裏原の時代って、意識的にモノやコトを作っている人ってほとんどいなかったんです。
柴田 一年前に神山さんから「ちんさん(内藤さんのあだ名)と何か面白いことやるから手伝ってよ!」と言われて、今日に至ります。まさか、紗倉まなちゃんを交えてトークショーをやるとは思わなかったです(笑)。
柴田 まなちゃんは「ちんかみ展」を見るのは、今日が初めてということですね。実際にモデルとして出演していますが、ファーストインプレッションはどう感じましたか?
紗倉 開口一番に「おしゃれ!」というワードが出ましたね。わたし以外にも複数のセクシー女優の方々がモデルとして出ていますが、どの作品も素敵だなと思いました。色合いもすごく可愛いですよね。それとは対照的に、私たちの後ろに展示されている作品は顔が塗りつぶされているけれど、おっぱいや下の毛は丸見えで(笑)。あの身体は誰なのかなっていう分析をしていました。
柴田 「ちんかみ展」の話の前に、昔話を聞いていきましょうか。まなちゃんは1994年生まれですが、当時ちんさんと神山さんは何をしていましたか?
神山 その頃はまだ10代だったかな。よく原宿界隈をうろちょろしていましたよ。スケートボードに乗りながら、シルクスクリーンでTシャツにプリントしたものを手売りしていました。
柴田 なるほど、裏原時代からストリートに精通していたんですね。
内藤 ぼくはカメラマンとしての修行を一通り終えたぐらいだったかな。遊ぶときは原宿とか渋谷が多かったです。
神山 共通の遊び仲間や先輩がいて、そこから知り合いましたね。登戸駅の高架下でやったトランスのシークレットパーティに遊びに行ったときに、友達にちん君を紹介されて。
神山 裏原の時代って、意識的にモノやコトを作っている人ってほとんどいなかったんです。遊びの延長であの空気感を作り上げていた。はみ出してる人たちの集まりだったから(笑)。いい意味でいい加減というかさ。それで、俺たちも意気投合したんだよね。
柴田 ぼくはその時、ファッション雑誌を読んでいる普通の読者でした。いまから大体20年前ぐらいですかね。当時からちんさんはカメラマンとして、NIGOさんや藤原ヒロシさん、〈アンダーカバー〉の高橋盾さんの写真とかを撮っていて。神山さんも自分のブランド〈フェイマス〉をやられていましたよね。
神山 そういった時代だったからこそ、好きなことをとことんやろうと思ったんだよね。知り合って間もなくして、ちんくんにカタログの撮影をするためにヨーロッパへ行こうって誘いました(笑)。
神山 いまとなっては伝説的なカタログだよね。会社から経費の使いすぎだって注意された(笑)。オランダ、ベルギー、イギリスに行って撮影をするはずだったんだけど、実際はほとんどお酒を飲んで、終了しました(笑)。結局、帰国して東京のスタジオで外国人のモデルを使って、撮影をしました。それがちんくんと俺の代表作(笑)。
内藤 カタログの出来自体はすごくよかったよね(笑)。
神山 そうそう! 周囲にもすごくよかったって言ってもらえた。
神山 会場に持って来ればよかったね(笑)。1998年秋冬のコレクションでした。
ぼくらの周りにいる女の子たちはもっとおしゃれで媚びていなかったんだよね。
柴田 その頃に『smart』で「ちんかめ」が連載スタートしましたよね。始めたきっかけって何だったんですか?
内藤 当時の男性向けのグラビアは、男の妄想をもとに設定されていたんだけど、全然違うなっていう想いがあって。実際、ぼくらの周りにいる女の子たちはもっとおしゃれで媚びていなかったんだよね。そういった観点から、カジュアルなヌードとして「ちんかめ」をスタートさせました。伊賀君(スタイリストの伊賀大介さん)とかがスタイリングをしていて、すごく先鋭的だったと思う。“おしゃれなヌード”っていうコンセプトも面白かったかなと。
柴田 『smart』からちんさんに企画の依頼があったんですか?
