ジェイソン・デンハムの懐刀。
Yoshikawa400年続く酒蔵の次男として生まれました。古い業界ですから、跡取りは長男に決まっています。好きなことをやれと言われて育ちました。とにかく外に出たかった。自分の力が試せる世界に。で、大学を出たぼくはアパレル会社に入ります。海外勤務に照準を絞ったわけです。そうして赴任したのが香港。当時はOEM生産が盛んな時代。目論見どおりでした。
Yoshikawaそこでぼくは天然素材の魅力に開眼します。シルク、リネン、コットン。天然素材が持つポテンシャルはなんて奥深いんだろうって。そんなある日、出会ったのがデニムでした。子どものように興奮しましたね。色は変えられるわ、穴は開けられるわ…。シルクにもサンドウォッシュというエイジング加工がありますが、デニムに比べれば非常に控えめなものでしたから。
Yoshikawa付き合いのあった検品会社の社長の伝手で岡山の洗い工場に潜り込みます。その工場は〈リーバイス®〉の仕事をしていましたから、加工のイロハは〈リーバイス®〉に学んだといっても過言ではありません。ただ、技術を身につけたといっても、まだまだ道半ばにあると思っています。25年経ったいまも、修行真っ只中。そして修行は一生続くものかも知れません。
20代で赴任してから住まいはずっと香港だそうですね。早30年とか。
Yoshikawaイエスノーがはっきりしている国民性が心地よかったのもあるんですが、日本に戻ると工場に入り浸りになって技術屋で終わってしまう、という危機感を覚えたのが最大の理由でした。香港は年々家賃が上がってそれだけ考えれば大変な街ですが(日本人が暮らせる平均的なマンションで月50万円! はするとか)、かえってがんばろうって気持ちになれる。それに香港はトランジットの街。誰もが気軽に寄ってくれるんです。彼らのために住まいより高いアトリエを借りています(笑)。
根岸そこにはアーカイブがずらり。すごい数なんだよね。
Yoshikawaええ。3,000本になると思います。
根岸で、世界的に有名なデザイナーがいきなりぶらりとやってくる(笑)。
根岸これまでに70近いブランドの面倒をみてきたんじゃないかな。
根岸デニムのツラを決める人です。つまり、加工はもちろん、デザインから生産管理まで。要はまるっとつくっているといっても決して大げさではない。生産が始まれば工場につきっきりです。
デニム一本に40枚の仕様書。
Yoshikawa〈ブルーブラッド〉(〈デンハム〉の前身のブランド)からだから、かれこれ20年にはなるんじゃないでしょうか。これだけ続いているのは〈デンハム〉だけです。とにかく、ジェイソンは人として素晴らしい。ぼくのような仕事って仕事として理解してもらいにくいところがあるんですけど、ジェイソンはきちんと敬意を払ってくれた。
Yoshikawaええ。1シーズン40〜50のサンプルをつくりますが、採用されるのは片手で足りますからね。
それは無体な(笑)。しかしよくそれだけのアイデアが出ますね。
Yoshikawaアウトプットに苦しむこともあります。そういうときは旅に出る。ラクダに乗っているときにイメージが浮かんで砂漠の上でスケッチしたこともあります(笑)。
根岸採用が決まってからの修正もすごい。サンプルにガムテープをべたべた貼って、ヒゲ一本にまで指示を入れていきますからね。
Yoshikawaこれをきちんとかたちにしてもらうべく、ぼくはバイブルをつくった。いわゆる仕様書ですね。この「JAL」で仕様書は40枚に上りました。
根岸加工のプロセスもすごいので、聞いてあげてください。
Yoshikawa強い薬品を使えば3日もあれば完成しますが、ぼくは手洗い。「JAF」は40〜50日掛かっています。乾燥も天日干しだから、時間だけじゃなくてスペースも必要になる。工場は嫌がる(笑)。ですが、自然界の力を借りたデニムは10年、20年と穿き続けることができる。インディゴは生きているんです。
