東京芸術祭とは…
2016年から始まった東京芸術祭は、東京芸術劇場をはじめ、数多くの劇場がある池袋で、時には街そのものも舞台に、演劇、ダンス、パフォーマンス、伝統芸能など、多彩なラインナップを展開する都市型総合芸術祭。
『野外劇 三文オペラ』©Kazuyuki Matsumoto
『スモール・メタル・オブジェクツ』 ©Kazuyuki Matsumoto
今年の東京芸術祭のハイライトは、いずれも池袋西口公園で上演する2本の野外劇。イタリア人の演出家コルセッティ氏がオーディションで選んだ日本人キャストで上演する『野外劇 三文オペラ』は、ワンコイン(500円)で観劇できるだけでなく、無料のエリアも用意されている(ワンコインチケットは完売)。同じく西口公園で行われる『スモール・メタル・オブジェクツ』は、知的障がいを持つ6 人の俳優を中心としたオーストラリアの劇団バック・トゥ・バック・シアターによるサイトスペシフィック演劇。観客はヘッドホンを付け、雑踏のなかのどこかで演じている役者の会話劇を聞きながら、極私的なドラマへと誘われる。全31プログラム、述べ100日間をかけて行われる舞台芸術の祭典の詳細はぜひ公式サイトでチェックを。
ニヤカムさんが手がける2公演の仕掛けとは。
まずはニヤカムさんが手がける、東京芸術祭の演目について話してもらい、ニヤカムさんがダンスで表現するもの、ダンスにかける思いについて伺います。
ニヤカムさんが手がけるのは、オーディションで選ばれた静岡の中高生12名によるダンスカンパニー「SPAC-ENFANTS (スパカンファン)」による、『空は翼によって測られる』と、オーディションで選ばれた55歳以上の女性ダンサーと作り上げる『アダルト版 ユメミルチカラ』の2公演です。前者は、自己を形成する過程の只中にいる、思春期の子どもたち。スパカンファンとは、どのようなプロジェクトなのでしょうか。
ニヤカムまず、スパカンファンは13歳から16歳、つまり思春期の子どもたちで、いま自分が何者であるかを探している時期です。そんなこれから自分を形づくっていく子どもたちに、芸術を通して、自分を形づくる要素を提供しているような感じです。思春期というのは自分のことをいろいろ考える時期だし、自信を持てなかったりもする。私は、なるべく子どもたちが自分に自信を持てるように、自分を形づくっていくための元になる材料をたくさん提供しようと思っています。
かたや、55歳以上というのは、すでに人生経験も豊かで、ある意味では出来上がった大人たちですよね。
ニヤカム『空は翼によって測られる』と『アダルト版 ユメミルチカラ』では全くちがう作品だろうと思われるかもしれないのですが、実は同じなんです。とくにダンスの世界では、55歳以上は年齢的にもう終わったと思われがちで、本人たちも、そう思うように強いられてきた世代です。社会がそう思わせていることに対して、まだまだ力もあるし、やれることもいっぱいあって、エネルギーや若さも残っている世代なのだということを伝えたい。
アダルト版の55歳以上の出演者たちもいわば、第二のアイデンティティを形成する時期なのかもしれませんね。
ニヤカム日本の女性は、これまで控えめに暮らしてきましたよね。それは日本文化の持つ魅力であり、素敵なことだと思います。だけど、一方でそこには社会的な抑圧もあるでしょうし、本人は物足りなさも感じているだろうとも思うのです。そうした日常生活のなかでは発散できない部分を芸術の力によって解放し、自由になれることを伝えたい。アダルト版を観ると、いい意味で、とてもびっくりすると思いますよ。
声も身体表現のひとつ。
ワークショップ中に、モトーラさんの表情から、徐々に楽しくなっている様子がわかりました。モトーラさんは、学生時代にヒップホップダンスをやっていたんですよね。
モトーラ小学校から中学生まではスクールに通っていたんですけど、高校は部活だったので先生がいなくて。みんなでチームをつくって、自分たちでどういうダンスをやるのか考えていました。
ニヤカムそれはすごくいいことですね。わたしのコンテンポラリーダンスもまったく同じで、即興で踊ったり、みんなが持ち寄ったりしたものをやるんです。ダンスは一部のエリートのためのものではなく、みんなのもの。それはどの国でも一緒で、祈りや祝祭のために踊るのです。私はダンスをみんなのものとして取り戻したいと思っています。
モトーラさんにとってのダンスとは自己表現なのか、それとも、ただただ踊るのが楽しいだけなのか。どちらなのでしょう?
