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FEATURE|アウトサイドのクラフツマン。 第一回:家具職人「WEND」櫻井智和

アウトサイドのクラフツマン。 第一回:家具職人「WEND」櫻井智和

アウトサイドのクラフツマン。 第一回:家具職人「WEND」櫻井智和

都心や駅前といった商業エリアとは無縁の地で制作活動をする現代のクラフツマン(職人)を訪ね歩く企画、「アウトサイドのクラフツマン。」を始動させます。アウトサイド、つまり郊外や僻地でものづくりをしているからには、ひとかたならぬこだわりがあるはず。彼らは仕事、趣味、暮らしをどんなバランスで営んでいるのか。そこにはフイナムのテーゼである“ヒップ”ななにかが潜んでいるはずです。

  • Photo_Yusuke Abe
  • Text_Gyota Tanaka
  • Edit_Ryo Komuta
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第一回・家具職人『WEND』櫻井智和

山と海の狭間にあるSOHO。自分で作る家具に囲まれたリアルライフの家具職人。

東京から車で90分ほどの場所に位置する神奈川県の二宮。南は海沿いに西湘バイパスが、北は小田原厚木道路が東西に走る。二宮インターの向こうには山が見え、海と山で勾配のある自然に挟まれたどこかのどかな土地である。家具ブランド〈ウェンド(WEND)〉のアトリエがある辺りは商業施設もほとんどなく、住宅地に囲まれておりのんびりした雰囲気だ。

平屋で70坪ある建物はスーパーが撤退した後は運送業者が使用していたという。櫻井さんは一年前にここをアトリエ兼自宅として借り、家具ブランド〈ウェンド〉を始動した。

スーパーマーケット跡地だというアトリエには看板もなく、その外観からは家具工房だとはまったくわからない。「はるばる東京から訪ねていただき、ありがとうございます」。笑顔で出迎えてくれた〈ウェンド〉の櫻井智和さんに、さっそくなかを案内してもらった。

まずはこの場所について教えてください。

櫻井ここは〈ウェンド〉のアトリエ兼、自宅になります。敷地面積は200坪、建物は70坪あります。工房も40坪ほどのスペースがあり、家具職人として一人で作業するには十分な広さですね。主に個人やコントラクトの注文家具(注:コントラクト(contract)とは契約の意。つまり契約によって大量に作られる特別な注文家具のこと)を作っています。もっとオリジナルの家具のバリエーションを広げていきたいんですが、まだまだこれからですね。ここは自分でデザインして作る、実験室のような作業場なんです」

約1年前にここに引っ越してきたそうですが、もう慣れましたか?

櫻井朝から21時まで黙々と作業し続けているので、実はまだ地元の方達とはあまり繋がりがないんです。外からは見えないし、何をやってるんだかわからないと思います(笑)。ですが、少しづつ広がりも生まれてきていて、近所のパン屋さんにはとてもお世話になっています。

家具職人として、ここ二宮にアトリエを構えるまでのご経緯を教えていただけますか?

櫻井岡山で育ち、地元の家具訓練校で技術を学び、就職を機に大阪で7年半家具メーカーで働きました。いつかは自分でやりたくて、どうせなら東京でチャレンジしてみようと一大決心をし、2017年にあてもなくクルマ一つで東京まで来ました。でも、いざ東京で探してみると家賃が高くて。。これは無理だと、矛先を変えて、八王子から海沿いを車中泊で渡り歩き、辿り着いたのが二宮でした。以前神戸に住んでいた頃に、海と山に囲まれたのどかな土地で、なおかつ作業場の横で暮らしたいなと思っていたんですが、この物件を見たときにここだ!と思ったんです。

居住スペースの家具は全て〈ウェンド〉。実際に使いながら、日々検証している。これらの家具は、今後商品化されていく予定だが、まだ全部がHPに載っているわけではないため、この空間をショールームとしても開放している。

居住スペースも全てご自身で作ったそうですね。

櫻井建物を見たときに絶対に良くなると思っていました。工房と住まいが一緒なので、時間のロスを省けるんです。起きたらすぐ仕事ができるし。いまは仕事のために生きているので、最近はまったく休みを取っていません。こんなにも仕事中心の生活は人生で初めてですが、理想の空間のなかで過ごしているためか、モチベーションも衰えませんし、毎日楽しく暮らしています。とにかく一年中仕事のことばかり考えていて、頭から離れられないんです。

都心から離れた二宮で仕事をしてみていかがですか?

櫻井高速のインターが近いのはありがたいですね。朝は都心まで車で2~3時間かかりますが、道路が空いていれば1時間で行けます。都心への上りは休日が空いているので狙い目です。それに海、菜の花が綺麗な公園、山も近いし、二宮はとってもいい場所ですよ。

一人で作って、一人でSNSも活用しているんですよね。

櫻井今はインスタグラムを見た方からオーダーが入る時代なので、日々自分で撮影してアップしています。インスタグラムをやっていなかったら、今頃死んでいますね(笑)。独立するときにインスタグラムには力を入れようと思っていたので、カメラも買い直しました。最近ようやく自分でHPを作ったんですが、まだ情報も不十分ですし、もっと充実させなきゃですね。

とにかく美しい〈ウェンド〉の家具ですが、特徴を教えていただけますか?