内藤 逆ですね。ぼくから『smart』編集部に女の子が出演するピンナップっぽいグラビアをやりたいという旨を伝えて、企画がスタートしました。
神山 そういえば「ちんかみ展」のオープニングレセプションに、『smart』の初代編集長来てたよね。超久々に会ったなあ。
柴田 去年で連載をスタートしてから、20年が経ちました。
紗倉 「ちんかめ」がスタートした当時は、おしゃれなヌードは他になかったんですか?
神山 おしゃれとエロっていうのが、それぞれカテゴライズされていたから。「ちんかめ」のような企画は他になかったです。
内藤 ぼくは昔からの変わり者なんです。サブカル的なものに興味があったというのが、「ちんかめ」のきっかけだったのかも。
柴田 時代的にも、ファッションとカルチャーの距離感が近かったですよね。女性にも受け入れられやすかったんじゃないでしょうか。
神山 いまはSNSが隆盛している時代だから、誰とでも繋がれる。90年代は情報を得るといえば、紙媒体からだった。多くを知るには、深掘りをする必要があったんです。いまの文化も楽しいけれど、当時はすごく刺激的だったよね。
柴田 「ちんかめ」のキャスティングは当時からどうやって行っていたんですか?
内藤 おしゃれ感があって、脱いでくれる子が前提だったね(笑)。続けていくうちに「私も出たい!」って言ってくれる子が増えてきました。あとは、友達の情報や紹介とかもあったかな。
柴田 おしゃれ感というのは、その人が持っている佇まいや空気感を指しているんですか?
内藤 スタイルや顔とか、トータルです。女の子から滲み出るものというか。周りの情報とかも参考にするかな。最初は実験的に色々な子を試していたよ。
柴田 2007年に連載10周年を記念して、「渋谷パルコ」で写真展の開催とフォトブックも発売しましたよね。
内藤 ぼくらの後ろに展示している作品はそのときの一部です。
内藤 そうですね、これらは主に2000年代の作品です。
柴田 それらの写真をベースに、神山さんがペイントを施したんですね。
神山 そうそう。最初の10年ぐらいはフィルムで撮ってたよね。その後はデジタルカメラで。だから、よく見ると質感が全く違うんです。
柴田 ちんさんから神山さん宛てにどのくらいの写真が届いたんですか?
神山 写真というより、このパネルごとアトリエに届いたんだよね。すごく邪魔だった(笑)。
結果的にいいものが仕上がるんだよね。20年以上続けてきているから。
柴田 1997年からブレずに“おしゃれなヌード”というコンセプトで続けていましたが、一時期水着にシフトした期間がありました。そして、2015年にヌードとして再スタートをしたときに、ちんさんが最初のモデルとして選んだのが、まなちゃんでした。
紗倉 「ちんかめ」の存在は高専に通っていたときから知っていました。在学生の9割が男子だったので、噂で聞いたりしていて。名前に“ちん”が付くから、最初はそういうことなのかなと思ってました(笑)。
紗倉 そうなんですよ(笑)。実際に撮影をしていただいたら、とにかくおしゃれで。いつものグラビア撮影なら、「さあ、来い!」って感じで服を脱いで撮影に挑むんです。でも、「ちんかめ」の撮影は見えるか見えないかぐらいのギリギリなラインを保ちながらの撮影なので、いままでに経験したことがない感覚で楽しかったです。女の子が見ても、いやらしくないっていうのもいいですよね。
柴田 ちんさんに質問なんですが、なぜヌードが復活したときに数多いる女性の中からまなちゃんをチョイスしたんですか?
内藤 文化的な匂いがして、スタイルも抜群に良いのでオファーをしました。まなちゃんもすごく真剣に向き合ってくれて。いい緊張感の中で撮影できました。
柴田 「ちんかめ」の撮影はどのようにして組み立てていくんですか?
