(左)小木”POGGY”基史 / ユナイテッドアローズ アンド サンズ ディレクター
1976年生まれ。北海道札幌市出身。世界のメンズファッション界において重要人物の一人に選ばれるなど、いまや国内外で支持されているPOGGY。「UNITED ARROWS & SONS」のディレクターとして世界中を飛び回る中、ドレスとストリートを自在に行き来するスタイルが注目を集めている。
(右)藤原裕 / ベルベルジン ディレクター
1977年生まれ。高知県出身。高校を卒業後に上京し、原宿のヴィンテージショップ「ベルベルジン」に入社。近年はヴィンテージデニムアドバイザーとしても活躍しており、様々な企業とのコラボレーションを行っている。また最近ではYouTubeに自身のチャンネル「ヴィンテージデニムアドバイザー藤原 裕 CH」を開設して話題に。
リーバイス®の隠れた名作、マックイーンパンツをポギーが初復刻!
まずは〈リーバイス® メイド アンド クラフテッド®〉とコラボレーションすることになった経緯をお聞かせください。
小木インフルエンサー的な要素を持ったバイヤーとコラボレーションがしたいという話を〈リーバイス®〉からいただいたのがきっかけです。第一弾がLAのセレクトショップ「マガザン」のジョシュ・ペスコウィッツさんで、第二弾は僕がアジア代表としてやらせてもらうことになりました。もっと遡れば、2015年に海外の展示会で〈Poggy’s World〉というエキシビジョンをやらせてもらったときに、〈ドクターロマネリ〉のダレン・ロマネリに、〈リーバイス®〉の本国の方を紹介してもらったのが始まりですね。
「ユナイテッドアローズ」ではなく、今回は小木さん個人とのコラボレーションというのが面白いですよね。世界中で「ポギーザマン」のアイテムが並ぶと思うと爽快です。
小木もちろん「ユナイテッドアローズ」のバックアップは受けていますけどね。今回の企画は、「 ユナイテッドアローズ アンド サンズ」や世界各国の「リーバイス®」直営店だけではなく、国内では「伊勢丹」、海外だと「フレッドシーガル」といったお店で扱ってもらっています。本当にありがたいことです。
このコラボレーションが決まってから、どのように企画の構想を練っていったのでしょうか?
小木まずは誰よりも先に〈ベルベルジン〉の裕くんと、〈ネクサスセブン〉の今野くんに連絡して、とりあえず飲みに行きましょうと(笑)。〈リーバイス®〉の本社へ企画の話をしに行く前に、なんとなくの方向性を決めておきたかったんです。膨大にある〈リーバイス®〉のアーカイブの中から、どんなアイテムをピックアップして、どういう風にアレンジすると面白いか。そのヒントを得るために、ヴィンテージのスペシャリストから意見が欲しかったんです。
藤原小木さんから連絡をもらって、「ベルベルジン」の2階にあるイタリアンの個室に3人で集まったんですよね(笑)
小木さんと藤原さんの組み合わせってなんだか意外ですね。
藤原小木さんには昔からお世話になっていて、15年くらい前に〈リーバイス®〉、「ユナイテッドアローズ ブルーレーベルストア」、「ベルベルジン」のトリプルコラボレーションで「606」を復刻したこともあるんですよ。
小木そうそう、たまたま原宿の居酒屋で会った時に裕くんが「606」を穿いてて、それは何?って話から発展したんだよね(笑)。今回も雑談から始まったんだけど、このお酒の席で今回のコレクションの核になる「マックイーンパンツ」の存在を教えてもらって。昔からその存在は知ってたけど、裕くんに言われなかったら思い出せなかったと思う。
60年代にリリースされていたベルトループレスのパンツ。スティーブ・マックイーンが穿いていたことで、 いまでも根強い人気を博す、〈リーバイス®〉の隠れた名作。こちらはそのオリジナル。
藤原小木さんの趣味はわかっていますし、イメージにぴったりだったんですよ。スティーブ・マックィーンが穿いていたので、通称“マックイーンパンツ”と呼ばれていますが、正式な品番は「6614B」です。末尾は使っている生地の色によって変わります。1960年代に発表されたモデルで、ベルトループがなく、シルエットはスリムフィットになっています。アイビーファッションが台頭した60年代当時、このパンツもファッション的なアプローチでデザインされたものだと思います。