櫻井師匠が職歴50年のベテラン椅子職人なので、椅子にはとくにこだわりが強いです。最初から仕上げまで一貫してとにかく丁寧に作っています。主な材はナラやホワイトオークで、細く薄い家具で輪郭を形成して、その上で立体感を生み出すようにしています。あと、木材にラタン(籐)などの異素材を組み合わせるのが好きです。

櫻井見た目のデザインだけではなく、仕上がったときの手触りに違いを感じてもらいたいです。一本一本柔らかい目を出すため丁寧に時間をかけて磨いています。この“目を通す”工程が違いを生むんです。あとは、木そのものの味(傷)を残すのも好きです。ただツルっとしているだけなのはあまりピンときません。

完成した瞬間から温もりを感じるような家具ですよね。

櫻井ありがとうございます。家具は裏を見ればわかるんです。見えない箇所にまで手が行き届いているかどうか。〈ウェンド〉の家具はオーソドックスな作りですが、そういうところには一切手を抜いていません。決して安いものではありませんが、家具のことを少しでも知っている人であれば、理解していただける値段だと思っています。一生使えるものを作っているつもりなので。

〈ウェンド〉の椅子。後ろに勾配をつけた座面は、座ったときに適度な深さがあり身体とのホールド感を生んでいる。

自信作だという椅子はフォルムも美しく、ただならぬ情熱が感じられます。

櫻井椅子は後ろ姿が魅力なんです。人が座っている姿も美しいですよね。直線的ではない、曲線のフォルムが特徴です。実は、椅子は一脚作るのに丸々1週間かかり効率が悪いんですが、今は椅子を作りたい気分なんです。

〈ウェンド〉の家具は、材はナラとホワイトオークですが、どこか仕上げの特徴も違いますよね?

櫻井材に関しては、木目がほどよくて力強いナラ材が好きです。そこにウレタンを使って塗装をしています。経年劣化を味わえるオイルフィニッシュ(塗装)は、木に呼吸をさせるので良いと言われていますが、私の考えは少し違います。木は呼吸すればするほど縮みやゆがみが出ます。ウレタン塗装でも十分に経年変化はしますし、水や湿気に強くなるという利点もあります。ウレタンは毛穴の中(木目)に染み込ませるので、いわゆるウレタン塗装に見えない仕上がりになります。そういった理由から私はウレタン塗装をお勧めしています。

工場には大量の余材がありますね。これらは廃棄するんですか?

櫻井自然のものを使っているので廃棄するのは勿体ないなって。消臭力がある木屑は牛舎へ持って行きます。こっちへ移住してきたとき、まず最初に農協で酪農家を教えてもらって訪ねていったんです。そしたら酪農家さんに「これ、いくらですか?」って言われて。勿論ゴミだから無料でお譲りしています。廃棄するものは殆どないですね。

全部自分で作りたい。自信を持っていつまでも作り手でいたい。

お話を聞いていると、とにかくストイックにものづくりに勤しんでいる印象です。

櫻井自分が作りたいものを作りたい、その気持ちが強かったからこの仕事を始めました。多少辛いときもありますが、自分のライフスタイルを大事にするというのが一番大切ですね。現場を離れて経営者側に回るよりは、自分で一から作りたいので一人でやっています。体力仕事だからいつまでできるか不安はありますが、まだ弟子を取る予定はありません。

家具職人としての未来をどのように考えていますか?

櫻井いわゆる著名な家具デザイナーが作る家具は本当に素晴らしいと思いますが、実用的な家具なら自分の方がいいデザインの家具ができると思っています。ものづくりには自信を持っています。いろいろなお店でたくさんの什器を触ってみてください。家具の価値を見定めるには、触るポイントが重要です。

そのひとつが裏側なんですね。

櫻井はい。手を抜くことはなんぼでもできますが、決してそういうことはしません。この姿勢でやり続けていれば、いずれ結果は出るだろうと思いますし、とにかく誰にも負けないようなものを作っていきたいと思っています。

最後に、都心から離れた場所で仕事と生活を両立したい人たちへメッセージをお願いします。

櫻井移住には勇気がいるとは思いますが、あのときやっていれば、と後悔するよりまずやってみましょう。やるって決めたら楽しいですよ。強い気持ちでいることが大事なんじゃないでしょうか。自分にもある程度のビジョンや計画はありますが、計画通りに進むことなんかないですし、それが自営業というものかなと。誰にも先のことなんてわからないわけですし、モチベーション保つのも自分次第です。なんとかなりますよ(笑)。

WEND

住所:神奈川県中郡二宮町中里2-20-17
電話:0463-45-0431
www.wend-furniture.com
Instagram:@wend_furniture

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