内藤 信頼しているスタイリストやモデルの女の子の意見も聞きつつ、イメージを膨らませていきます。全て決めてから撮影をしてもいいものが生まれないので、あまり決めすぎないようにしています。ぼく自身もあまり考えすぎないようにしているんです。
柴田 まなちゃんはこういう撮影について、どう感じますか?
紗倉 普段の撮影では、何が着たいとか、どういうイメージにしたいとか聞かれることがなかったので衝撃的でしたね。ちんさんがさっきお話しした通り、みんなで現場を作り上げていくんです。なので、撮影も楽しくスムーズに進行できました。
柴田 神山さんとちんさんは25年間という長い付き合いです。なぜ、今回久々にコラボレーションをすることになったんですか?
柴田 そもそも神山さんが「TOKYO CULTUART by BEAMS」で個展を開催する予定だったんですよね?
神山 ソロの展示をやるということだったんですが、共通の後輩から「神山さんの話をしていましたよ。」っていうのを聞いて、びびっと来たんです。それで、別の企画で撮影をする機会があり、ちんくんにやってもらいたいと思って、久々に連絡をしたんです。
内藤 ぼくもその後輩から神山の話を話を聞いていて。で、アトリエを訪ねたんだよね。
神山 そうですね。10年ぐらい会っていなかったけど、ちんくんは全然変わっていなかったです。10代のときからお互いを知っているから、特に打ち合わせをせずに、飲みながら段取りを決めていくみたいな(笑)。久しぶりの会話の中で、いまも「ちんかめ」が続いているということをそのとき初めて知りました。
神山 すごいびっくりしました。「TOKYO CULTUART by BEAMS」の個展では、女性をモチーフにしたものをやりたいとずっと考えていたので。それで、ちんくんの写真に俺のペイントをぶっかけるという発想が閃いたんです。
神山 すぐに「TOKYO CULTUART by BEAMS」のディレクターである永井さんに連絡をして、「ソロではなく、ちんくんと展示をやります!」って伝えたら、快諾していただいたんです。
内藤 山Pと亀梨君が組んだような感じだよね(笑)。グッドバイブス的な。
柴田 そういった経緯があって「ちんかみ展」が誕生したんですね。
内藤 そうなんです。また、「ちんかめ」とは別にモデルの佐田真由美ちゃんが、女性誌の連載企画で’90sの撮影をやってみたいという打診があって。ちょうどその頃に、神山と再会したときだったから、背景を描いてもらいたくてオファーをしました。
神山 全員90年代を生きてきた世代だから、すごく面白かったです。
内藤 彼女が設定した’90sらしいスタイリングで撮影をして。すごく新鮮でした。
神山 現場でちんくんの撮影スタイルを改めて見たんだけど、すごいラフだなあと感じました(笑)。
神山 (笑)。でも、結果的にいいものが仕上がるんだよね。20年以上続けてきているから。まなちゃんはそのラフな感じは不安じゃなかった?
紗倉 お二人が長い間活躍されてきているのを知っていたので、不安は全くなかったです。「ちんかみ展」の撮影でも、阿吽の呼吸みたいなのが感じられて、安心して撮影に望むことができましたよ。
柴田 なるほど。それでは、「ちんかみ展」の話に戻ります。今回の展示では、アーカイブの写真にペイントを施したものとは別に、新たに撮り下ろした作品もありますね。2015年に引き続き、モデルとしてまなちゃんにオファーをしたのはなぜだったんですか?