Yoshikawaこういう技術は放っておいたら廃れてしまう。廃れたら、二度と再現できません。幸いなことに現場には若い子が増えていて、みなやる気がある。ヤンチャをやった子たちで、燃やしたり、穴を開けたりが性に合っていたらしい(笑)。
Yoshikawaええ。ボディが破れていくのにポリエステルだといつまでも光っていておかしいから。
Yoshikawaオリジナルをつくり始めたのがきっかけです。〈WASHI〉というブランド名の通り、緯糸に和紙を使っています。実は耐久性があり、速乾性があり、体に馴染み、そして自然に優しい。糸で7年、織りで3年の時間を掛けました。〈デンハム〉で使ったこともありますが、一度だけ。その生地は〈WASHI〉のものなので、ナァナァになっちゃいけないって意識がジェイソンにはあったんだと思います。そういう男気がある男です。
圧倒されっぱなしですが、そもそも加工のなにが面白いんでしょうか。
Yoshikawaデニムは生の状態から育てていくのが一番かも知れません。ただ、そんな時間がない人が大勢いるからマーケットが成立する、というのはあります。しかし、それ以上に加工を通してその加工が表現する穿き手の人生を疑似体験することができる──そこに面白さを感じています。
例えば「JGV」。これはアメリカの炭鉱夫をイメージしたもの。彼らは爆弾をデニムに包んで炭鉱に投げ込むんです。バラバラになったデニムを適当に縫い合わせるから上下で生地が違う。これを再現しようと思えば二本分の加工をしなければならない。非常にコストが掛かります。ジェイソンはドロップしたんですが、根岸さんが香港のアトリエでみつけて日の目をみた。
根岸Yoshikawaさんの懐刀たるゆえんは加工だけじゃありません。ディテールのつくりこみも舌を巻きますよ。デニム・オタクが涙を流して喜んだスペックてんこ盛りの「CROSSBACK」やセルヴィッチが10本の糸からなる「FORGE MIJ10YVS」は好例です。
ものづくりの難しさを知りながら、妥協を許さない。
ライセンス・ラインについても聞かせてください。SNSで紹介すると右から左に売れてしまうと聞いています。
根岸誤解がないようにまず最初にいっておきたいんですが、ぼくがつくりたいのはあくまで〈デンハム〉というデニムが生きる脇役としてのアイテムです。日本というマーケットを考えたときに足りないものを足す、という感覚。
瞬殺で売り切れるライセンス・ラインのTシャツ第三弾。いままでのものとはまったく違うパターンが最大のこだわり。残念ながら発売から5日で完売した。
そういう奥ゆかしさから生まれたのが、一ヶ月で4,000ピース完売したパックTですね。
根岸ファーストは高級感を追求した素材を、セカンドは99.9%のアンモニアがカットできる機能がありながらヴィンテージ感たっぷりの素材をピックアップ。第三弾ではドヅメの生地を使いつつ、襟元を詰まりすぎないように少し大きめにつくっています。新品感が気恥ずかしいんで、ぼくはどんな高級ブランドのTシャツでも卸す前に必ず襟を伸ばして着ていたんです。それを縫製の工夫で表現しました。
一昨年の秋リリースした、骨太なものづくりで知られる〈ミノトール〉とのコラボダウン。塩縮ナイロンという紙のような質感をもつシェルが見どころ。この秋にはダウンジャケットの決定版と豪語する一着がリリースされる。気になる方はSNSをチェック!
根岸塩縮ナイロンの風合いが気に入ってつくったのが第一弾。で、みなに焚きつけられて、仕込みに一年かけた新作がこの秋に出ます。ジャケットが自立するくらいダウンを詰め込んだ、史上最強のダウンジャケット。それ以外のファンクションもフルスロットル。一度手に取ったらみんな驚きます。
常識にとらわれずに欲しいモノをつくるという、当たり前だけどなかなかできないことを実現する。カスタマーが飛びつくのもっともですね。