小木このマックイーンパンツのオリジナルはコットンサテンやコーデュロイを使っているので、デニムであったら面白いのではないかと。それで裕くんの私物を借りて、〈リーバイス®〉本社へさっそく持っていったんです。そしたら本社のスタッフはこのパンツをマックイーンが愛用していたことを知らなくて、すごく興味を持ってくれたんですよ。
タイトで美しいシルエットを有した〈ポギーザマン〉別注によるマックイーンパンツ。生地をデニムに置き換えて大胆にアレンジ。新たにベルトループを設けるけることで、穿きやすさが格段に向上されました。MCQEEN PANT ¥22,000+TAX
意外にもマックイーンパンツはこれまで〈リーバイス®〉で復刻されたことがないんですよね。デニムへのアレンジも見事です。
小木ヴィンテージを忠実に復刻させるというのは、まったく考えてなかったですね。先駆者の方々が素晴らしいものを作っていますし、裕くんみたいにうるさい人も多いですから(笑)。もともとデニムは好きで、普段からよく穿いているということもあり、今回デニムにしてみようと決めました。
藤原そういえばこのデニムはコーンミルズのホワイトオーク工場のものを使っていますよね。今年になってホワイトオーク工場が閉鎖されるってニュースがありましたが、企画していた時は知らなかったんですか?
小木まったく知らなかった。最初からホワイトオーク工場のデニムを使う予定だったんだけど、後からその話を聞いて、なんとか生地を確保してくださいと担当者に急いで問い合わせたくらい。それでギリギリ確保できたんだよね。だからこのマックイーンパンツに、コーンミルズのホワイトオーク工場で織られたデニムを使えたのはラッキーでした。
あえてワークウエアに注目したポギーザマンのカプセルコレクション。
今回のコレクションは全9型ですが、ラインナップはどのように構成していったんですか?
小木裕くんや今野くんとの会話をヒントに、自分の中でコーディネートを数体つくって、そこに〈リーバイス®〉のアーカイブをはめ込んでいくというアプローチで作りました。カバーオールやオーバーオールといったワークウェアを中心に展開しています。
1910年代頃のカバーオールをベースに制作したサックコート。コーンミルズ社のホワイトオーク工場で織られたデニムと、印象的なイエローの2色展開。金色のボタンも良いアクセントになっている。SACK COAT ¥45,000+TAX
〈リーバイス®〉としては珍しいオーバーオールをあえてラインナップ。1930年代に生産されたモデルをベースに、ジャケットのインナーにも気込めるよう、シルエットはほどよくタイトに設計されています。OVERALL ¥25,000+TAX
藤原ワークといえば他のブランドのイメージが強いですが、そこをあえてピックアップする小木さんのセンスが凄いですね。今日、僕も1920年代のオーバーオールを持参してきましたけど、〈リーバイス®〉は1930年代になるとこの手のワークウェアの展開が激減していくのでかなり珍しいんですよ。よくここに目を付けましたね。これらの元ネタは〈リーバイス®〉のアーカイブルームで見つけたんですか?
大変希少な1920年代中期に生産された〈リーバイス®〉のオーバーオール。
小木そうそう。〈リーバイス®〉って素晴らしいアーカイブが本当にたくさんあるでしょ。いろいろと見ているとあれもこれもとなりそうだったから、あえてワークに絞ってアーカイブを見せてもらって。
藤原日本のアパレル関係者で〈リーバイス®〉本社のアーカイブルームに入ったのって、おそらく小木さんが初じゃないですか? 僕もいつか行きたいんですよね。本当にうらやましいです。
小木アーカイブルームに行くと本当に厳重に保管されていて、ひとつのヴィンテージを出してもらうだけでも、手袋をして梱包を開けるから5分くらいかかるの。だから色々と数を見せてもらうのも悪い気がして(笑)
藤原〈リーバイス®〉のアーカイブに対する敬意の払い方はすごいですよね。ヒストリアンという考古学者のようなポジションの方がいて、縫製や生地といった作りはもちろん、どういった時代背景の中でそのアイテムが生まれたかをしっかりと検証しているんですよね。
貴重なヴィンテージアーカイブを参考にしていますが、〈リーバイス® メイド アンド クラフテッド®〉 × 〈ポギーザマン〉のアイテムは、どれもモダンな印象を受けます。なぜでしょう?