神山 今回の展示では、女の子の身体にペイントをする予定だったので、ボディラインを重視してモデルを探していました。ちんくんから渡された資料やインターネットで色々探していたときに、まなちゃんを見つけたんです。もともと存在を知っていたし、ちんくんに過去の作品を見せてもらって、即決でした。
内藤 以前撮影をした写真を神山に見せたら、いいなって言ってくれたので。まなちゃんはルックスだけでなく、纏っている空気感も他の女の子とは違うんですよ。
神山 アダルトっていうジャンルは、俺らが小学生や中学生のときとは違って、一つのカルチャーとして成立していると思う。まなちゃんはその部分をうまく体現できているんじゃないかな。美しく魅せるという部分の他に、時代背景やファッション性をきちんと映し出しているなって思います。
内藤 改めて聞かれると照れくさいね(笑)。とりあえず作品から感じ取ってもらえると嬉しいです。
自分の裸を見せる撮影というより、アートを撮影してもらっているような感覚でした。
紗倉 いつも撮影の前日はどんな感じなんだろうって想像をするんです。「ちんかみ展」の場合はボディペイントって聞いていたので、身体中にペンキを塗りたくられるんだろうなって思ってました(笑)。当日、現場に行ってみたら、神山さんが撮影で使用する背景を描いていて、それがすごく可愛かったんです。その後に、私のボディペイントの番になったんですが、とにかく早いんです(笑)。長い間じっとしていなきゃいけないのかなと思ったら、10分ぐらいで終わりました。神山さんの感性が筆先から感じ取ることができましたね。筆が乳首の上を通過するときに、「ごめんね!」と言って、すごく気を使ってくださったのが印象的でした(笑)。
神山 ボディペイントをするのが初めてだったので(笑)。
紗倉 私は全然気にしていなかったんですけどね(笑)。
神山 調子に乗って、ついつい筆が進んでしまいました(笑)。ボディペイントはクセになりますね(笑)。
柴田 ペインティングが完成して、ちんさんと撮影をしたときの印象は?
紗倉 自分の裸を見せる撮影というより、アートを撮影してもらっているような感覚でした。もちろん緊張しましたが、色々な表現をしてみようって撮影に臨みましたね。
柴田 撮る側として、ちんさんはどういったディレクションを行ったんですか?
内藤 まなちゃんが身体に描いてあるアートを見せるようなポーズを上手にしてくれたから、こちらから特に指示をしなかったですね。
柴田 二人ともまなちゃんに感謝ですね(笑)。今回の展示では、アーカイブや新しく撮り下ろしたもの、シルクスクリーンの作品も展示されています。
神山 俺らの後ろに展示されているパネルの作品は、顔をペイントで隠しました。写真パネルをペイントによって、絵画のように飾れるような仕様にしたかったんです。ここまでやりきってしまえば、いやらしさはなくなって、ポップで可愛い感じになるんじゃないかなと。
神山 顔を塗りつぶして、身体を目立たせることを意識しました。乳首も顔と同じくインパクトがあったので、そこもペイントで塗りつぶしました。
柴田 男性がいいなって思う場所は残しつつ、女性が見ても可愛いと思えるバランス感が絶妙ですよね。
神山 まなちゃんが言ったように、この作品を見て「この身体は誰のだろう?」っていう妄想をしてくれると嬉しいです。
柴田 神山さんが得意とするスプレーを使用した作品もありますね。
神山 他の美術館の展示で、建築家の写真に奥深さを出すためにスプレーを重ねました。斜めからみると、光の入り方で写真に影ができて、見え方が変わるんです。
柴田 すごく見応えのある作品ばかりですね。そろそろ、いい時間になってきたので最後にそれぞれの展望について教えてください。
紗倉 自分一人だけの力だと、エロっていう分野がエンターテイメントに届かないのが、いまの現状です。なので、こういった「ちんかみ展」のような機会が増えるといいなって思います。動向については不適切アカウントに認定されているオフィシャルTwitterをチェックしてみてください(笑)。
神山 今回はいいタイミングでこういった展示ができました。今後はもっとボリュームアップをした作品集の出版と展示をやりたいと思っています。
柴田 今日はお忙しい中お集まりいただき、ありがとうございました!