クオリティに見合った値段設定で、最高品質のメガネを作る。
まずは〈ゾフ〉が松島さんとコラボレーションしたきっかけを教えてください。
チダぼくが〈ゾフ〉に携わってから今後の方向性について色々なアイデアを出していました。その手法のひとつとしてコラボレーションもあったんですが、単に「予算が1000万円で利益がこのくらい見込めるから、年間何十本コラボを仕掛けて」といった愛のないやり方はしたくなかったんです。次のステップを見据えたうえで、(松島)紳くんとなら〈ゾフ〉に新しいストーリーを追加できると思ったんです。
松島ぼくもチダさんからお話をもらってから、〈ゾフ〉がメガネ業界のなかでどんな立ち位置なのか企業研究をしたんです。調べていると新しいことも沢山やっているし、会社に来てみたらアンディー・ウォーホルの絵が飾ってあったりするし、面白そうだなと直感しました。ウォーホルは「それまで高価だったアートを大衆化してみんなに届けよう」という新しいことをやってきた人ですし、今回のプロジェクトはその考え方に近いなと思っています。
チダもともとぼくと紳くんはビジネス抜きの友人として知り合ったんですが、展示会で彼のものづくりを見て、すぐにファンになった。彼の場合はハイブランドのようなお金の掛け方ではなくて、本当にいいモノをつくるためにお金を掛けていこうとしているし、大きい人でも小さい人でも似合う服づくりをしている。メガネも太った人や痩せた人でも「これがいい」と思ったらそれを選ぶべき。彼のものづくりの特色はメガネ向きなのかもしれないですね。
松島さんにとってメガネのデザインははじめての経験だと思います。
松島服のデザインでもメガネのデザインでも全体を俯瞰で見ることが大事だと思っていて、キチンと全体像を把握できるのであれば、車のデザインも可能だと思っています。なので不安はありませんでしたし、すんなりと方向性も決まりました。
チダちょうど紳くんにコラボレーションの依頼をしたときは<カンタータ>が有名になる直前ぐらいのタイミングで、ファッション関係者でもクセ者のような感度のいい人たちだけが知っているブランドでした。だからこそ彼みたいな人と組めたら〈ゾフ〉にとって新しい価値観を生み出してくれると思ったんです。
梶原〈ゾフ〉としても松島さんのこだわりを体現するようなプロダクトを作ることを考え、<カンタータ>や松島さんのファンまたそれを理解してくれる層に届けたいという思いもありました。
コラボレーションしたメガネを見ましたが、この品質の高さと素材で、レンズ込みの価格が1万8000円は驚異的ですね。
松島正直なところ世の中で売られているメガネは高いと思ってるんです。たとえばセルロイドで4万円くらいで売られるのが当たり前ですが、ぼくはそれをきちんと品質に適正な価格で売りたい。そこで、今回は「日本製でセルロイドとサンプラチナを使って〈ゾフ〉として販売できる値段設定ならやりたいです」と返答させてもらいました。
梶原メガネ業界は消費者に製品が届くまでに複数の仲介業者が間に入るので、その分価格が高くなるんです。〈ゾフ〉は企画生産から販売まで一貫して自社で行うSPA企業なので、適正価格で売ることができる。今回のコラボで作ったサンプラチナのメタルフレームを例に挙げると、一般的なメガネ屋さんで同じ品質のものを作ったら3~4万円ぐらいの値段になると思います。
チダメガネって不思議な業界で、ブランドネームで売るか「鯖江」や「職人」をウリにすることが多いです。だけど本当はそうじゃなくて、デザイン、品質、素材が大事です。ブランドネームだけで売っていても品質が悪いとダメだし、今回の商品は紳くんのデザインもいいので自信を持って薦めることができます。
松島最初に実寸でデザインを描いて、その後色々な顔型の人がかけることを想定しながら微調整していったんですが、最終的に誰でも似合いやすいメガネに仕上がったと思っています。
クラシックな素材で作る、新しいアイウェア。
今回のセルロイドフレーム3型は、デッドストックのセルロイド生地も含まれています。セルロイドはアセテートにはない質感やクラシカルな雰囲気を醸します。
今回のコラボレーションで特徴的なのが、セルロイドとサンプラチナという素材選びだと思います。
松島ぼくは服をつくるときにハンガーに掛けたときの重さをまず最初に考えるんです。お客さんが手に取ったときに最初に感じるのは重さですから。メガネも同じで、まず最初にお店で手に取ってテンプルを開くので、そのときの質感が大事なんです。セルロイドの透明感や硬さ、サンプラチナの光沢や重量感は、自分の手で確かめてみるとアセテートやチタンには無い質の高さや高級感を感じることができます。