小木ディテールは部分的に再現していますが、サイズ感はかなり修正しました。自分はあえてジャケットのインナーに〈リーバイス®〉のトラッカージャケットのタイプⅢ(557)を着たりするので、そういった感覚でカバーオールもインナーに使えるくらいアームホールを少し細くしてみたり、オーバーオールもすっきりとさせてます。
左が〈ポギーザマン〉のオーバーオールは補強としてカンヌキステッチが採用されていますが、、右の1920年代中期に生産されていたモデルはリベットが施されています。
藤原インナーに着るために、ヴィンテージの557のアームホールを細くカスタムしたという話を聞いて、さすがだと思いましたよ。確かにカバーオールもオーバーオールも細身ですね。僕が持ってきたヴィンテージのオーバーオールは、小木さんが元ネタにしたものとほとんど一緒なんですが、シルエットを比べてみると違いがよくわかります。僕が持ってきたものは補強にリベットを使っている1920年代中期のもので、小木さんがサンプリングしたものはカンヌキなので、おそらく1930年代頃のものだと思います。
小木それと今回の企画は世界中で販売するので、日本製にこだわったのもポイントですね。、日本の縫製技術の高さや生地のクオリティを知ってもらいたかった。マックイーンパンツはコーンミルズ社の生地だけど、その他のものは日本の生地を使っています。
藤原全体的にデニムの生地感がいかにもヴィンテージ然としてないのも狙ってるんですか?
小木どこかストリートというか、90年代のテイストも取り入れたかったんだよね。だから少し青味の強いものを使って、アクセントとしてイエローステッチやゴールドの金具を用いて、自分なりに今のストリートっぽさを入れたつもり。ウエスタンシャツはオーバーサイズでドロップショルダーにしてみたり。
ビッグサイズ&ドロップショルダーというストリート的なアプローチをはかったウエスタンシャツ。鮮やかなブルーも印象的です。WESTERN SHIRT ¥25,000+TAX
藤原ウエスタンシャツでいうと、ノコギリと呼ばれるポケットフラップや背面の独特なウエスタンヨークなど、〈リーバイス®〉のアーカイブの中でも珍しいデザインを採用しているんですよね。この辺の感覚は流石ですね。
チェック生地のものはショートホーン時代の個体。印象的なウエスタンヨークは、この時代のものを踏襲しています。
小木単純にデザインがいいなと思って。それと今回の企画の象徴となっているイエローとターコイズブルーを落とし込んだのも我ながら気に入っています。このビッグサイズのウエスタンシャツにマックイーンパンツを合わせて、B.B.キャップを被るというのも良いかなと。
フロントにパッチを貼り付けたベースボールキャップ。「POGGY」のネームが入ったイエローのピスネームが良いアクセントに。BASEBALL CAP ¥5,000+TAX
藤原このデニムキャップも小木さんらしいですよね。70年代に、これに似た〈リーバイス®〉のキャップがありますけど、微妙にニュアンスが違いますよね。
小木このキャップの元ネタは、実はヘルメットなんだよね(笑)。〈リーバイス®〉のアーカイブルームに、昔の竣工式で被ったデニムとパッチを張ったヘルメットがあって。それを作りたかったんだけど、さすがにダメだったから、キャップにしたという(笑)
実に小木さんらしいコレクションに仕上がりましたよね。今後の展望はあるんでしょうか?
小木いえ、いまのところはないですね。ただ自分としては、このコラボアイテムを長く着られるように配慮したつもりです。ベーシックでタフであることは、〈リーバイス®〉の本質だと思いますし。長く愛用してもらえると嬉しいですね。