モトーラもともとカラダを動かすことは好きなんですけど、競って順位を決めるのはあんまり好きじゃなくて。それよりは、自分で体を動かして表現して、発表するほうが好きだったので。それでダンスをやり始めました。
ワークショップでは「声も身体表現のひとつ」というお話もありましたし、ニヤカムさんからも「もっと声を出して」とも言われていましたね。こうやっておはなしをしていても、物静かなタイプなのかなと。
モトーラお芝居やり始めたら、いろんな人から「こういう声だったんだね」って言われるんです。今日、ニヤカムさんに会って声も身体表現の一部だってことをあらためて感じました。でも、今日のワークショップはちょっと恥ずかしかった(笑)。まわりにじっと見られて、ニヤカムさんと二人で踊るという内容だったので。
ニヤカム声を発することで相手にわかることもたくさんあるんですよね。声を出して表現するっていうのは確かに難しいことなので、カラダで自由に表現するほうがやりやすいと思いますよ。
モトーラ演技のお仕事をやり始めたときも、最初はみんなに見られている意識があるので、素の自分から抜けられない部分もあったんですけど……。でも、段々と別人を演じることで自分が抜けて、もっと自由になって、恥ずかしさも忘れてできるようになりました。
ニヤカム文化的な部分も影響しているのですが、日本の方はあまり大きな声ではしゃべらないですし、身体もリラックスしない。でも、わたしのワークショップに参加すると、みんなリラックスできるようになる。それには、(東京芸術祭の総合ディレクターである)宮城さんも驚いていました。
いつもの公園でハプニング的に出会う。
モトーラさんは、演劇や舞台を観に行くことはありますか?
モトーラ数は多くないですけど、ときどき行きます。この前も東京芸術劇場にマームとジプシーの藤田貴大さんが上演台本と演出を手がけた『書を捨てよ町へ出よう』を観に行きました。
じゃあ、東京芸術祭の舞台となる東京芸術劇場や池袋西口公園には行ったことがあるんですね。
モトーラ家から近いので、学生のころは池袋が遊び場所だったんです。西口公園は「いろんなひとがいるなー」ってイメージで、夜にひとりで歩くのはちょっとためらうんですけど(笑)。でも、そんな場所で日本国内や海外から面白いひとたちが集まって演劇やダンスをやるのはいいなって思います。どこかに行くだけじゃなくて、たまたま誰でも自由に観られる公園でも演劇が行われるというのは、面白いなって。
ワンコインのチケットや、無料観覧エリアも用意された野外音楽劇というのは、普段あまり演劇を観ない人にとっても行きやすいですよね。ニヤカムさんの公演も両方とも入場無料で観ることができます。
ニヤカム演劇には舞台は舞台、観客は観客と分ける、あるいは舞台と観客の間にバリアがあるような作品をつくられる方もいますが、私は全部を取っ払ってしまって、一緒にいるような感覚になれる舞台をやりたいと思っています。観客も俳優の一部なんです。
ニヤカムお互いに参加することで観客も生き生きとしてくるし、私は生きている舞台芸術を目指しているんです。
モトーラこの前、赤坂ACTシアターで地球ゴージャスという演劇ユニットのプロデュースするミュージカルを観たんです。すごい長い時間なんですけど、踊ったり歌ったり、最初から最後までアトラクションのなかにいるような感じで。そういうのを間近でみると、やっぱりパワーがすごい伝わってくるし。公演前には試行錯誤しながら作り上げていくわけですし、公演中はエネルギーの要ることを毎日やってるわけじゃないですか。そのエネルギーに感動して、私もやりたいなって。東京芸術祭はなんとなく行くだけでも、そういうパワーのあるものに出会えるのかなって。それって、すごく楽しそうですよね。
東京芸術祭2018
会期:2018(平成30)年9月1日(土)~ 12月9日(日)計100日間
会場:東京芸術劇場、あうるすぽっと(豊島区立舞台芸術交流センター)、池袋西口公園、南池袋公園 ほか
tokyo-festival.jp