松島今回使用したセルロイドは梶原さんが見つけてきたセルロイドの中から選びました。その中にはデットストックのものも含まれており、長年乾燥した生地は芯まで乾いてて、しっかりと硬さが出ています。
メタルフレームはサンプラチナを使用。近年ではほとんど使用されない希少な素材。味わい深い光沢を放ちます。
梶原「セルロイドとサンプラチナでやりたい」と松島さんから言われたときは、正直なところ実現できるかどうか不安もありました。実は今回の企画よりも前にサンプラチナで作ろうとして諦めたことがあったんです。サンプラチナは二世代ぐらい前の素材なので、サンプラチナの為の製造設備が国内ではほとんど残っていないですし、磨きやロウ付けに非常に手間がかかるんです。
クラシカルな3PINかしめ7枚丁番を智に配したセルロイドフレーム。今回のコラボレーションのアイコンになっています。
フロントとテンプルをつないだ7枚丁番。これにより開閉も滑らかかつネジの緩みも軽減しました。
松島セルロイドと金具をフラットに磨き上げることもリクエストしました。また、バリ取りを丁寧に行った7枚丁番を使っているので、テンプルを開く時もヌルっとした滑らかさがあります。
梶原日本製の良さはその動きの美しさが長続きすることだと思います。今回は海外のハイブランドも生産している鯖江の工場に依頼しました。フロントとテンプルの合わせや畳んだときの見え方も非常に美しく仕上がっています。
向こう側が透けて見える生成りクリア(クリアカラー)を用いたセルロイドフレーム。テンプルには芯金を入れて調整をしやすくしました。
松島ボストンとウェリントンの中間的な玉型のモデルを最初にデザインしたのですが、個人的には一番透明に近い生成りクリアのカラーのモデルにグリーンのレンズを入れてサングラスにしたいと思っています。セルロイドならではの透明感を一番味わえるカラーですし、芯金も磨いてあるので美しさを損ないません。
梶原セルロイドならノー芯製法(フレームに芯金を入れないつくり)で作ることも可能なんですが、ノー芯製法だとテンプルの厚みが倍ぐらいになってしまう。それでは松島さんのデザインの良さを活かせないため、今回はあえて芯金を入れています。
松島色々な顔の写真に当てはめながらデザインしたんですが、なるべく誰でも似合うニュアンスで、あまり尖り過ぎずにかけたときに品が良く見えるようなメガネを目指しました。1000本の他のメガネの中に混ざっていたとしても「なんかこのメガネいいな」って風に値段関係なしで選んでもらえる自信がありますよ。
松島紳のこだわりが詰まった、至極のメガネ。
世界に知られる鯖江製で、いまでは希少なクラシックな素材を使い、気鋭のデザイナーがデザインするというこだわりの中で驚きのプライスを実現したゾフ × マツシマ シン コラボレーションモデル。セルロイドやサンプラチナを用いたメガネはとかく懐古主義的なデザインになりがちだが、このコラボレーションが目指したのはあくまで洗練されたモダンなアイウェア。そのアイテムをひとつずつ見てみよう。
ZT181005_13A1 ¥18,000+TAX
リム上部に8mm、下部に6mmのセルロイドを使用したウェリントンタイプ。リム上に段差をつけることでセルロイドの透明感を生かしてカラーコントラストをつけつつ、サーモント風のルックスに仕上げた。「段差を作るのが大変だそうで、非常に工場泣かせの1本でした」
ZT181006_40A1 ¥18,000+TAX
ボストンとウェリントンの中間的な玉型で、万人に似合うように設計。テンプルもリムの上部に設定することで横から見たときに顔全体がシャープに見えるように配慮されている。「セルロイドならではの透明感を味わえるよう、芯金も徹底的に磨いています」と松島氏。
ZT181007_48A1 ¥18,000+TAX
ボストンタイプの玉型を採用し、ブリッジやノーズパッドにメタルを採用したコンビフレーム。「他と比べて細めに仕上げており、グラデーションのフレームは特にメガネをかけなれていない方でもかけやすいようにデザインしています」とのこと。
ZT182002_15E1 ¥18,000+TAX / ZT182001_15E1 ¥18,000+TAX
サンプラチナを全面に使用したメタルフレームはオーバルとラウンドの2種類をラインナップ。重量バランスをとるために太めに設定されたテンプルエンドにもセルロイドを使用。「通常の3倍近く磨きに時間をかけていますので、非常に美しい光沢感が特徴です」