若い頃、つまりネットのない時代、得られるファッション情報のほとんどは雑誌であった。いまからは想像できないくらい情報は限られていたし、不正確だった。特に地方都市で暮らすというのもさらなるハンデであった。なのであらゆる雑誌を貪るように読んだものである。
いまでいうフェイクニュースや広告を疑うなんてことはなく、純粋に記事や特集などを楽しんだ。悪く言うと雑誌の言うがままに操られた世代である。
影響を受けて買ったもの、真似たスタイルをあげるとキリがない。
そのひとつにおしゃれは足元から、というのがある。どんないいかっこしようと足元がおろそかであればすべてが台無しというわけだ。
これはどの雑誌でも同じようなことを主張していた。確かにそれは服装の本質を突いているとは思う。
まだファッション途上国であった日本のメンズのファッションシーンで、DCブランドやインポートブランドの服を買うのがやっとで靴までお金が回らないなんて人も少なくなかった。頭かくして尻かくさず。いくら高価なものを一点豪華主義的に身につけてもそれではお里が知れるというものだ。
そういうわけでハタチ前の若造であった自分もオールデンのローファーなんかを買った。某セレクトショップでバイトしていたから社販で買えたというのも大きい。他にもレッドウィング、チャーチ、フローシャイム。若造からすると綺羅星のようなブランドのシューズ群。バイト代のほとんどをそっちに使った。そうなると逆説的に着るものがおろそかになる。なので年中ジーンズにラコステのポロというスタイルになった。恥ずかしいかな、いまでも同じかっこをしている。
しかしベルトには無頓着であった。
ファッション誌では靴の色とベルトの色は合わせる、なんて指導があったものだが、ベルトにかけられる金はない。当時どんなベルトをしていたかは思い出せない。きっと適当なもんだっただろう。
友人が働いていた渋谷のインポートショップで5センチ幅の極太のメッシュベルトを見つけたのはいつだったろうか。ブライドルレザーで太めに編まれたベルト。圧倒的な存在感。
それが〈J&M デヴィッドソン〉との出会い。爾来、ベルトはここのものと決めている。
若い頃から体型が変わらないと人からは見られるが、わずかながらも拡大しているのでさすがに昔買ったものはもはや寸詰まり。
そんなわけでわりと最近、新しいお友達を増やしたところ。ナチュラルなヌメ革とブラウンの2本。
それにしてもキャッシャーで驚いた。昔買ったものの2倍以上もする。しかも半分の幅で。
欧米諸国はインフレなんだな、と改めて思うのであった。