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monessay ─ペン習字

monessay ─ペン習字

フイナム発行人、フイナム・アンプラグド編集長である蔡 俊行による連載企画「モネッセイ(monessay)」。モノを通したエッセイだから「モネッセイ」、ひねりもなんにもないですが、ウンチクでもないのです。某誌でずいぶん長いこと連載していたコラムが休載し、フイナムにて装いも新たにスタートです。今回は〈モンブラン(MONTBLANC)〉の「マイスターシュテック149」。

  • Text_Toshiyuki Sai
  • Photo_Kengo Shimizu
  • Edit_Ryo Komuta
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第十二回 ペン習字

学生の頃、重度の悪筆だった。自分で書いたものが後で読めないほどに。

が多くいる。これがみんな字がうまい。うまいというのかとても読みやすい文字を書く。特別な訓練をしたわけではないのにみんな揃っていい字を書く。

いうわけで二番目の姉に勧められて、というか強制的にペン習字を習わされた。そう、あの通信講座のやつである。

遊びが好きで身の回りのことには怠惰な典型的な小学生男子にとって、これは拷問にも等しい。かと思いきや、これが意外と楽しいのだった。単純作業をもくもくと続けるというのが、自分の性にあっていた。加えて瞬く間に上達する様が、さらなるやる気を保つエンジンとなった。

れくらいの期間続けたかもう覚えてないが(たぶん数ヶ月?)、飽きてきたころにフェードアウト。すべての習い事の習いである。

ぶんあの頃が人生で一番字がうまかった。

の後、どんどん自己流なクセがついて現在に至る、である。もっとも形が崩れたのは、編集者として原稿用紙に鉛筆で文字を埋めていた時代。なんせ頭に浮かんだ言葉を忘れないうちに記録するために速書が必要で、最低限読めればいい字を書くようになった。

までは昔のようにキレイな字を書こうとゆっくり清書してみるのだが、あまり上手くいかない。

れに増して字を荒れてきたのは、ワープロやパソコンの隆盛にも原因がある。普段の生活で字を書かない日が増えた。これで腕の筋肉が鈍った。たまに契約書などに住所と名前などを何枚にもかけて書くことがあるが、二の腕の筋肉が引きつりそうになる。運動会のお父さんが昔のイメージで体をやや前傾しながら走ったら、足の筋肉がついてこないで足がもつれ、前のめりにすっ転ぶというお約束がある。ぼくの場合、書きたい文字に腕がついてこないもんだから、一文字書いて二文字目をすっ飛ばして三文字目を書いているということがしょっちゅうある。

記具によってもいい字が書けるときと書けないときがある。上手く書けるのはやや先が丸まった、Bの鉛筆、太字の柔らかい書き心地のBICのボールペン。逆はHの鉛筆と滑りの悪いボールペン、そして万年筆だ。

年筆ってどうしてうまい字が書けないんだろう。

かしあの頃、姉がソニープラザで買ってきてくれた紺色のプラスチックのおもちゃのような万年筆は書き心地がスムーズでスラスラとそれなりにいい字が書けた。いつの間にか無くしたあの万年筆のあの書き味はいまだに忘れることができない。

年前、パイロットが子供向けに初めて使える万年筆というコンセプトで発売した「カクノ」という商品が大ヒットした。ニュースで知った自分もすぐにそれを買ってみた。あの書き味を求めて。

めていた書き味とは言えないが、軽くてインクの出もよくてこれはこれで、すごく書き味がいい。以来、契約書はすべてこれを使っている。

かし例外がふたつ。カーボン式の契約書と目の前に相手がいる場合。こうしたケースでは、〈モンブラン〉のボールペンを使っている。銀行の支店長とかの前で、黄色と白のプラスチックのペンというのはどんなもんかと。やはりこの歳になるとすこしばかりは体裁を整えないと、とも思う。あまりヒップな考えではないが。

、数ある〈モンブラン〉の万年筆のライナップからいちばんベーシックなものはなにかと選んだのが、このモデル。

やはり高尚な書き味とでもいうのだろうか、あまりうまく書けない。

これでまたペン習字を習ったほうがいいかもね。

¥95,000+TAX

蔡 俊行

フイナム発行人/フイナム・アンプラグド編集長。マガジンハウス・ポパイのフリー編集者を経て、スタイリストらのマネージメントを行う傍ら、編集/制作を行うプロダクション会社を立ち上げる。2006年、株式会社ライノに社名変更。

モンブラン コンタクトセンター

電話:0120-39-4810

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#monessay
#MONTBLANC
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