対ないから!
間の良さを意識すると間が悪くなる。
先ほど人間関係においても“間”が大事だと仰っていましたが、それはどういうことなんですか?
加賀美間の良さよりも、悪さの例を挙げたほうがわかりやすいかもしれない。例えば、外を歩いているときに限って電話をかけてくる人がいたり、お店が休みの日に限って来る人とかね。
平山ぼくもこの前トンカツを食べに行ったときに間の悪さを感じましたよ。しかも二日連続で。食事の前にビールを飲もうと思ってオーダーしたんですけど、全然こなくて。トンカツが運ばれてきたタイミングで「ビールも頼んだんですけど」って言ったら、どうやら忘れていたみたいなんです。次の日も同じお店でビールとトンカツを頼んだんですけど、また同じようにビールを忘れられて、間が悪いなって。
加賀美それ、実はわざとなのかもよ? もしくはヒマくんのこと未成年だって思ってたんじゃない(笑)?
平山それはさすがにないでしょ(笑)! それ以降、そのお店に行きづらくなっちゃいました。味はおいしかったのに…。
そういった悪い例をふまえて、意識的に間をよくしようという意識はあるんですか?
加賀美それはしてないかな。というのは、間というのは自然にできるものだと思うから。それがいいか悪いかっていうのは結果でしかないからね。
中村そういうのは相性なのかもしれないよね。自分がいいなって思うのは間の波長が合うからなのかも。結局、自分が間が悪いなって思っても、他の人からすれば間がいいっていうこともありえるし。その関係性に正解はないわけだから。
中村間のよさを意識するよりも、間の悪さについて分かっていれば、そっちに流れていってる自分を制御することができるし、むしろ間のよさを意識すると、どんどん悪い方向にいっちゃうような気がするなぁ。
加賀美間が悪くなってるなぁって気づくことはあるよね。相手が喋ろうとしたときに喋っちゃうとか。あとは娘と一緒にいるときにアイデアが浮かんで、それを形にしようとすると、娘に怒られたりするよ(笑)。それで嫁にも「なにやってんの!」って言われたり。
技術よりも個性を大事にしたい。
加賀美さんは、中村さんと平山さんの“間”をどう考えていますか?
加賀美ふたりとも作風が全然違うんだけど、共通しているのは作品がスッキリしているっていうことかな。なんとなく間の取り方が似てるような気がするんだよね。
平山じっくり作品と向き合うっていうよりも、チャチャッと描いちゃうというスタイルは似てるかもですね。
加賀美ぼくらは作品との間の取り方が軽やかなんだよね。「アートとは」みたいな考え方をせずに、とにかく描きたいから描く! みたいな。アートを意識しちゃうと、「こうすればよかったな」とかあとで後悔したりすると思うんだけど、ぼくらは後腐れがない。
中村なにも考えずにやってますよっていうのを装ってる人とかたまにいるよね。実は結構考えて作品つくってるのに。
中村そういうのって自然じゃないなぁって思う。そういう意味では、間の取り方というのは結構わかりやすいことなのかもしれないよね。
加賀美ぼくらはそれぞれ作風が違うし、当然のように制作方法も異なるんだけど、見られ方は一緒なのかもね。頭でっかちじゃないし、わかりやすい。アートを意識しすぎると、作品そのものよりも、中身がどうこうっていうのを見せたがっちゃうんだよね。
作品が生まれた背景であったり、ストーリー的な要素ということですね。
加賀美そうだね。アートって自由な発想が大事だから、あまりガチガチに考えすぎるといいアイデアが生まれてこないと思う。ぼくたちはまったく何も考えてないわけじゃないけど、フレキシブルになろうとは思ってるよね。
中村想像力がある人は間の取り方がいいのかもしれない。相手との距離だったりとか、自分の作品やその後の展示についてもしっかりとイメージできるから。でも、なにかに縛られて、意識がそっちに寄っちゃうと一気にダメになっちゃうけど。
加賀美考えすぎはやっぱりよくないね。とある海外の有名な美大に行ってた子と話す機会があったんだけど、そこには意識が高い生徒ばかり集まってるから、気楽なムードではなかったんだって。自分はそういう環境にいると、いいものは生まれないと思ったから、実家に戻って自分のペースでやってたら、やっぱり自然といい作品ができたって話してたよ。
人それぞれ合う環境が違うということですね。ちなみにお三方は美大出身ですか?
平山ぼくは美大はでてないですね、デザイン学科出身ではありますが。
加賀美アカデミックなアートとは無縁な3人だね(笑)。“上手な絵”と“個性”というのはまた別次元の話で、どちらかといえばぼくたちは個性を大事にしている一派かな。
技術ではなくて、あくまでオリジナリティーを尊重していると。
中村例えば医者なんかは技術が必要だよね。それは患者と直接関わるからだと思うんだけど、アーティストっていうのは作品を通してお客さんと接するから、ある意味では無責任な職業でもある。だから世間との間の取り方は独特だよね。
中村そこで世間がチヤホヤしてくれる場を自分でつくるのか、それとは別の場所へ切り込んでいくのか。アーティストのなかでも間の取り方は人それぞれあるのかも。
やっぱりこのメンバーは間が合う(笑)。
では、そろそろ“間”について話をまとめていきたいと思います。
加賀美要するに間をよくしようと意識するとダメだってことだね(笑)。結局、それは生まれ持ったものだから、それを個性と捉えることが大事なのかなと。だって、1日5回腕立て伏せすれば間が良くなるなら、みんなやるもんね。
中村あとは間にも相性があるってこと。こっちが悪いと思ってても、一方では悪いとは限らない。合う合わないがあるよね。
加賀美あとはバックボーン。絵が上手いだけっていうよりも、アートだけじゃなくてお笑いとか、映画とか、いろんなことに影響を受けてきた背景がその人に作品に反映されると思う。だから、ただ自分の個性を大事にするだけじゃなく、インプットを重ねて、何が好きで何が嫌いかを知ることもいい間を持つことに繋がる気がするなぁ。
加賀美絵が上手なことがアートじゃないからね。野球選手は技術を学ばないといけないけど、アートはそういうものじゃないというのがぼくらの考えだから。だからこそ、ぼくたちは仲がいいんだと思う。あと、年が近いから(笑)。
平山やっぱりこのメンバーは間が合うから、いちばん安心しますね(笑)。